ねえ、どういう事かなぁ?
探索者になると決めてから毎日来るようになった冬華に、帳さんの事を取り敢えず話す事にした。
「って事でこの人が新しい
「は?」
冬華は人が出せるとは思えない程の眼光を持ってして、俺を睨みつけた。
それを見た俺の感想は『人殺せそう』だったのだから、その威力が桁違いな事は間違いない。
「なんで、怒ってるのでしょうか?」
「怒る? 私が? なんで?」
それが分からないから聞いているのだけど、きっとそれを言っても仕方のない事なのだろう。
ここでミスったら五年も待たずに死ぬ。
殺気とも呼ぶべき物を放つ彼女に対する最善策を俺は模索する。
「この人の能力は希少なんだよ」
「へえ、ねえそれって私より?」
「いや、冬華はうちのギルドのエースだ。それは絶対に変わらない」
そもそも、俺が『以心伝心』の先天性スキルを欲したのは、『経験倍増』との相性が
『以心伝心』によるイメージの伝達と、彼女の『経験倍増』による並外れた成長力があれば、その後天性スキルの進化速度は爆発的な速度を見せるだろう。
帳心を引き入れたのは、俺の強化なんかよりも冬華の強化を念頭に置いての事だ。
「嘘だ!」
一喝、冬華は大きな声でそう怒鳴った。
「ねえなんで? 私が居ればいいじゃん、私が全部上手くやるから、それでいいじゃん」
遂に、彼女は泣き始めてしまった。
俺にはその理由が分からない。
そもそも、何故彼女が俺にここまでしてくれるのか、俺は知りもしないのだから。
だったら、勇気を持って踏み込まなければきっとこの
「冬華、なんでだ? なんで俺なんかに、――そんなに本気になってくれるんだ?」
「決まってるでしょ。私は青葉が、――好きだから」
それは、完膚なきまで完璧な回答だった。
理由など語るべくもなく、彼女は俺を好きと言った。
俺が佐崎白を助けたいと思った理由と同じ理由なんだとしたら、ただ、それだけできっと、助けようと思う理由になるのだろう。
「でもなんで? 俺はニート卒業して一週間も経ってないんだけど」
「なんでって何? ずっと一緒に居たから? 弟みたいって思ったから? 分からない、気が付いたら好きになってた」
きっと、劇的な何かが無ければ人は人を好きになってはならない。
そんな決まりは無いはずだ。
人から愛されるのは悪い気分じゃないなと、それが俺の今の感情だった。
「分かった。どっちにしても、今は魔王との契約があるから好きとか嫌いとか言うつもりはない。けど、それが終わったらちゃんと俺から俺の気持ちを伝えるよ。って最初は新メンバーの話だっただろ? それも冬華が無理だって言うなら俺は冬華を選ぶよ」
以心伝心、経験倍増。
どちらの方が必要か、一つ選べと言われればきっと『以心伝心』の方が有用な能力だ。
その能力があれば、他の人間の後天性スキルの習得速度を引き上げることができる。
これによって高性能なスキルを持つ人間を量産すれば、それこそ天下を取るギルドになる事も難しくはないだろう。
だが、俺は冬華の才能に賭けたいと思っている。
何故なら、冬華の才能は『経験倍増』だけではなく彼女自体の習得スピードの速さがあってこそ輝く物だと思っているから。
俺はずっと冬華を見て来た。
だから解るのだ、その才能は先天性のスキルの才能だけでは無いという事が。
冬華は俺の言葉を聞いて、首を横に振った。
「我がまま言っちゃってごめんね。じゃあ、一つ約束して」
「何でも言ってくれ」
「もしも、他の女に現を抜かしたら『コロス』から」
「え、マジ?」
「うん!」
冬華への返答を出さずに、他の誰かを好きになる事はきっとないと断言できる。
けれど、殺すと来たか。
なんか、俺の自由ってどんどん狭められて行ってない?
しかし、俺にその約束を呑まないという選択肢は無いわけで。
「分かったよ」
「ありがとっ!」
結局は、了承する他無い。
◇◆
三人のCランク探索者は集まった。
それによってギルドを新設する条件が整ったことになる。
鑑定の依頼を白栄ギルドから一名百万で受けたところ、五件の申請があったので俺の手元には五百万がある。
これを元手にギルドを作る訳だが、必要な物は二つ。
『オフィス』と『財務管理』だ。
優先順位で言えば、財務管理を行う人材が早急に必要だ。
出来るなら弁護士や経理の経験者が欲しいところだが、こればかりは鑑定でも新たな人材発掘という訳には行かないだろう。
そんな風に頭を悩ませていたのだが、その問題は直ぐに解決した。
そりゃ、ギルドの事務をやってくれる人で法律的な知識もあって、財務管理もできる人間とかどんなハイスペックだって話。
仕事で分けてって感じに予定してたけど、結局トップにそれらを把握できるような人間が必要になる。
それを簡略化して俺に伝えてくれるような人材。
そんな人材居る訳――
(私、ギルドの事務何回か経験ありますよ。というかそっちでなら雇いたいって何度言われた事か……)
経済学部を出て、弁護士資格を持っていて、ギルド事務の経験もある。
そんな人材が居てしまった。
帳心、冒険者としての才能は欠片も持っていなかったが頭は相当いいらしい。
(あの、給料上げるんで経理担当になってくれません?)
(いいですけど、私が探索者に成りたいと思ったのは強い女性に成りたかったからです。なので、最強ギルドの事務ならやってもいいですよ)
帳さんは快くそれを承諾してくれた。
ただ、探索者という仕事に拘っていた理由が叶うならという話だった。
そして、どうやら彼女に提示したダンジョン攻略における役割は満足に足る物だったようだ。
その日の内に、俺たちは正式に起業し会社としてのギルドとなった。
契約とか良く分からなかったのでほぼ帳さんに丸投げしたのだが、普通にこなしてくれていた。
優秀過ぎて困るんだが、ってかマジで給料上げよう。
ランクの認定方法はめちゃめちゃ簡単。
ダンジョン行って、階層間転移システムを起動させて五十階層への転移を実演するだけ。
階層間転移システムは、全てのダンジョンに設置された誰でも使用できる転移機能だ。
それを使うと、その人物が行った事のある十の倍数階層まで一瞬で転移できる。
Cランク探索者三名って条件の確認のために、冬華と帳さんがそこで初めて顔合わせとなった。
「花村冬華です。よろしくお願いします」
「帳心といいます。よろしくお願いしますね」
帳さんは二十五歳という事もあるのか、結構大人っぽい人だ。
ファーストコンタクトが泣いていたので、俺としては不憫な感じな人なのかなとも思っていたが、今改めて見るとかなりしっかりしているように見える。
一人だけスーツ着てるし。
「私がギルドのエースです」
「はぁ、そうですか。私は財務と通信、後は育成を担当します」
こう考えると帳さんの負担ヤバくね?
以心伝心は『色々』と有用なスキルである事は間違いない。
実験してみたところ、最大通信接続数の合計は最低でも三人以上。
距離は少なくとも数百キロに及ぶ。
そして、何より重要な要項。
ダンジョン『内』とダンジョン『外』を結ぶ事が可能という事だ。
つまり、ダンジョン内での通信速度の向上。
知能を持つ相手の場合は、聞こえないように作戦会議もできる。
更に、万が一ダンジョンで逸れた場合でもこの能力があれば即座に合流できる。
帳さんの探索者としての役割は、ダンジョン外で俺たちをサポートする事で、これは帳さんも承知してくれている。
最強ギルドになるための方策ならばと。
さて、そろそろ本腰を入れてダンジョン探索と行こうか?