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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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悩み


 次の日、ふとこんな疑問が湧いてきた。



「なんで観察しか使えないんだ?」



 そんな疑問が零れてしまうのは、きっと冬華の戦闘能力を目の当たりにしてしまったからだろう。

 冬華は新たに複数の後天性スキルを習得し、更に全ての後天性スキルを最高峰探索者と同じ推移まで向上させた。

 もっと言えば、彼女以外に見たこともない『アーツスキル』という異質なスキルを獲得していた。


 あの後、ネットを使ってアーツスキルについて調べてみたが、やはりそんなスキルを持つ探索者は見つからなかった。

 いや、一人だけ居る。


 帳さんは冬華に少し遅れてアーツスキルを獲得していた。

 これは『以心伝心』による副次的な効果である事は間違いない様だ。


 複数の後天性スキルを組み合わせる事によって、技術とはとてもではないが言えない超常の力を発現させた物。

 それがアーツスキルだ。

 もう一つ文句を言わせてもらえば、俺だって以心伝心による楽々後天性スキル獲得方法を試しているのに、なんでアーツスキル一つも生えないんだよ。


 いや、観察単体しか持ってないからそりゃそうなんだけどさ。

 ちなみに帳さんは三つほど後天性スキルを新たに獲得していた。



「はぁ、マジ才能無さ過ぎ」



 三人の中で一番役に立っていないのが誰かと問われたとき、間違いなく俺だったら俺の名前を上げる。

 だって、ダンジョン内では見てただけで、外でも事務は帳さん任せ。

 俺の仕事と言えば、彼女たちのステータスチェックと白栄ギルド相手に鑑定で金稼ぎする位。



「それは仕方なかろう、貴様に与えた魔眼は常人なら死んで当然の代物だ。それを使う事が出来ている時点で貴様の才能は『視る』事である事は明白だ」



 って、常人は死んで当然って初耳なんだけど。

 それ俺が死んでたらどうする気だったんだよ。



「勿論、吾輩には魔眼に耐えられるかどうか分かっていたからな?」



 ああ、適当に試しててたまたま俺が上手く行った例って訳ではないのか。



「しかし貴様、本当に下手くそだな」


「何の話だよ」


「吾輩が与えた魔眼の使い方の話以外にないだろう。貴様は吾輩の与えた魔眼を『人』と『罠』にしか使って居らん」


「他に何に使えって言うんだよ」


「何にでも。我が魔眼に見えぬ物などありはしないのだから。貴様は自身の力を『鑑定』と呼んでいるが、それは大きな誤りだ。貴様の眼は『魔王級魔眼』、鑑定などと言う価値を見定める力とは別物だ」


「だから、何に使えって言うんだよ」


「それくらい己で考えろ。吾輩は飯を食うてくる」



 はぁ? なんだよそれ。


 人と罠以外って、例えばなんだよ。



「猫とか?」



 ふてくされ気味にそう呟いて、俺は魔王様に向かってその能力を使った。

 後で後悔するとも知らずに。




 ソエル・ホワイト


 レベル99


 破壊力19840 (S

 耐久力17860 (A

 敏捷力17860 (A

 精神力19840 (S

 感覚力19840 (S


 炎100 (S

 水100 (S

 風100 (B

 土100 (B

 転1000

 空588


先天性スキル

災厄ディザスター》《龍の末裔(ドラゴノイド)


後天性スキル

《変身10》《魔眼技師10》《使役契約10》《魔術師10》《転移術式10》《言語理解8》《思考加速7》《空間術式5》《限界突破1》


アーツスキル

《魔圧》《白龍翼》




 あ、居たわ、以心伝心以外でアーツスキル獲得してる奴。


 俺はそれを見た瞬間、そんな事しか考えられない程に言葉を失った。

 圧倒的な身体能力値、圧倒的な成長率、圧倒的な属性値、そして見たこともない項目。

 後天性スキルの数と強さ、そして先天性スキル複数持ち。


 Sランクは一人一つじゃないのかよ。

 先天性スキルだって一人一つまでじゃないのかよ。

 なんだよ、転属性に空属性って。



「なんだ? 吾輩のステータスでも覗いたか? 良かろう、存分に参考にせよ」



 こんな化物をこの世界呼び出していいのかよ。

 いや待ってくれよ、こんな化物を俺が越える?


 トン、それは俺の両膝が床にぶつかる音。


 そんな事出来る訳――



「青葉どうしたの?」


「どうかしたの? 青葉君?」



 オフィスはビルのワンフロアを買う事にしたが、若干高いのでその金が溜まるまでは俺の家が仮のオフィスとなっていた。

 黒猫と入れ替わりで二人が俺の部屋に現れた。


 何故、二人が俺の部屋に来るのだろうか。

 しかも、こんな都合の良いタイミングで。


 魔王とか名乗っておいて気を遣うなっての。



「青葉君、私知ってるからね。魔王とか異世界の事とか」


「え……?」



 帳さんにはその話はしていないはずだ。

 なのに、彼女はそれを知っていると言った。


 まさか冬華が?



「冬華さんじゃ無いわよ。その猫ちゃん、『以心伝心』の効果は人間以外にも効くのかと思って使ったら、あの猫ちゃんの声が聞こえたの。ちなみに、他の動物とは話せなかったわ、あの猫ちゃんが特別って事かしらね」



 帳さんは、俺が冬華の方を見た事に気が付いたようで、直ぐにそれを訂正した。

 確かに、以心伝心の事は経過報告も兼ねて魔王様にも話している。

 だとしたら、以心伝心の使用制限である『帳さんの心の声を聴こう聴かせようとする』という物を魔王様がクリアできてもおかしくない。



「だから隠し事は無し。大丈夫、私は貴方が魔王の手下でも裏切らないから、だからいつか私の事も助けてね」



 その言葉の意味は今の俺にはピンと来るものではなかったけど、きっと打算的な理由の方が信用しやすいと彼女なりに気を遣ってくれたんだと思う。

 なんだよ、いい奴ばっかかよ。


 なんで、俺みたいなゴミの所にこんないい人材が集まるかな。

 能力で選んだのに性格も良いとか。



「近づかないで下さい!」



 俺と帳さんが見つめ合っていると、冬華が横からカバディでも始めるかのように飛び出してきた。



「青葉は私のです!」



 冬華はそう帳さんに言い放った。

 いや、違うんだけど。



「付き合ってるの?」


「付き合ってないです」


「じゃあ違うじゃない」


「違うくないです」


「へえ、じゃあ私が青葉君と付き合ったらどうするの?」


「え――?」



 やばい、モード入った。



「冬華、この人は冗談言ってるだけだから。帳さんも揶揄からかうの趣味悪いっすよ」


 帳さんはにっこりとほほ笑んで、冬華の事を見直した。


「ごめんね冬華ちゃん、冗談冗談。全然盗る気とか無いから」


「うぅー」


「私可愛い子見ると、ちょっとだけ苛めたくなっちゃうのよね」



 性格がわりぃ。

 良い人って認識は改めとこう。


 冬華は若干涙目ながらも、帳さんの話を聞いて落ち着いたようだった。



「それと青葉君」


「はい?」


「私の事はこころって呼んでね。チームメイトなんだから」


「うぅううううーー!!」



 結局呼ばされた。

 恐るべき年上力。



「ねえ青葉、私の方がいいよね?」



 なんだこの修羅場。

 帳さんは微笑んでいるだけで何も言おうとはしない。



「ああ、冬華の方が大切だ」



 そう言えば勝ち誇ったような笑みを浮かべた冬華は、帳さんにドヤ顔を向けた。

 能力を見ても、関係を見ても冬華の方が大切な事に変わりはない。

 けど、帳さんが居なくなると事務仕事出来る人いなくなってヤバイ。


 書類とか俺が見ても分からないから、実質的なこのギルドの取締役は帳さんみたいな物なんだよな。

 って事でどっちも大切なのには変わりないけど、やはり圧倒的な戦力を誇る冬華に比重が寄りがちだ。


 気分がよさそうに笑う冬華と、特に気にした様子もない帳さん。

 なんかカオスな空気になって来たな。



「取り敢えず、ご飯にしようぜ」



 時刻は夜だ。

 今日の探索も終えて、次の予定も決めなければならない。

 夕食はミーティングも兼ねている。


 結局、魔王様が言っていた他の物とは何の事だったのだろうか。

 鑑定できるのは人、罠、猫。

 後何を見ろって言うんだよ。


 そのことについて、夕食中に二人に相談したところ、自頭の良さで完全敗北した俺は色々とアイデアを貰った。



「相手の魔物とか?」


「アイテムとか武器性能も見れそうですよね」


「あーね」


「後は、病気とか怪我の具合とかを見る事はできないの?」



 って事で色々を試したところ、何か出た。



 【花村冬華:精神安定:身体異常無し:疲労度15%】

 【帳心:精神軽度不安:身体異常無し:疲労度38%】



 精神的な状態と、身体的な状態を可視化する事に成功した。

 ただ、これが見えるとは流石に本人に言う訳も行かない。

 取り敢えず、俺だけの秘密にしておこう。


 問題は帳さんの『軽度不安』だな。

 俺が踏み込んでもいい問題なのかもわからない状態では、何も出来ないしな。

 取り敢えず、それとなく聞いてみるしかないか。



 翌日、出勤してきた帳さんに聞いてみた。



「何か、困ってる事とかってあったりします?」


「まさか、精神的な状態を視れるようになったの?」


「なんでバレたし」


「昨日の今日だからね」


「あはは」



 この人に嘘吐ける気がしない。



「でも、困った事があるなら言って欲しい。昨日は冬華が大事だって言ったけど、別に帳さんが大事じゃない訳じゃないんで」


「……」


「大丈夫ですよ()さん。うちは最強ギルドになるギルドなんで」



 俺の言葉を聞いて、彼女は目を見開いた後、子供を見る母親の様に微笑んで、こう言ってくれた。



「助けてくれる?」



 と。

 ならば、俺の答えは決まっている。



「勿論」

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