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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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三人目のメンバー候補


 ギルドとは、ダンジョン攻略を生業とする探索者たちのマネジメント及びサポートを行う企業の事を指す。

 それを新たに設立する場合、幾つかの条件が存在する。

 まず経営陣だが、最低でも取締役と探索者が必要になるだろう。

 ただ、ここで言う取締役は探索者を兼任する事も可能と言えば可能だ。

 白栄ギルドの取締役マスターも探索者の荒神楓が兼任しているみたいにな。


 そして、最も重要な要項。

 最低三名以上のCランク探索者を有していなければならないという物。

 探索者は到達階層を元にそのランクを決定される。

 例えば、俺と冬華は既に五十階層まで到達しているため、ランクはCとなる。

 この場合、俺たちの様な、連れて行って貰っている探索者でも問題はない。

 そもそも、冒険者としての力を測る方法が存在しないので到達階層という幾らでもズルできる方法でしか計測できないのだ。


 結局、そう言う方法で結果の出ないギルドを作って直ぐに潰れるだけなのだから関係ないって感じで黙認されている。


 ただ、ギルドはチームよりも上位のグループで、チームが個人間契約であるのに対してギルド契約は企業と個人との取引になる。

 要するに、信用の面でチームよりはギルドの方がかなり優位な位置にあるという事になるわけだ。


 さて、問題の人数。

 Cランク冒険者があと一人必要って事だが、既に目星はついている。


 冬華は今日は普通に大学に行っているので、俺一人で目的の場所へ向かった。



「お願いします! お願いします! ここで働けなくなったら、私もう行く当てがないんです!」


「知らねぇよ」



 目的の場所とは、日本の五大ギルドの一つ『黒宮ギルド』だ。

 そこは確かに日本の中小ギルドに比べれば成績と人数自体は上だが、このギルドに入ろうなんて奴は相当の訳アリか世間の情報を何も知らない情弱くらいだろう。



 それだけ、黒宮ギルドは黒い噂の絶えないギルドだ。



 その本社が抱えるビルの裏口から、今その最底辺のギルドからすらも蹴飛ばされて出てきた女が居る。


 黒宮追い出されるとか、彼女の言う通りもう行く当てもないだろう。

 少なくとも、彼女の探索者としての能力が絶望的に欠落している事を示す。


 だが、それならそれで都合がいい。

 行く当てが無くなったというのであれば、俺が拾える可能性が増えるんだから。



「あの、とばりこころさんで間違いないですか?」


「え?」



 扉を閉められ、涙目で俯いていた彼女は俺の存在にすら気が付いていなかったようだ。

 声を掛けた俺に気が付いた彼女は、目に涙を浮かべながら俺の方へ疑問の声と共に振り向いた。



「どなたでしょうか?」


「そうですね、ギルドのスカウトマンと言ったところでしょうか?」



 彼女はその言葉にかなりの食いつきを見せた。

 そりゃ、仕事が無くなった瞬間なんだから当然っちゃ当然か。

 まあ、俺は働いたことが無いから分からないが。


 俺たちは取り敢えず場所を変えて、近くにあった喫茶店に入った。



「それで、先ほどのお話はどういった物なのでしょうか?」


「そのままの意味です。すいません、敬語得意じゃないんで砕けてもいいですか?」


「ええ、大丈夫です。私も普通に話すので」


「それじゃあ、単刀直入に言いますね? 月五十万、勿論探索還元料とは別にお支払いいたしますので、俺のギルドに入って欲しい」


「月五十万!?」


「ええ、成果には関係無い給料です。成果報酬も別にお支払いします。成果報酬の方は、通常のギルドと同じ企業と探索者との折半の予定ですけど、不満があれば言ってください」


「不満なんてとんでもないです。けど、そんな都合の良い話を何もなしに信じる事はでないです」



 おっと、金額を提示すれば後のないこの人は普通に入ってくれると思ったが、どうやら危機管理能力はそれなりに持っているらしい。



「五十万プラス成果報酬なんて、B級かA級のヘッドハンティングに相当します。私はやっとCランクになったばかりで、黒宮ギルドからも見限られるような探索者です。正直、私にそのような価値があるとは思えません」



 だから、勘繰りたくもなるって事か。

 そりゃ他のギルドは、彼女の先天性スキルの名称すらも知らない訳で、その有用性など解るはずも無い。

 だが、俺には見える。



 彼女だけが持つ才能が。




 帳心とばりこころ


 レベル5


 破壊力740 (E

 耐久力840 (D

 敏捷力940 (C

 精神力1240 (S

 感覚力1140 (A


 炎22 (D

 水42 (S

 風17 (E

 土27 (C


 先天性スキル

 《以心伝心》


 後天性スキル

 《炎属性魔法2》《水属性魔法4》《風属性魔法1》《土属性魔法2》




 それが彼女の才能。

 字面じづらから想像するのなら思い浮かべる物を彼女に伝えたり、他者から伝えられたりできるスキルだろう。

 というか、それを期待して声をかけたのだから違ったらそれはそれで困る。

 ただ魔眼の鑑定は、俺に伝わる様に文字が出力されると黒猫様が言っていたので合ってるだろうって自信もある。



「貴方の持つ才能……それを説明する前に俺の才能の説明をしてもいいですか?」


「――? それは一体どういう……」



 彼女が全てを言い終えるよりも早く、俺は一つのメモを机の上へ取り出した。



「俺には他人のスキル情報が見える。貴方の先天性スキルを俺の作る会社の為に役立てて欲しい、それが本音です」


「なんの話をしているのでしょうか? 私に先天性スキルなんてありませんよ?」



 どうやら、彼女が色々なギルドを追い出されている理由は後天性のスキルを獲得できていない事にあると思ったが、それも間違えていたらしい。


 彼女は冬華と同じように、自分の能力を把握していない。

 使おうと思わないと使えない、もしくは対象者との許可が必要なのか、どういう理由か分からないが、彼女がそれを自覚すれば俺の期待通りの能力を得る事になるはずだ。



「俺の先天性スキルは『鑑定』です。そして、貴方に『以心伝心』というスキルが宿っている事も俺には見える。使ってみませんか? 俺を信じて」


「――どうすればいいですか?」



 少しの時間思考して、彼女は頷いた。



「簡単です。俺に伝えたい言葉を思い浮かべる、そして俺の心の声を受け入れるように考える。ただそれだけです」



 同時に俺も受け入れる。

 多分、彼女が能力を今まで自覚できなかった理由は、相手にもその能力の使用を了承する意思を持たせる必要があるのではないかと思う。

 だから、これで発動するはず……



(――聞こえ……ますか?)


(はい、聞こえますよ)



 その後、その能力が自分の物であると確かめるように、彼女は喜々として何度も俺に心の声で話しかけてきた。



(すごいですよこれ、思い浮かべた光景を、――記憶を映像として相手に見せる事もできます)



 そう、それこそが俺の望んだ力。

 イメージを映像にして共有する力、それは俺や冬華に対して経験値を与えるという事に他ならない。


 後天性スキルを覚える場合、最も必要なのはそれを得た事で使えるようになる能力のイメージだ。

 それを彼女の力で既に得ている人物から彼女に渡して、それを俺や冬華と言ったギルドメンバーに見せる。



 これこそが、俺の考えた『楽々後天性スキル獲得方法』。



 狙い通りの能力で本当に良かったよ。



「あの、でもこれを私に教えたら、私がこの力を持って別の所に行くとは考えなかったんですか?」



 一通り自分の力を試し終えた彼女は、俺を見据えてそう問いかける。

 だが、俺は最初からその問いに関する答えだけは考えていた。



「考えていなかったかと問われれば、それは思い当たっていました。けど俺は、探索者と不当に契約を結ぶつもりは無かった」


「ですが、貴方の力で得た情報を私に開示しない事は不当ではありません。それに、まだ機密保持契約すら結んでいないのですよ?」


「ええ、だから意味があるんですよ」


「それはどう言った――」


「俺の目的はダンジョンの五百階層です。それに至るのに、こんな序盤で躓いてはいられない。貴方へのメリットの提示は二つ、金銭と俺です。鑑定という他に類の見ない能力を保有する俺のギルドは、絶対に、確実に、日本の五大ギルド……いいや、世界三大ギルドすら越えるでしょう。そこに一早く入社できる」


「自信家……。いえ、そんな言葉では表せ用もない人です」


「はは、けどそうじゃないと五百階層なんて無理だと思うので」


「……確かに」



 彼女は立ち上がり、俺に握手を求めた。

 それは契約の成立を意味するのだろう。

 当然、俺はその手に応える。



「私は、あらゆるギルドに入団を拒否されました。それを拾い、認めてくれたのは貴方です。なので、貴方のギルドに入社する事にします」


「ありがとうございます」



 俺は彼女の手を握りながら深く頭を下げる。



「正し、ダンジョン五百階層攻略、そして世界一のギルドを作る。この目標を諦める事は絶対に無いと約束してください。私は、貴方の掲げる目標に共感しているという事を覚えておいて」



 そんな事か。

 幾らでも約束しよう。



「この眼と俺の命に誓って、約束します」



 でなければ、俺は死んでしまうのだから。

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