露見
襲撃を受けた後、あの三人は全員死亡しこちらの被害はゼロで戦いは幕を閉じた。
荒神さんの話では、彼女たちを狙って他のギルドから依頼された者達だろうという話だ。
なんでも、彼女クラスになると違法ギルドでは懸賞金すらついている場合があるとか。
「少しだけ予定とは違う事があったけど、これで依頼は達成ね」
「「ありがとうございました」」
場所はダンジョン50階層。
俺が提示した条件を本当に一日で完遂した荒神楓は、にこやかに俺に微笑みかける。
マジで攻略しやがったよ。
ってかここまでのボス含めた全部のモンスターが全滅ってどういう了見だ。
お陰で俺と冬華のレベルとステータスも大分上がった。
【
赤宮青葉
レベル5
破壊力920
耐久力920
敏捷力1120
精神力1020
感覚力1020
炎24
風39
水24
土24
先天性スキル
《魔王級魔眼》
後天性スキル
《炎属性魔法2》《風属性魔法3》《水属性魔法2》《土属性魔法2》
】
【
花村冬華
レベル5
破壊力1000
耐久力1000
敏捷力1000
精神力1000
感覚力1000
炎29
水29
風29
土29
先天性スキル
《経験倍増》
後天性スキル
《体術1》《武術2》《細剣術2》《受け身1》《回避1》《炎属性魔法2》《水属性魔法2》《風属性魔法2》《土属性魔法2》
】
中々の仕上がりだろう。
ステータス値は1000に到達し、魔法系スキルも充実し、更に冬華に至っては《武術》と《剣術》が進化している。
てかこの二つのスキルって学校の体育とかで手に入れたようなスキルだろ?
それが、マジで殺し合いをしている人に少しの時間であっても習ったのならある意味進化しても当然のような気もする。
って、それで言うとなんで俺は何も目覚めてない訳?
俺にももっとこう、何かの才能が有っていいと思うんだよ。
天は二物を与えないって、零物なんだけどどうしたらいいかな。
あ、だから魔王とかいうのが寄ってくるわけだ。
我ながら謎の持論を構築していると、荒神楓が何かのカードの様な物を二枚取り出した。
「まずは私の名刺、赤宮君はもう持っているから冬華ちゃんに」
「あ、ありがとうございます。私の連絡先もどうぞ」
「ありがと。それじゃあ、今日最後のレクチャーをするわよ」
そう言って、彼女は50階層の一角にあった自動販売機を指さした。
何故にダンジョンに自動販売機? とも思うがある物は仕方ない、というか誰も理由を知らないのだから確かめようがない。
「まず、このダンジョンを探索する探索者って仕事があるのは、それをすることで利益を得る事が出来るからよ。ダンジョンで手に入る利益は大まかに二つ。一つは、モンスターを倒した事で確実に落ちるこの『コイン』、もう一つがモンスターから大体50%位で取れる様々な素材」
素材は色んな企業が新たな道具や武器防具を作り出すのに利用される。
問題はコイン。
「コインは、この自販機での買い物をするのに使用できるわ。そしてこの自動販売機は、この世界中に存在するありとあらゆる物を購入できる」
そう、この自販機に掛かれば、金銀財宝もダイヤモンドも、食料も魔法すらも購入できる。
「ただし、この自動販売機から出てくるアイテムは全てカード化しているわ。そのカードは任意に実物化させることができるけど、24時間で消滅してしまうの」
だからこそ、この自販機によって金や宝石の価値が下がる事は有り得ない。
「それに一見瓜二つでも、触ったらそれが本物かどうか分かってしまうの、だから詐欺も働けないし、もっと言えば精密機械の値段は半端じゃない物になってるから、核弾頭とかグレネードすら購入する事は実質的に不可能ね」
だったら、この自動販売機で買った物はどうやって使えばいいのかって話だが、めちゃめちゃ使用用途は有る。
24時間で消えると言うが、実物化させなければキープできるし、消耗品なら関係ない。
荷物面で相当な無理を出来るようになるって事だからな。
例えば、今日の昼食だった物は誰かが弁当を作って来たとかじゃなくて、カードとして保存されていた食料を食べたのだ。
どんな原理か知らないが、体内に取り入れるとそれが消える事は無くなる。
ただ、それを受けて、ダイヤモンドを食って保存した人間が居たのだが、排出された瞬間に消えたらしい。
つまり、カードとして購入された食料ばかり食べていれば、うんちは出した瞬間に消える。
うん、なんてハッピーな食い物だろうか。
これで、ダンジョン内で漏らしても勝手に消失する訳だ。
つまり、この自動販売機は食糧や水分の面で見た時に非常に有用な効果を発揮する。
「そして、この自動販売機の最大の利点は、魔法を買える事よ」
カード化された魔法という物が世間には出回っている。
スキルと違って一度発動してしまうと完全に消失するのだが、それでも一般人にとってみれば凄く有用な力だ。
そして、この魔法の中にはスキルで再現不可能な物も出品されている。
例えば、そう言って荒神さんがもう一つのカードを掲げる。
「
そう彼女が呟いた瞬間、俺たちはダンジョンの入り口まで転送されていた。
「これが、探索者にとっての必需品。帰還魔法の込められた魔法カードよ。二人も先んじて買っておくことを勧めるわ」
これが、探索がチームで行われる最大の理由。
誰か一人でも戦闘不能になれば、他のメンバーがこのカードを使う事で即時帰還する事が出来る。
死亡率を減らすために最も有用な方法と言えるだろう。
あの探索者崩れの俺たちを殺しにかかってきたおっさんたちが、まず荒神楓が居なくなった時を狙ったのは人数で有利を取るためでもあっただろうが、それ以上にこのカードを使わせないためだった。
ってか、俺たち二人にこの荒神さんたちがカードを持たせてたらどうする気だったんだよあの馬鹿ども。
と、思うかもしれないが、
あの時の俺たちには逆立ちしてもできなかったわけだ。
俺が50階層を終着点に選んだのもこの
「本当に、今日は色々と教えて貰ってありがとうございました」
「いいえ、ギブアンドテイクだもの。例の件、よろしくね」
「勿論です。明日にでも書類にして持っていきますよ」
「楽しみにしているわ」
そんな会話をしながら、俺たちは帰路に就いた。
「なんか、凄かったね」
「ああ、圧巻だったよ」
あれが上位探索者。
まさか、人間の頭部を触れる事すら無く切断するとは。
あんなのどう見ても人間技じゃないし、俺がどれだけレベルを上げても出来るようになる気がしない。
待ったく、その上位探索者ですら150行ってないのに、5年以内に500階層とか行けるのか?
そんな疑問と恐怖が湧いてくる。
「大丈夫だよ青葉。もうあの二人から得られる物は全部得たから」
頼もしい限りだ。
これが成功してきた人間の自信。
俺が抱いているのは、失敗者故の不安なのだろう。
◇◆
「団長、あの人やばいっすよ。罠の位置と効果を把握するスキルなんて初めて見ました」
夜琵はそうとしか思えなかった。
あの光景を、彼がでまるで狙ったかの如く戦士の男を罠に嵌めた瞬間を見れば、誰だってそう思うだろう。
「違うわ。あの男が持っているのはそんなスキルじゃない。全く、物語の中だけにして欲しい物だわ、『鑑定スキル』……だなんてね。夜琵、貴方には監視を命じます。それと、あの男の情報は絶対に外部へ漏らさないように」
「了解しました」
(世界のパワーバランスが崩壊する危険性すら含んでいるかもしれない。まだ、絶対にバレてはいけない。これはあの子と私たちだけの秘密にしておかなければ)