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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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エース対エース


 『加速』は使用者の敏捷能力を三倍に上昇させる強力なスキルだ。


 その加速力を以て、冬華へ一瞬にして接近した荒神楓は大剣を片手で振り下ろした。


 ただ、先読みと見切りによってそれを察知していた冬華は、いとも容易く回る様にそれを回避していた。


 更には反撃の一撃までも、そこへ挟み込む。


 それは突き。

 冬華が荒神楓から習い盗った技。


 ただ、それを見て、荒神楓は『加速』による小回りによって大剣を回転させながら滑らせるようにそれを後方へ流す。


 威力を完全に保ったままの突きは、攻撃手段の無くなった冬華の身体を荒神楓の方へ招き入れる。


 荒神楓は、半回転させた大剣の持ち手を下げる事で、アッパーカットの如く大剣の剣先を冬華の顎へ狙い放つ。



 ただし、冬華はそれすらも読んでいた。



 誰が見ても回避も防御も不可能な体勢ながら、冬華には【終構オワリノカマエ】がある。


 ノイズと同時に、冬華の運動量が0に戻りその構えは『抜刀居合』へとなり替わっていた。



「――けど、そこからどうするの?」



 冬華の終構は『構えるまで』のスキルだ、それ以降の運動は冬華自身によって行われ、尚且つ納刀状態の冬華が既に剣を弾きあげている荒神楓と打ち合う事は速度的に不可能かの様に思えた。



「ふっ――」



 だが、冬華の卓越したスキル群は、その相乗効果を増していく。

 木刀に鞘は有らず、であれば抜刀もまた無い。


 冬華の使用したスキルは剣術、回避、受け身、見切り、体術、武術、先読み、水属性魔法の計八つ。

 冬華をここまで強くしたのは、彼女自身の経験倍増さいのうと心さんによる『以心伝心』による楽々後天性スキル習得方法の効果だ。

 だが、それは全て記憶からくる想定のシャドーボクシングでしかない。


 ならば、剣術において自分よりも格上の荒神楓に対して冬華が抱く感情は、何よりも敬意なはずだ。


 だからこそ、その相手から吸収した物による戦闘中における、アーツスキルの習得なんて事を冬華はやってのけた。



 《流転ナガレ

 自分と相手一人の未来を視認し、その通りに幻影の自分を出現させ、同時に幻影が攻撃されるまでの間は自身を透明化する。

 再使用時間、十秒



 未来が見えるのであれば、回避は余裕で、相手は幻影に向かって剣を薙ぐのであれば、そこにカウンターを合わせる事も容易。



 大剣は冬華の『幻影』を切り裂き、冬華が次に現れたのは荒神楓の真横。

 そこから、振るわれるのは一貫して突き。



「やるわね」



 《極光イナビカリ

 自身の速度を十倍にする。

 使用中は酸素の消費量が五倍になる。

 効果時間、任意。

 再使用時間三十秒。



 冬華の凡そ三倍の速度を持つ荒神楓の速度が、更に跳ね上がった。

 加速と重ね掛けは出来ないようだが、それでも十倍はヤバい。



 冬華の突きは軽く避けられ、そこに大剣が右下から掬い上げられるように冬華の腹へ向かう。


 さっき冬華が使ったのは『終構』ではなく、『流転』だった。

 アーツスキルには再使用時間があるが、冬華の『終構』はまだ再使用時間に入ってはいなかった。

 ならばと、冬華は迷うことなくそれを使う。



 《終構オワリノカマエ

 自身の姿勢を強制的に設定された物へ変化させる。

 その時、あらゆる運動量は0になる。

 再使用時間十秒



 だが、その姿勢は居合状態ではない。

 終構は設定した姿勢への強制変換スキルである。

 その、設定は冬華の意思一つで書き換えられる。


 右手に持った木刀を右上に振り上げた姿勢。

 それを振り下ろす事で、振り上げられた大剣と真っ向から打ち合う。



 ――カアァァン!!



 木刀同士がぶつかり合う音が会場を満たす。

 ただし、その重量も速度も剰え魔力ですら、荒神楓のそれは花村冬華の上を行っていた。



 《魔剣士5》

 武器に魔力を纏わせ戦う事ができる。

 これには属性魔力も含まれる。



 冬華の木刀は半ばから折れ、その勢いで腹部に直撃を受けて冬華は吹き飛ばされた。



「っげほ! っげっほ!」



 辛うじて立ち上がった冬華は、しかし武器もなく疲労度も大分溜まっている。



【花村冬華:精神痛覚麻痺:身体異常重症:疲労度62%】



 流石に日本一と言ったところか。

 冬華をここまで追い詰めるとは。



「アクアメディック」



 水が冬華の怪我を包み、その身体を治療していく。



「させると思う?」



 流石に『極光』は解除されているが『加速』は健在。

 その状態で、冬華へ迫られれば、絶対に回復は終わらない。



「グロウアップ」



 土属性魔法。

 それは、木製の道具の形状を自在に変化させる魔法だ。


 木刀の刀身が細身になっていき、その分長くなっていく。



「その重さじゃ、私の剣は受け止め切れないわよ」


「分かってます」



 ――大剣みたいに、重量のある武器は敵を斬るというよりは叩き潰す、吹き飛ばすと言った使い方をする。レイピアは、突きが主体で受け止めるというよりかは受け流す方が主体になる。


 ――全部、分かってます。



 そう言って、冬華は剣先を相手に向ける。



「本当に貴方は生徒として優秀だわ、けどまだ負けてはあげられない。フレイムソード」



 大剣に炎を纏わせ、冬華に振り下ろす。

 腕章など狙ってはいない。

 狙いはただ、相手よりも自分か強いと証明する事のみ。



「視て、感じて、剣を振るい、策を尽くす」



 俺の戦い方、心さんの戦い方、荒神楓自身の戦い方、緑川の戦い方。

 その全てを冬華は吸収していく。


 この世界に存在するあらゆる才能とは、きっと『努力が出来る』という意味に他ならない。



 だとしたら、やはり俺は彼女こそが『最強』であると、言い切れる。



「貴方の探索者としての才能は、確かに私なんかよりよっぽど有るのかもしれない。けれど、今の時点での強さを見れば、強いのは、――まだ私よ!」



 レベル六のスキルが。

 戦闘特化の先天性スキルが。

 何よりも、何年間も蓄積した荒神楓の経験値は、冬華を圧倒的に上回っている。


 だが、以心伝心によって荒神楓の一人称での経験をある程度冬華は持っている。

 そして、今冬華は二人称でその戦闘経験を吸収している。

 戦闘中のスキルレベルの向上。

 相手が、自分よりも格上の相手であるからこその現象。



 後天性スキル

 《回避6》



 『加速』によって三倍速されたスピードで放たれる大剣の一撃を、冬華は最小限の動きで回避した



「光れ」



 『極光イナビカリ』が発動される。

 これによって、荒神楓の戦闘スピードが十倍まで跳ね上がってしまう。

 この速度で冬華が付いていく事が出来ないのは、一つ前の攻防で分かっている。

 だからこその『詰め』なんだろう。


 だがそれは数十秒前の話だ。

 冬華が荒神楓に強さで劣っているとして、追い付くにはどれだけの時間が必要だろうか。


 十年? 一年? 半年? 四半期? 一ヶ月? 一週間? 一日?


 否。


 冬華の才能を見くびるなよ。



「冬華! 【勝て】!!」



 俺は叫ぶ、その声に俺の願いの全てを乗せて。

 冬華の唇の端が上がるのを、俺の観察は捉えた。

 冬華は見れば真似できる。

 なら、荒神楓を越える為に必要なの物は……


 ――テンションだ。



「ありがとう」



 アーツスキル

 《疾風》

 行動速度を十秒間三倍にする。



 更に冬華は、アーツスキルを発現させる。



「どれだけ速くなっても、私の方がまだ三倍は速いわ!」


「だとしても、速さ以上に重要な貴方を、私は知っています」



 三倍速くても、それでも冬華は荒神楓の大剣の一撃を避けたという事実を思い出せ。

 速度差が三倍程度なら、冬華はお前に追いつけるぞ。


 『流転ナガレ』が発動する。

 未来を完全にトレースした幻影が、荒神楓の一撃を受けて消失する。



「その技は、もう見たわ!」



 切り返し、幻影が消えて、本物として出現した冬華の身体に、切り返しの大剣が迫る。



「見える景色以外を視れる人を、私は一人しかしらない」



 幻影を斬ってから現れた冬華に大剣が突き刺さるかに思えたが、しかしその身体を又もや大剣は通過した。



 アーツスキル

 《幻歩》

 自身の幻を生み出し、自身を透明化する。

 効果時間五秒。

 再使用時間五秒。



 冬華の持つ、最後のアーツスキル。

 それを持ってして、荒神楓の完全に意表を突いた。



「腕章、貰います!」



 冬華の木刀が、荒神楓の腕の腕章へ迫る。


 大剣の切り返しによって、完全に体勢を崩した今の荒神楓にもう冬華を止める手立ては無い。



「私を簡単に超えられると思うなよ!!」



 予想は有った。

 予感も有った。


 けど、ここで当たるのかよ。



 後天性スキル

 《大剣術7》



 今その瞬間、荒神楓は進化する。

 冬華が四方八方の伸びる花弁なら、荒神楓は一点のみに伸び続ける針の様な人だ。


 冬華と同等の、『突き詰める』才能。



 大剣を手放し、刀身を蹴り上げる事で冬華の剣と自分の間に無理矢理大剣を持ってくる。


 回転しながら上がって来た大剣を右手で掴み、左手を添えて、押し付けるように大剣を冬華の木刀へ押し当てる。



「それでも私は、貴方を越える!」



 大剣が炎を纏い、荒神楓の両腕が『鋼の身体』の効果で黒く変色しながら高質化していく。



「アクアレイピア!」



 魔法によって、冬華の左手に水のレイピアが出現する。

 それを握りこみ、大剣の上から無理矢理突き通す。



「まだ、よ!」



 荒神楓は右手の高質化を解除し、その分を頭に集中させアクアレイピアを頭突きで崩す。



「沈んでください!!」



 冬華は何度も、アクアレイピアで腕章を狙うが、何度でも荒神楓が頭突いて止める。



「まだ私は沈めないわ!!」


「往生際悪すぎるんですよ! そんなんだから全部一人で抱えるんです!」


「貴方に何が解るというの!?」


「全部知ってる! 青葉が全部教えてくれたから! SS級だか戦略級だか知らないけど、青葉は全部越えられる!」


「無理に決まっているでしょ! 私ですら、あの力の前では赤子同然なの! 護られてばかりの貴方には私の気持ちなんて絶対に分からないわ」


「全然分からないですよ! 青葉も私も諦めていないから!」


「それでも、私には頼れる相手なんて居ないのよ」


「馬鹿ですか! 私も青葉も、白栄のギルドメンバーだって居るでしょ!」


「な……」



 その瞬間、一瞬だけ荒神楓の力が身体から抜けた。

 その隙を冬華は見逃さない。



「これで、終わりです! もう一人で勝手にウジウジ悩んでないで下さいよ!」



 冬華のアクアレイピアが、荒神楓の腕章プライドを切り裂く。



『勝者! 魔王の瞳、花村冬華!!』



 高らかに、司会者がそう宣言する。



「あの二人、大分機密事項とか護る気無いんですけど大丈夫ですかね?」


「まあ、一般人が聞いても分からない内容だしいいんじゃね?」



 緑川は冬華と荒神楓の会話が全国放送されてる事に少し不安らしい。

 まあ、『SS級』とか『戦略級』とか『私でも勝てない』とか言っちゃってるから危ないっちゃ危ないんだが。



「なぁよぉ! なぁにを俺様抜きで楽しそうな事してやがんだ!?」



 冬華と荒神楓の試合終了を見届けていると、筋骨隆々の金髪男が一人の付き人と共に試合会場へ歩いて行っていた。

 筋骨隆々の方も、もう一人の男の方も俺は知っている。


 ただ、もう一人の男、青い制服を着た男は日本人の十人に一人くらいは知っている人物だろう。

 知名度で言えば、赤眼の帳緋色に迫る人物なのだから。


 それは日本五大ギルドの一つ、青轟せいごうギルドの取締役ギルドマスター空巻そらまきけい



 そして、もう一人の筋骨隆々の男は有名人ではないが、俺や緑川はその人物の詳細な情報を知っている。



「やっと出てきましたね、あの癌野郎」



 緑川が嫌悪感を露にして、その男を見た。



「それで、赤宮さん。本当に、あれに勝てるんでしょうね?」


「ああ、今この場所でなら、幾らSS級探索者、『二百階層突破者』だとしても俺の敵じゃない」


「信じていますよ」



 今、世界全土の最高到達階層は大体百八十階層だと言われているが、それは既に『公開』されている情報の中での話だ。

 二百階層以上を既に人類が突破しているという事実を知るのは、多分力を持つ国の有力者だけだろう。


 だがそれも、俺と緑川の情報網を以てすれば、隠せる情報などありはしないが。



 だからこそ、緑川と俺のこの対抗戦での真の狙いは、最初からこの男だった。

 新生国家『ムーン』の日本大使、ケルビン・ヒットレ。

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