それは、現代最強のスキル
問題なく心さんは勝利した。
一回戦にして、俺達の力の一端を見せることができただろう。
これが全国ネットで放送されているのだから、この時点でもギルド『魔王の瞳』はかなり世間の記憶に焼き付いた事だと思う。
ただ、こんなのは前哨戦に過ぎない。
踏み台は用意されている。
後はそれを越えるだけ。
「緑川、勝って来いよ?」
「勝ちますよ。こんなところで負けてなんて居られないのは、僕も一緒ですから」
そんな短い言葉と共に、心さんと入れ替わる様に緑川は試合に向かった。
今回の対戦では、近接武器は木剣を使用する事と流血や致命傷に陥るスキルの使用制限が設けられているため、緑川の武器は錫杖の様な形状で先に丸い輪っかがつけられた杖だった。
ちなみにこれも俺の鑑定で発掘したアーティファクトの一つだ。
「魔王の瞳。次鋒、緑川晴斗」
「赤眼ギルド。次鋒、
緑川の名乗りと同時に、相手選手も名乗りを上げる。
赤眼がこの対抗戦に参加させる探索者だ。
実力は折り紙つきだろうが、悪いがその
「何故、一回戦でそっちの探索者の『影移動』が破られたか分かりますか?」
「知らねえよ。ってか何の話だ?」
「答えは簡単。『魔王の瞳』のギルドマスターの【鑑定】のスキルによって赤眼の情報は全て筒抜けになっているからです」
緑川はまるで吟遊詩人の様に、その種明かしを語る。
それは相手の探索者に向けた物ではなく、カメラの向こうにいる視聴者へ向けての物だ。
俺のスキルがここで世間に露見する。
シナリオ通り、レベルの低い段階で俺の鑑定が世界にバレれば、どんな手段で利用されるか分かった物ではない。
だが、五大ギルドを手に入れる今となっては、その心配は無用と言えるだろう。
だから、ダンジョン関連の事業に携わる人間の注目が集まるこの場所で大々的に宣伝する。
俺のスキルは俺のギルドの特色になる。
それを宣伝する事で日本一のギルドがどこなのか理由付で知らせてやろうって算段。
だから悪いが、赤嶺って探索者にはその礎になって貰う事にした。
「つまり、貴方の情報も筒抜けであるという事です。赤嶺奉時、到達階層は約百三十階層、先天性スキルは『焔胞子』、発火性の塵を飛ばすスキルです。後天性スキルには近接戦闘を有利に運べるスキルが揃っている。『体術』『剣術』『盾術』。ええ壁役としてそこそこ有能な探索者と言えるでしょう。けれど、それが全てバレている状態で、僕に歯向かえるでしょうか?」
赤眼の出場探索者は昨日の段階で全て割れている。
昨日俺は、その五人全てのステータスの鑑定を終わらせている。
先天性スキルも後天性スキルも、ステータス傾向も得意魔法も、全部筒抜けだ。
「テメェ、黙りやがれよ。それ以上の俺の事をペラペラ喋りやがったら、ぶっ殺してやる!」
その激情は、情報の信憑性を増幅させる。
本当に、贄としては一級品のギルドで助かるよ。
「それじゃあ、始めましょうか?」
「望むところだ」
開始の合図を視界の男が上げる。
それと同時に、スピーカーから鐘の音の様な音が鳴った。
「灰燼と成り果てろ」
そんな言葉と同時に、炎の塵が巻き起こる。
それに触れれば、塵は小さな爆発を起こすだろう。
一発一発は大した威力ではないだろうが、連鎖的に発生する爆発を受け続ければ腕章を燃やされてゲームオーバーだ。
だが、俺には確信がある。
緑川晴斗は絶対に負けないと。
俺は探索者の中で最も大きな才能を持つのは、冬華だと思っている。
だが、それは先天性スキルと冬華自身の性質の相乗効果によるものだ。
仮に、先天性スキルだけで比べた場合、『最強の名を欲しいままにする』のは、間違いなくこの男だ。
「――咲き散れ、雷撃」
何のことは無い。
現代最強の能力があるとするなら、それは間違いなくこの力なのだから。
【
緑川晴斗
レベル13
破壊力1580 (E
耐久力1840 (D
敏捷力1840 (D
精神力2620 (A
感覚力2880 (S
炎24 (E
水50 (C
風50 (C
土89 (S
先天性スキル
《電気操作》
後天性スキル
《回避5》《観察4》《体術4》《剣術2》《炎属性魔法2》《水属性魔法5》《風属性魔法5》《土属性魔法8》
】
それが、緑川晴斗の才能。
この世で雷を操るという能力の意味は、計り知れない。
情報戦、対人、対モンスター、どれをとっても緑川晴斗の強さには弱みが無い。
それこそが、俺がこいつを引き入れたいと強く願った理由。
俺と緑川が手を組めば勝てない相手など存在しない。
とさえ思わせるほどの、驚異的な異能の力。
錫杖の先端から発生した雷は、炎の塵を爆裂させながら突き進む。
塵芥の爆発では、その雷を止めるには至らず、更に追加で発生し続ける雷は、錫杖『雷之方』の効果によって緑川の自在に飛び散る。
腕章を狙って放たれ続ける雷の嵐に、相手の探索者は回避すらままならない。
「腕章狙いなんて、誰も言ってないですから」
「は……?」
勝利条件は、腕章を切り裂いて腕から落とす事、降参の宣言を相手にさせる事、そして最後に相手の探索者を『気絶』させる事だ。
「うっ、あばばばば!」
腕章を庇っていた相手は、通り過ぎた雷の一つがUターンして戻ってきている事に気が付けない。
その雷撃をモロに受けた男は、感電によって気絶した。
流石と言うべきか、電撃の力加減は完璧で丁度探索者を気絶させるだけで肉体へのダメージは殆ど与えていなかった。
これが、若干十九歳にして日本五大ギルドの中の一つで頂点に座る男の力。
圧倒的な『情報収集能力』と圧倒的な『制圧力』を併せ持ち、そして日本を強くするという普通なら絶対に抱かないような高い理想を持った男。
翠涙ギルドはダンジョンが出来てから五年後に設立されたギルドだ。
元々は、緑川の親父さんが経営していたらしいがそれを譲ったという形だ。
だが、この話は一部違う。
親父さんは実質的に何もしていない。
親父さんがしていた事と言えば、緑川の言った通りに書類に印鑑とサインをしていただけだ。
つまりこいつは、中坊の時から五大ギルドを影で操っていたという事に他ならない。
何がこいつをそこまで突き動かすのか、俺がそれを知る由は無いが、けれどこいつの覚悟と理想は本物だ。
だから、俺は最初からこいつが負けるとは微塵も思っていなかった。
「二回戦に勝利したのも、なんと! 魔王の瞳陣営だぁあああ!!」
その宣言と同時に、緑川晴斗がガッツポーズをとった。
後一勝。
そして三回戦は、――冬華の番だ。