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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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打ち合わせ


「それで、人数は集まったんか?」



 事前打ち合わせ。

 結局、生放送には了承頂いて、その昨日に当たる今日、事前に流れの確認、俗にリハーサルと呼ばれるそれを行うと呼び出されたのだ。


 舞台はテレビ局が所有するグラウンド。

 多分、三百メートル四方くらいあるんじゃないだろうか。


 試合のルールは単純で、一対一を五回行って先に三回勝った方の勝ち。



「あたりまえだろ」



 相手は十近く年上だが、悪いが悪意と害意しか持っていない敵に払う敬意など持ち合わせていない。



「それより、キチンとお前の口から賭ける物を提示しろよ?」


「ガキ……。ええやろ、賭けるもんは互いのギルドの取締役任命権。勿論、これは法的な契約書も結んで行うかんな?」


「当たり前だ。そっちが逃げないようにしとかないとな」



 法律なんて俺は知らない。

 けど、心さんが言うにはその契約は可能らしく、事前に見せられた契約書にも相違ない内容が書かれていたと言っていた。

 つまり、正真正銘、この戦いはギルドの全てを賭けた戦いだ。



「そうですか? そしたら、メンバーの紹介と行きましょか?」



 もう俺の煽りに反応するのも馬鹿らしくなったのか、赤眼ギルドのマスター帳緋色は、控えていた五人の探索者を前に出した。



「ええっと、赤眼ギルドからは、先鋒が不動雷斗……次鋒……」



 テレビ局のプロデューサーかディレクターか知らないが、そんな感じの職業の人が順番に出場探索者を発表していく。



「――最後は大将に荒神楓……、って荒神楓!?」



 やってくれんじゃん。

 相手メンバーの最後の一人は、どう見ても日本一の探索者様に他ならなかった。

 凛とした瞳と堂々としたその態度は、間違いなく俺が踏み台にするべき女その者だった。



「よろしくね。一時的にだけど赤眼ギルドの所属という事になっているわ」


こすいっすね。けど、いいんですか? 三本先取なら、中堅辺りにしといた方がいいと思いますけど、順番回ってこないっすよ?」


「いいのよ。これが私に出来る礼儀だから」


「手を抜く事が礼儀?」


「ええ、そうよ」



 そうやら、どういう事なのかを説明してくれる気はなさそうだ。

 大方、赤眼ギルドをたきつけた事への礼儀って所だろうか。



「驚きましたね。まさか、日本一の探索者が参加してくださるとは……」


「なんかまずいんか?」


「いえいえ、テレビ局(うち)的には盛り上がるなら大歓迎なんで」


「それじゃあ、良かったっすね……うちにも居るんで、ピンチヒッターが」


「はぁ、そうですね。……って、はぁ!?」



 荒神楓が出場者になってる事を驚いていたなら、こっちの出場者メンツも把握してなかったのだろう。

 こっちの探索者が明記されているであろう名簿に視線を落としたテレビ局の男は、驚愕の声を上げた。



「なに? はよ、読み上げんな?」


「は、はい。先鋒帳心、次鋒……緑川晴斗、中堅花村冬華、副将斎藤明(さいとうあきら)、大将赤宮青葉」


「緑川晴斗やって!?」


「はい。緋色さん、明日はよろしくお願いします」



 斎藤は翠涙ギルドのトップ探索者らしい。

 今日の為に一人見繕ってくれと言ったら、まさかギルドで一番の探索者を貸し出してくれた。

 翠涙ギルドの取締役を一時的に辞めている訳ではなく、副業でうちの会社ギルドとも契約を結んでいる状態だ。



「まさか、白栄のマスターを呼んどいて、卑怯とか言言いませんよね?」



 緑川がにこやかに笑いながら、帳緋色を煽る様にそう聞いていた。

 普通に性格が悪いんだが?

 なんか、ここまで来ると相手が可哀そうになって来たな。

 勝ち抜き戦なら冬華一人で勝てるのに、三本先取だからなそうもいかない。



「そっちに着いたこと後悔させたるわ」


「しませんよ。赤眼は勝てませんから」



 緑川晴斗は、最初は俺の提案に難色を示していた。

 けれど、それを粉砕するだけの手駒とうかが俺には有った。

 取締役ギルドマスターと探索者を兼任しているこの男は冬華を一目見ただけで、その戦闘能力を正確に読み取った。

 要するに『誰が日本で一番強いのか』、今の緑川晴斗は知ってる。


 それを知って俺たちと敵対するなんてのは馬鹿の考えだ。


 緑川は俺にとって非常に有用なスキルを持っている。

 優先度は冬華や心さんには及ばないまでも、緑川の力があれば俺の鑑定は使用用途を飛躍的に向上させる。

 それだけで緑川を引き入れる価値はあるという物だ。



 ――さぁまずは、この国の天下を貰いに行こうか?



 それから、幾つかの説明をテレビ局の、大原さんだかに受けてその日は解散となった。


 流石に、ここから更に卑怯な罠を仕掛けてくるのは時間的に厳しいだろうし、それならもっと早くやっている。

 今日はよく眠れそうだ。



「駄目ですよ。ちゃんと警備はしときましょう」



 と緑川に言われ、Aランク数十人とSランク数名がうちのオフィスとなっているマンションの警備に着く事になったので、もっと安心して眠れそうだ。



「それと、件の話ちゃんと約束してくださいね」


「分かってるって」



 緑川も出場メンバーは団体行動していた方が何かと都合が良いだろうという理由の元、今日だけはうちのマンションの一室で寝泊まりしている。

 夜の軽いミーティングの後、緑川は俺にそんな念押しをしてきた。


 緑川晴斗を含めた翠涙ギルドの力を借りる事の条件。

 勿論冬華の事はある。

 幾ら取締役任命権を赤眼にとられたとしても、それ以外の条件、冬華は簡単に退社する事が出来る。

 つまり、最初の赤眼や白栄に協力するという方法では冬華の協力を取り付ける事はできないという話だ。


 まあ、契約書によって俺は最低でも二年はこの会社に残らないといけないって事になってるんだけどな。

 そしたら多分冬華はついてくるけれど、それを緑川が知る由はない。


 冬華の事を抜きにしても、緑川の提示した条件はもう一つあった。

 それは『世界三大ギルドと肩を並べるギルドになる事』。


 アメリカ、中国、そして五年ほど前に新しく出来上がった新生国家『ムーン』。

 これが世界三大ギルドの保有国だ。


 緑川晴斗は、本気で世界と戦えるギルドを求めている。

 政治家みたいな、いやそれよりももっと自国を重んじてる奴だ。



「心配すんなよ。どうせ、そうするしかないんだから」



 世界三大ギルドでも、公表している最高到達階層は二百を少し超えた程度。

 俺が目指しているのは最低でも五百階層だ。

 どうせ、世界一のギルドになるしか道はない。



「――期待してますよ?」


「――存分にしてくれ」


「ええ、それじゃあ取り敢えず、明日は勝ちます」



 決定事項の様に、緑川は俺にそう語る。

 こいつは俺と同じ、情報戦に生きるタイプだ。

 だからこそ、出来るか出来ないかの二択しか無く、事前にそれを察知する事に長けている。

 そして、俺も緑川も明日は勝てると確信している。


 何故なら、俺の目的も緑川の目的も、こんなところで躓いていられるような物じゃないんだから。


 全く、これがほぼタメで、俺と違って誰かに脅されてる訳でもないとか恐れ入る話だ。

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