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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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裏切り


 悩み、もしくは願い、否目標と言い換えてもいいのかもしれない。

 他の何よりもそれを望んだ、それだけの為に生きて来たと言っても正しいかもしれない。



 生まれてこの方、成功と言う体験をした事が無い。

 何があっても目標の一歩手前で歩みを止めてしまう。


 それが彼女の話の導入だった。


 弁護士資格持ってて大学出てる人が何を言っているのかと思ったが、彼女の疲労ストレスの原因を聞けば、それは少しは納得できた。



「私には二つ離れた姉が居ます」



 名前は帳緋色(ひいろ)

 ただ、血の繋がりは半分しかない。

 父親が同じだけで、二人は別の母親から生まれたらしい。


 ぽつりぽつりと心さんは、俺に彼女が抱える悩みの種を打ち明けてくれた。


 帳緋色の名前は俺でも知っている。

 何故なら彼女は日本五大ギルドの赤眼ギルドの代表取締役として、日本で荒神楓の次程度には有名だからだ。


 随分長い事、心さんと帳緋色は接点無く生活していたようだが、最近になって赤眼ギルドから連絡があったらしい。

 内容は相当簡単にするとこういう物。



『鑑定スキルを持っている人間のギルドに居る事は分かっている。その人物を渡せば、良いポストで心さんを迎えれるが、もしも要望が叶わないようなら、魔王の瞳(うち)を潰しにかかる』



 舐めているとしか言いようがない。

 そりゃ、このギルドはたった1ヶ月前に出来たまだまだ何の実績もないギルドだろうよ。

 五大ギルドなんて看板を持っている相手に目を付けられちゃ、手立てはない。


 ――とでも思ってるんだろうよ?



 どこの誰に喧嘩を売ってるのか、キッチリ分からせてやる。



「そう言ったら、みっともなく世間も知らないガキの悪あがきだって、そう思うか?」


「いいえ、私はもうどこの誰に味方するのか決めているから」


「え、ならなんで話してくれなかったんすか?」


「話すつもりはあったのよ、けど君が先に辿り着いただけで。一ヶ月後、赤眼ギルドとの話し合いの席を設けているわ。それまでにレベルアップして、赤眼ギルドを黙らせられる所まで。これが決まったのが昨日だから、今日言おうと思ってたんだよね」


「なるほど。そして了解」



 ま、俺じゃなくて冬華が頑張るんですけどね。

 しかし、俺も少し根回しはしておくか。




 ◆◇




 冬華に心さんと一緒に、事の次第を伝えると彼女は快く承諾してくれた。

 心さんのお願いだから難色を示されるかと思っていたが、どんな風の吹き回しだろうか。


 それを聞いたところ、



「だって、私の青葉を盗ろうとするなんて許せない」



 という言葉を頂いた。

 意見の一致という奴だろうか。




 その後、白栄ギルドにも頼ろうかと思ってギルド本部へ向かった。



「悪いわね、その件だったら私たちは手伝えないわ。だって、赤眼ギルドに話を通したの私だもの」



 そんな驚愕の事実を荒神楓は口にした。

 俺は押し黙る、だとするとこの人は敵って事になる。

 なら、今この瞬間強硬策に出て誘拐でもされればシャレにならない。



「ギルド事吸収合併の話が出れば、貴方の後ろにいる団体か個人か、出て来るかもしれないでしょ?」


「ああ、そう言う事か」



 要するに、この白栄ってギルドは俺たちと赤眼を争わせて漁夫の利を狙ってる訳だ。



「でも、それ俺に言っちゃったらもう鑑定の力貸せませんよ?」


「大丈夫、今までの情報でステータスの計算式は出せてるから。それにスキルを測る測定方法も確立した。正直、もう未知のスキルに対して位しか『鑑定の使い道は無い』の」


「そうですか。なら、俺たち魔王の瞳は白栄も敵と認識します」


「どうぞご自由に、日本最大ギルドと敵対して被害を被るのは貴方たちの方よ」


「そっすか。けど、誰も鑑定できるのが『たったあれだけ』なんて言ってないって事分かってますか?」


「――! それって……どういう……」


「言う訳ないでしょ。あんたは敵だ」



 属性情報も、アーツスキルの存在も、スキルレベルすら、お前達は知らない。

 そして何より、冬華と心さんの先天性スキルの効果も。

 心さんのスキルは見せているが、能力の詳細は話していないし、伝えたいと思った光景を彼女に伝えられる程度にしか知らないはずだ。

 察せたとしてももう遅い。



「けど……お国柄っすか? 好きじゃないやり方だ」



 白栄ギルドは他の五大ギルドと違って、元は国が運営していたギルドだった。

 民営化した事で彼女は代表という事になったが、荒神楓は元々大臣の一人だった。

 今でも強く国と癒着していても何の不思議もない。

 正直、白栄ギルドの規模を考えれば今喧嘩をしても、人数でも規模でも資金力でも勝てない。


 だが、それは今の話であって、一ヶ月後の話じゃない。



「悪いわね。けど、私はこんなやり方しか知らないの」


「そっすか。それと最後に一つ、あの夜琵さんって人の次に監視で来てたら返り討ちにするんで、もう寄こさないで下さいね」



 観察の実験をしていてたまたま見つけたのだが、カメラと録音には気を付けていたので音声は聞かれていないだろう。

 出来ても窓から中を覗く程度だ。


 その程度の監視だったら何も問題は無い。


 『気が付いているぞ』と彼女へ釘を指せる手札にするためにとっていたカードの一つ。



「ええ、そうね。分かったわ」



 見て取れるほどの動揺を見せ、彼女は少し後ずさった。



「俺たちを敵に回したこと、精々後悔してくださいね」



 俺たちは世界最強ギルドを目指している。

 こんな日本で五つも同列がいるギルド共くらい、難なく相手に出来るようになってやるよ。


 完膚なきまでに叩き潰す。

 そう心に決め、俺は冬華を連れてダンジョンへ向かう。


 妨害工作も考えられたが、踏ん反り返っている五大ギルドは一ヶ月後に確実に手に入る話し合いがあるのだから、それまでは黙って居るしかないだろう。

 白栄が何かしてくるかもとは思ったが、まだ俺が鑑定使いだとはバレていないので、俺に手を出してバックの人間が居所を眩ませる心配もあるし、流石に手を出してくることは無いだろう。



「そう思っていたんだが、な」


(どうやら、黒宮ギルド経由で依頼を出したようね)



 黒宮の内情を知っている心さんは、現れた探索者計5名を見てそう分析する。

 視覚の共有、そして念話を可能とする『以心伝心』を通して俺にそう教えてくれた。


 見た目で所属ギルドは結構解ったりする、白栄に関しては騎士っぽい格好してる奴が多いし、黒宮に関しては全体的に影に紛れる黒色の服を纏っている事が多かったりとギルド事に結構特色があるからだ。

 ダンジョン内は無法地帯、こいつらの目的は多分俺と冬華の誘拐ってとこか。



「悪いが、俺たちも生活が掛かってるもんでね」



 付き合ってられねえな。



「俺たちは全員レベル6だ。諦めた方が身のためだぜ?」


「黙れよ」



 黒宮なんて底辺ギルドに居る時点で、力量なんてお察しなんだよ。

 ステータスを見ても明らかに解る。

 こいつらは後天性スキルを持ってる奴でも一つ。


 つまり、探索者としての努力を怠ってきた人間って事だ。

 ほら、努力もできねえ凡人なら、一度くらい本物の天才を拝めばいい。



「邪魔」



 戦闘系スキル7つ。

 あの荒神楓でも2、3個しか持っていないスキルを七つである。

 その水準スキルレベルもその最強に並ぶ。


 その一閃を、目で捕えられていた者がこの場に何人いただろう。

 少なくとも、捉えられていたとしてもそこまでだ。

 反応できたものは一人としていない。


 それほどまで、綺麗で効率的な剣技。



「まず一人」



 狂気に染まった瞳が、哀れな探索者たちを捉える。



「な――」



 哀れ、首と胴が解れた元仲間を見て驚きを上げようとしたその男は、しかし最後まで言う事は叶わず、その胸から腹に賭けて、骨ごと切り裂くような斬撃が与えられる。



「青葉を護るためなら、それが人でも殺せるよ。青葉がやるよりずっといい」


「魔王ッッ!!」



 最後の一人は、愉悦に浸るような冬華の表情を見てそう言いながら死んでいった。

 スプラッターだな。

 吐きそう。


 正直、冬華がためらったら転移で速攻逃げるつもりだったけど問題はなさそうだ。

 冬華は狂っているかもしれない。

 けれど、きっと『魔王の瞳』ってギルドにはそれくらいが丁度いい。


 レベルが一つ上くらいだと、もう話にもならない。

 しかも人数差込みで完封しきる。

 その戦力が冬華一人だけに集中している。


 一ヶ月ね。

 一週間もいらねえな。

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