自分の道は自分で拓きます
「緑川、ここで最後だっけ?」
「そうですよ。ってか、僕一応五大ギルドの
「奇遇だな。俺も今日、その五大ギルドのマスターになるんだよ」
「はぁ……っていうか時間がまずいですよ、そろそろ試合開始の時間です」
「大丈夫だって、どうせうちの先鋒は心さんだから」
「花村さんはともかくとしても、帳心さんはそんなに戦闘が得意な訳じゃないんじゃないですか?」
「まあ、データしか見てないお前はそう思うかもしれないけど、大丈夫あの人は相当強いよ」
「そうですか。貴方がそう言うなら信じますけど」
「俺は心さんが負けるならこっちの負けでさえ良いと思う。それだけ、あの人が負けるって言うのは考えられないって事だ」
「なるほど」
時刻は午後六時五一分。
試合開始が七時だったはずだから、今からダッシュで行かないと間に合わない。
俺と緑川は行くところがあってギリギリの時間になってしまっていた。
ただ、冬華と心さんは既に会場に居るはずだから、二回戦に間に合えばそれでいい。
一回戦の相手は確か不動雷斗とかいう会談に来ていた探索者だったな、正直言ってあんなのに負ける訳がない。
(青葉君? まだ来てないみたいだけど大丈夫?)
(あ、心さん今から向かうんで出来るだけ試合時間引き延ばして貰ってもいいですか?)
(はぁ、仕方ないわね。緑川君も一緒でしょ? 出来るだけ稼ぐけど、早く来なさいよ)
(了解)
以心伝心便利だな。
電話料金が浮いた。
あれ、一気に便利感が抜けた気がする。
「何考え込んでるんですか、タクシー拾ったんで早く行きますよ!」
「お、おお。悪い悪い」
結局、それから二十分程で会場に到着する事が出来た。
「あ、青葉、こっちだよー!」
会場に入ると、ギャラリー席とは違う俺たちの専用席で冬華が手を振っていた。
ギャラリー席は一応あるだけで観客は入っていない。
万が一探索者のスキルや魔法が飛んでいくと危険だからな。
それとそこには、副将として登録されている斎藤さんも居た。
斎藤さんは無口な人で、俺は声を一度も聞いたことが無い。
今も冬華の隣で腕を組んで試合を眺めているだけだ。
「試合はどうなってる?」
「普通に見たら心さんの防戦一方だけど、私からしたら心さんが遊んでるだけで面白くない」
それが冬華による試合の評価だった。
まあ、そうなるよな。
(着きましたよ、心さん)
(もう、勝っちゃっていいの?)
(もちです)
(青葉君、ありがとう。私を先鋒にしてくれて)
(え?)
(だって私自身に道を切り拓かせる為に、この順番にしてくれたんでしょ? 本当にありがとう)
帳心の目的は、姉を越える事。
それは、探索者の経営者として成功している帳緋色を越えるという事だ。
その為には、最低でも五大ギルドに属する必要がありそのトップとも言える地位に就く必要がある。
ただ、今ここまで進展してしまえばその方法は単純で明快になっている。
この試合に勝てば赤眼はうちの傘下だ。
それは、地位という面で帳心は帳緋色を越えるという事。
そこに手を伸ばす最初の一本指に、俺が彼女を指名した事に感謝しているのだろう。
分かってる。
そりゃそうだ。
誰だって、自分の夢は自分の手で叶えたいと望む物。
なら、俺の返事ももう決まっている。
(貴方の夢を叶えるのは俺の仕事です。けど、貴方の夢はやっぱり貴方の手で叶えるべきだと思うんで。だから見せてくださいよ、今の貴方の本気を)
(了解したわ、
帳心は接近戦闘型の探索者ではない。
証拠に、その武器は一冊の本だった。
それはダンジョンから発見された
ただ、ダンジョンアイテムの中には使用用途の分からない物が結構多い。
それを俺の鑑定を使ってみていると心さんにピッタリの武装を見つける事が出来た。
それがあの本だ。
『魔封典』
その効果は、魔法を封印する事で同時に多数の魔法を発動する事が出来るという物。
この武装は彼女の先天性スキルと非常に相性がいい。
心さんはその本を腰のケースから取り出し、広げた。
不動雷斗は、彼女が初めて見せた構えと呼べる物に警戒を示したように少し距離を開けた。
ただし、それは事彼女を相手にする場合に限っては悪手でしかない。
「――アクアランス」
心さんの発動させた魔法は水の槍を生み出し投擲する魔法。
ただし、その数が尋常ではない。
『観察』によって向上した俺の動体視力と計測能力はその数を正確に捉えている。
「なっ!」
空を埋める程の水の槍、計五十本。
心さんのステータスは精神力Sという非常に優秀な物だ。
この精神力という数値は何かと言うと、ゲームで言う
十二という数値までレベルアップし、成長率Sを持つ彼女の今の
それを最大限発揮するための本型の武具。
現状、彼女の制圧力は冬華すら越えている可能性すら持っている。
「冬華だったら、あれどうやって捌く?」
「うーん。水魔法の耐性つけて、ダメージ覚悟で全部斬り伏せに行くしかないかな」
冬華ですら、ノーダメージはきついのだ。
あの男が全て捌けるとは思えない。
「悪いけど、それは俺と相性が悪い」
ただ、そんな言葉を残して不動雷斗は一瞬で姿を消した。
そう、彼には『影移動』の先天性スキルがある。
それがあれば、彼女の弾幕から逃れる事も可能だろう。
不動雷斗の移動先は、心さんの影。
つまり、完全な死角となる背後への高速移動こそがあいつのスキルって事なんだろう。
確かに強力だ。
――けど、お前等全員うちのギルド舐めすぎ。
「悪いわね。それは『知っている』の」
『鑑定』ってどういう意味か分かってるか?
お前らの力なんて全部筒抜けって事だ。
心さんが操作する水の槍が、その死角であるはずの背後、不動雷斗に向かって加速しながら突き進んでいく。
「なんでこっちに!?」
即座に不動は影にもう一度潜った。
しかしその移動先、顔を出す場所はどれだけ心さんの背後を取っていようが悉くが露見し、水の槍が降り注ぐ。
受ける側からしたら、まるで目が後ろにもついている、もしくは未来が見えているのかとでも錯覚してしまうだろう。
ただ、どちらとも答えとは近からず。
心さんは『以心伝心』を持っている。
俺達は試合場が全て見える様な場所に腰を据えている。
そして、心さんは既に三つの視界までなら『同時に視ながら』戦えるように訓練している。
俺たちがここに陣取っている限り、心さんに死角など存在しない。
「私にも負けられない理由、――矜恃って物があるの。だからごめんなさい、そろそろ決めるわ。【魔混】」
それが、帳心の持つアーツスキル。
魔法と魔法を合成する事で、二属性以上の属性を同時に持った魔法を繰り出す事が可能な技。
「フォースフィールド」
水と風の膜が、不動を囲むように展開する。
噴水の様に半球型に展開された水、更に風でコーティングされたそれは、あらゆる物質を外へ逃がさない結界を作り出す。
更に、結界内に巨大な炎が出現し、その炎はどんどん酸素を奪っていく。
最後の駄目押し、影に入っている不動に対して土属性魔法によって地面を抉るように隆起させる。
不動の『影移動』は影に触れている事が発動条件で、打ち上げられた状態ではそのスキルを発動することはできない。
つまり、今の不動は完全に逃げ場を失い、更に炎と結界によって酸欠状態。
「アクアランス」
駄目押しとばかりに、心さんは巨大なアクアランスを四本、結界を囲むように空中へ滞空させた。
「こ、降参です!!」
それを見た不動は、手と首をブンブンと横へ振ってそう叫んだ。
この試合の敗北条件は三つある、気絶、降参、腕章への攻撃。
今回は二番目、相手の降参によってこっちの勝ちだ。
「なななんと! 一回戦は新進気鋭のギルド『魔王の瞳』の勝利だぁ!」
昨日見たディレクターだかプロデューサーだと思っていた人は、何故か実況席に座り対抗戦を熱く実況していた。
もしかして司会者だったのか?