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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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PK


 三十台の階層は迷路のような構造になっている。

 基本的には一本道で、稀にT字路や十字路がある程度で今俺たちが居る場所なんかは一本道だったりする。



「リーダー、女も居るっすよ!」



 生理的に受け付けない笑みを浮かべ、冬華の事を話した男のお陰で誰がリーダーなのかは分かった。

 ただ、状況は頗る悪い。


 後ろはトラップによって封鎖された。

 左右は壁しかない。

 そして、目の前には三人の探索者。


 探索者の平均レベルは7。

 リーダーが8で後二人が6だ。


 成長率はその他の冒険者と同じようにクソみたいな数値だが、しかし経験も実力も釣り合っていない。


 確かにここまでのダンジョン探索で俺のレベルは3まで上がっている。

 ただ、これでもまだこいつら三人のステータスは俺の三倍近くある。



 普通に戦えば確実に負けるだろう。

 有体に言えば、『絶体絶命』って奴だ。



「遊ぶのは勝手だが、生かしては返すな」


「おっしゃらっきー!」



 ああ、生理的に受け付けないのはこいつら三人全員だ。

 何度も、夢に見たよ。

 お前等みたいな成功者をボコボコにできる光景を。

 ざまぁ展開をさ。


 けど、俺には実力も無かったし特別な力も無かった。

 だから、きっとそれは殆どの人間が抱くそれと同じように夢幻(ゆめまぼろし)の類で終わる物だっただろう。

 しかしそれは、俺が何の力も持つ事が死ぬまでできなければの話だ。



 レベルが足りない?

 特別な力が無い?



 あるだろ。

 レベルも、特別な力も。


 だったら、もうビクビク震えるのは止めにしようぜ。

 力はもう持ってる、ここで逃げたら一生立ち向かえない。

 それ以前に、ここで死ぬだけ。


 なら、後はその力をどう使うかだけ。



「なあ、おっさんたち」



 リーダーと呼ばれた男は、どう見ても数十キロは有りそうな鎧を纏った騎士風の男。

 冬華の事を話していた男は軽装にナイフを持った、斥候タイプ。

 後は小声で何かをぶつぶつと呟きながらにじり寄ってくる剣だけを装備した男。


 夜琵からの情報を基盤にして、最後の男の恰好とスキルからその役割を割り出す。

 魔法使い系。

 俺はスキルからそう判断する。


 戦士、斥候、魔法使いか。

 バランスの取れた良いパーティーだな。

 けど、一つ足りないのは回復役が居ない事だ。

 まあ、回復系のスキルを持つ手合いは珍しいらしいから仕方ないのかもな。



「なんだよクソガキ」



 冬華を手で制して下がらせる。

 それと同時に俺はおっさんたちの方へ歩いていく。



「駄目! 青葉、帰って来て! 行かないで!」



 冬華の悲痛そうなその叫びを俺は無視して歩く。


 何かに感づいたのか、もしくは長年の経験からか、魔法使いは歩みを止めた。

 それに加えて、斥候役も中衛で待ちの構えだ。


 だが、戦士の男だけはそのレベルから来る自信は、それとも役割に対しての自負か。

 俺への歩みを止める事は無い。


 俺は、その歩幅と速度を調整しながら進む。



 そして、ついに戦士の男と俺の位置があと一歩のところまで近づいた。



「女を庇うってか? 素敵な事だが、カッコつけたって両方死ぬんだぜ? 命乞いくらいしたらどうだ?」


 1、2


「なあ、おっさん。一ついいか?」


 3


「なんだよ? 縋りつく用意が出来たか?」


 4


「口臭ぇんだよ」


「てっめっ、調子に乗っ――」


 5


 その男が最後まで言い終わる事は無かった。

 当たり前だ、俺の目の前からその男は消えたのだから。


 夜琵がここまでのルートで解除もしておらず、不発もさせなかった罠がある。

 それは、発動条件が厳しく普通に歩いているだけでは発動しないような類の罠だ。



『串刺し落とし罠

 五秒間、50キログラム以上の物体が上に乗っている事で発動する。

 床が開き串刺しの落とし穴へとその上を立っていた者を落下させる』



 それが、この男が立っていた場所にあった。

 これを発見できたのは偶然だ。

 俺に出来るのは所詮鑑定だけ。

 死ぬ寸前の今、俺に出来る事は結局どっかの誰かに都合よく貰った力を連打プッシュするだけだった。


 だが、それが功を奏したようで、男は落下。

 いいや、地面を掴んでギリギリ耐えて入るが、戦士系の難点というか相当重そうな鎧を着ているこいつじゃ這い上がってくる事は不可能だろう。

 どうやら俺には、『罠を見つける方法』も、『罠の効果を見分ける方法』も備わっているようだ。


 男がしているギリギリの耐えなど、俺の蹴り一発で崩れる。

 これで、形勢逆転だ。



「う……ぅぅ……」


「何やってんだお前!」


「リーダー!?」


「動くなよ、おっさん2とおっさん3。動いたらこいつの指を蹴って外す」


「お前等、動くな!」



 死の瀬戸際の戦士のおっさんは、他二人に動くなと呼びかけた。

 さっきまでの威勢はどこへやら。

 落下直前の男は随分と口数が減っていた。



「いやいやいや、ないわー。ゴミトラップにまんまと掛かるとか。阿保だ阿保だと思ってたけど、やっぱ筋肉だけの馬鹿だったって事か~」



 そう言って、完全に戦士のおっさんの言葉を無視して二人は前進を始めた。



「仲間を恨めよ。おっさん」



 俺は、その手を外さんと脚を浮かす。



「やめて。それをしたら……青葉もこの人たちと同じになっちゃうから」



 そう言って、冬華が俺の腕を掴んだ。

 目には目を歯には歯を。

 倍返しとは言わないが、やられたらやり返すもしくは防衛するというのは当然の事で当然の権利だ。


 だが、どうやら冬華はそれすら嫌らしい。


 ここで彼女にストレスを与えて再起不能になったら、それはそれで困るか。



「分かった」



 だが、男二人の進行は止まらない。

 俺は冬華を庇いながら、一歩づつ下がっていく。



「なあ、運に救われてよかったな。けど、偶然と奇跡は二度続かねぇぞ?」



 斥候の男はそう言いながら、一歩づつ俺に近づいて来る。

 夜琵を冬華に任せて下がらせる。

 レベル3まで上がった今の冬華の身体能力なら、成人男性を引きづるくらいは可能だ。



「奇跡? もしかしたら狙ってたかもしれないぞ?」


「それを聞いて安心したぜ。狙える奴はそんな事言わねえからな」



 狙える奴がそんな事言わねえと、『お前が考えると思ったから』、言ったんだよ馬鹿野郎。



「だが、お前にも感謝しねえとな」


「……?」


「分かんねえか? この筋肉だけの馬鹿を殺す機会をくれた事にだ」



 そう言って斥候の男は戦士の男の片手しかなかった踏ん張りを、まるでサッカーボールでも蹴るかの如く、簡単に蹴り外した。



「あ……」



 それが、戦士の男の最期の言葉になった。



「ああああああああ!!!」



 断末魔を除けば、だが。



「ははっ! 聞いたかよ? 馬鹿みてぇな叫び声上げながら落ちて行きやがったぜ!? あはははは、おもしれぇー」



 生理的に受け付けない、狂っている、サイコパスとか狂人とかそういう類の人間。

 最早ラリってると言って差し支えないだろう。


 だが、それでいい。

 そうじゃないと殺せないから。



「ケケケ、ジェジェジェ」



 魔法使いの男も斥候の男に並ぶように近づいてきていた。

 何を思ったのか、いやこいつらの行動を理解しようとする事程無駄な事も存在しないな。


 魔法使いの男。

 何をブツブツ言っているのかと思ったら、ケーとジェーでその呟きが構成されている事が近づいてきた事で伺えた。

 要するに、この気持ちわりぃおっさん3は、冬華を見てJKJKと連呼しているのだ。

 てか、大学生だから。



「死ねよマジで」



 言おうと思った、というよりかは反射的に出ていた。

 安心しているのだろう。そりゃそうだ。

 時間は十分稼いだんだから。



「はぁ? 狂ってんのかお前」


「じぇけじぇけけけけけ」



 狂ってんのはお前だ、鏡を生涯で見たことが無いのかと疑問が湧く。

 それと魔法使い、てめぇは童貞拗らせすぎなんだよ。


 だがそれも終わりだ。

 だってあの人には、一分もあれば十分だろ。


 ただでさえ、その能力値ステータスは二千を超え、身体能力は三倍になっている。

 そこに先天性スキル『加速』の運動量を三倍にするとかいうチートが加わればどうなるか。



「残念、タイムオーバーだ」



 バッッッッコオォォォンン!!!!


 そんな、破壊音と共に罠によって発生した壁を崩して現れたのは、俺たちの救世主にして日本一位。

 このおっさんたちとは天と地の差を持つ最高位の探索者。

 頭に蛆の湧いているこのおっさんたちおは、似ても似つかない清廉潔白さを持つ女。



「悪いけど、この人たちは私の客人なのよ。ダンジョンで手を出したのだから覚悟はできているのでしょう?」



 大剣に炎が纏わりつく。

 どう見ても魔法、そしてどう見ても過剰攻撃。


 炎を纏った跳ぶ斬撃が、二人の男の頭部へ命中する。



「え……?」


「あ……?」



 俺に出来たのは、冬華の目からその光景を隠す事くらいだった。

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