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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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宣戦布告



 今日、俺はオフィスを手に入れた。

 マンション一戸建て、ワンフロアどころか高層マンションその物が俺の所有物となってしまった。

 元々は、三人しかいないギルドだしワンフロアどころか一部屋でもあれば十分だと思っていたが、心さんに『オフィスは高いビルが良いっすね』的な事を言ってたら、ここになった。


 階が高く、そのワンフロアか一部屋という注文をしたつもりだったのだが、心さんにここへ連れられて、なんでマンション丸ごとうちの会社の名義になってるのか聞いたら、『え、だって値段が高いビルのオフィスって言ってなかった?』と真顔で返されてしまった。


 総額五億。

 どこからそんな金が出されたのかなんて明白。

 冬華が毎日毎日稼ぎ続ける数千万単位の利益からだ。

 その半分が会社の資金になっている。


 うちの資金って今いくらあるのか俺は把握してなかったけど、この前到達階層が百を超えてから一気に利益は膨れ上がった。

 百階層以降へ行けるのはSランク探索者だけなんだから、その素材の価値はそれ以下の階層の敵の比ではない。


 一度の探索で億へ行く事も最近は珍しくなくなった。

 そもそも、百階層以降を単独で独歩できるのなんて冬華を除けば海外の一流探索者か、日本では荒神楓くらいの物だろう。

 普通なら、Sランク五名以上での探索が基本となる所を俺たちはたった三人の労力で踏破できている。


 そこから産出される利益は途方もない。



 俺たち三人は、このマンションに自室を持つ事になった。

 心さんなんかは、元々住んでいた賃貸を解約して完全にこのマンションに住むことにしたらしい。



「改築は既に済んでいます。必要な部屋、応接室や資料室も用意しましたし、維持に必要な人間も既に雇っています。人件費含めて月五十万程度の維持費なので、そこまで大きな出費ではないですね」



 仕事中の心さんは何かかっこいいな。

 そんな感想を抱きながら、彼女の説明を聞いていた。


 すると、内線電話が鳴った。



「どうやら来たみたいですね……」


「みたいだな」



 舐められたままじゃ困るっていう俺の自分勝手な理由ではあるが、俺が相手の会社ギルドに出向いてやるなんて冗談じゃない。

 『テメェが来い』という内容の文章を心さんに赤眼ギルド宛てに送ってもらっていた。


 その日時が今日だって事だ。

 勿論、一ヶ月後を予定していた話し合いにはまだ時間があるが、事前に話しておくこともあるだろう。

 もしかしたら、吸収なんて舐めた話は取り下げるかもしれないしな。


 という建前の元、俺が今回向こうの代表を呼んだのは『宣戦布告』の為だ。


 応接室に移動し、扉が開かれるのを待つ事数分、三人の人物が俺の目の前に現れた。

 こっちも三人だから丁度いい。



「ほんま、私を呼び出すなんて、偉いもんやねぇ? いつからあんた、そんな偉くなったやね?」



 そう言って心さんを睨みつけながら、背の低い女性がヒールをカツカツと鳴らして部屋に入ってくる。

 ただ心さんが、それに何かを返す事は無い。

 その女の名は帳緋色、心さんの姉にして俺たちを傘下にしようとしている赤眼ギルドの代表だ。

 更に後ろに並ぶのは、スーツ服の男と私服の男。



「知っとると思うけど、私は帳緋色。『赤眼せきがんギルド』のトップのもんや」


「俺は、ギルド『魔王の瞳』の代表、赤宮青葉です。よろしく」



 今まで、俺は黒目のカラーコンタクトを付けていた。

 ただ、今はもうつけていない。

 それは隠す事を止めたぞという表れだ。


 その魔王の瞳と天王の瞳で、彼女を睨みつける。

 それを受けて、帳緋色も俺を睨み返してきた。


 その静寂を破ったのは心さんだった。



「帳社長、どうぞお座りください」


「おおきに」



 帳緋色が席に着くと、後ろに控えていた二人の男の紹介を始めた。



「こっちはうちの顧問弁護士先生で、もう一人はうちの探索者の中でも随一の強さを持った探索者。よしなにしてあげてな?」


「赤眼ギルドの専属弁護士をさせて頂いております。清水新しみずあらたと申します」


「赤眼ギルドの探索者部部長、不動雷斗ふどうらいとといいます。よろしく」



 探索者部部長ね。

 ここに連れて来るって事は実力もそこそこの物を持っているのだろう。

 取り敢えず、鑑定しとくか。





 不動雷斗


 レベル13


 破壊力2180 (C

 耐久力1920 (D

 敏捷力2440 (B

 精神力1660 (E

 感覚力1920 (D


 炎31 (E

 水57 (B

 風31 (E

 土31 (E


 先天性スキル

 《影移動》


 後天性スキル

 《暗殺者5》《頑丈4》《俊敏4》《炎属性魔法3》《水属性魔法5》《風属性魔法3》《土属性魔法3》





 他の普通の探索者と変わらない。

 成長率の悉くが低いゴミステータス。

 確かに先天性スキルは優秀そうな名前をしているが、それでも単純な火力で言えば荒神楓の方が上だろう。

 こいつの優れた点は敏捷値くらいだが、それだって冬華や俺に比べれば既に劣っている。


 後天性スキルは属性魔法を抜けば、三つ。

 確かにスキルレベルは総じて高いが、冬華と比べれば劣化も良いとこだ。



「それで、今回私らを呼び出したんは、いいお返事が聞けるからでっしゃろうな?」


「そんな訳ないでしょう?」



 暗に、吸収合併の話の同意するんだよな? と聞いて来た彼女の言葉に俺は即座に否定を示す。

 そうすると、席に腰を据える直前同様に俺を強烈に睨みつけてくる。



「じゃあ、私らを呼び出した理由はなんでっしゃろうか?」


「そうっすね、まずあの提案は受け入れないという意思表明。そして、戦争したいなら買ってやるっていう宣戦布告ですね」


「私らに勝てるつもり?」


「うっ……」



 それと同時に、一般人に向けるには有り得ない殺気、魔力すら籠っているそれを俺たちに不動雷斗がぶつけてくる。

 良かったよ、心さんをレベル10までパワーレベリングしといて。

 てか、そっちの弁護士の人とか普通に苦しそうなんだけど大丈夫か?


 そんなんじゃ、この威圧に耐えられないぞ?



「はっ、冬華?」


「はい、社長」



 カン!

 それは、刀を治めた鞘で地面を突いた音。

 それと同時に、相手の探索者のそれとは比べ物にならない規模の威圧が放たれる。



「なっ!」


「「……」」



 Sランクであろう探索者ですら、その威圧に恐怖めいた表情を浮かべ、探索者ですらない二人は今にも気絶してしまいそうなほど顔を青ざめさせていた。



「黙るなら、最初から狡い事やってんじゃねぇよ。冬華、」


「はい」


「「ハッ」」



 冬華が威圧を止めると、思い出したかのように帳緋色と弁護士の男は息を吸い込んだ。



「それで、どうすんだ? 戦争するなら、最高額で買ってやる。けどもしも、そっちが頭下げて傘下に加えてくれって頼み込んでくれんなら、下請けにしてもいいんだぜ、なあ?」



 煽れるだけ煽れ。

 そうすれば、五大ギルドなんて看板を背負ってるこいつらは逃げられなくなるのだから。



「あんさん、その自信どっから来るん? 確かに、その子の力は強いかもしれへんけど、私んとこのギルドのSランクは二十人はおる事知らへん訳じゃないでっしゃろ? それ以下の探索者も山の様におる、本当に勝てるつもり?」


「勘違いすんなよ? 赤眼の雑魚探索者なんて何人集めようが関係ねえんだよ。うちは別に上場企業って訳じゃねえ、資金力が関係ねえなら負けるのはお前等だ」


「なんの根拠があってそないな事……」


「馬鹿かあんた? その根拠が欲しくて、あんたらはうちのギルドを傘下にしてぇんだろうが」


「鑑定でっしゃろ? それでも人数差を引っ繰り返せるなんて……」


「そうだ、ひっくり返せるって言ってんだ。それと白栄から何言われたか知らねえけど、鑑定使いは俺自身だし、鑑定内容はそっちが考えている以上に多い。俺は、うちの戦力とそっちの戦力をキッチリ『鑑定』して勝てるって言ってんだよ。そっちこそ、何の根拠があって魔王の瞳(うち)に勝てると思ってんだ?」



 帳緋色は押し黙る。

 俺にしか見えていない世界がある。

 それを知らない自分達では、俺に何を言っても俺以下の低次元の情報戦でしかないと理解したからだ。

 情報を制する者が強いのであれば、俺が最強なのは明白。


 そして、冬華と心さんを手に入れた今の俺に勝てるギルドは日本には無いと断言できる。

 成長率じゃなく、今の現戦力として。



「そうまで言われしまったら、こっちも引くに引けませんわ。その言葉、後悔せんようにな」


「ああ、後次からはうちのギルド員に個人的に話をギルドの通すのは止めてくれよ? 次頭下げに来る時はキチンと自分の顔でアポを取ってきな」


「ええわ、そこまで言うならお手並み拝見と行きましょう? けど小僧……、私らはこれでも日本の五大ギルドや、それを思い知らされんように心しときなさいな」



 赤眼ギルドの三人は、そんな言葉を落として帰っていった。


 まあ、ガキって言葉に異存はねえよ。

 薄汚ねぇ大人よりよっぽどマシだから。


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