ダンジョン
午前五時、俺たちは言われた場所へ集まっていた。
「すいませんでした、急に一人増えちゃって」
「いいえ、問題ないですわ。それより、ダンジョンの法則についてはご存じで?」
「ええ、一般的に知られている範囲では」
「なるほど、では一度確認をしてみましょう。花村さんもご一緒に」
「はい! よろしくお願いします」
元気よく返事した冬華と三人でダンジョンと言う構造物についての確認を始める。
ダンジョンは十年程前にこの世界に突如として現れた特異構造物だ。
その効果は様々だが、一番重要な要素はその内部に侵入した人間は一人の例外もなく、特殊な力に目覚めるという事だろう。
今ではこのダンジョン一階層への侵入は義務教育となってすらいる。
それほどまでに、ダンジョンに入っている人物と入っていない人物とでは生物としての枠が違う。
「ダンジョン内部は、世界中のどのダンジョンに入ったとしても全くの同一の形状、地形を有しています。なので低階層であれば、地図も十分に充実しています。それにダンジョンの形状が何らかの要因によって破壊されたとしても自己修復機能が自動的に発動し、それを修復します。つまり、地図がある限り迷う事は有り得ません」
加えて補足するのなら、ダンジョン内で死亡した探索者やモンスターの死骸、その持ち物なんかは時間が経てば綺麗さっぱり消えてなくなる。
だから、このダンジョンと呼ばれる建造物は、破壊する事も埋める事も出来ない。
ダンジョンの形状は外から見ればただの光り輝く扉。
内部から見れば、異世界としか思えないような光景になる。
「ダンジョンでの敵はモンスターだけではありません、30階層以降からは罠の類も設置されています。即死するような罠は少ないですが、それでもどれも真面に受けてしまえば重症化する可能性の極めて高い物が殆どです」
「でも、それってどうやって回避するんですか?」
「簡単です。罠感知のスキルを持つ探索者を同行させれば済みます」
そう言って、荒神楓の後ろからフードを被った男が現れた。
「こんちーす」
「十分の遅刻よ」
「誤差っすよ」
二人はそんな会話をしながら、男は俺たちの輪に加わった。
「よろしく体験入団の人達、俺は団長と一緒にダンジョンを攻略している探索者の一人で、白栄ギルドの一軍で斥候をやってる。名前は
「花村冬華です、よろしくお願いします」
「赤宮青葉と言います。お願いします」
「こいつはチャラけてはいるが実力は本物だから心配しないで欲しい」
チャラいっていうのは的を射ている様に思うが、それ以上に馴染み易いという印象を受ける。
良く言えば平均的、悪く言えば影が薄い。
俺と冬華は一時的な体験入団という扱いを受けている。
だとしても、代表自らダンジョンに同伴するなんてことは有り得ないと思うが、文句なんて一つもない。
現最強探索者には興味もあったしな。
【
レベル14
破壊力2260 (C
耐久力1980 (D
敏捷力2540 (B
精神力1980 (D
感覚力2540 (B
炎 27E
水 55C
風 27E
土 69B
先天性スキル
《直感》
後天性スキル
《観察4》《罠解除4》《隠密5》《炎属性魔法2》《水属性魔法5》《風属性魔法2》《土属性魔法6》
】
ステータスは案の定と言うかゴミみたいな成長率だが、スキルは素晴らしい。
これは彼自身の努力の賜物で、夜琵が直向きに努力した成果だ。
それを見るだけで、この人物の努力の量が分かってしまう。
間違いなく、彼は敬意を払うべき相手。
そして、彼の成長方向は俺の成長率と酷似している。
夜琵から学ぶ事は多そうだ。
「それじゃあそろそろ入ろうか? 私が着いている限り事故など起こすつもりは無いが、くれぐれも指示には従ってくれ」
「はい!」
「分かりました」
「了解、団長」
◆◇
ダンジョンの内部は薄暗い洞窟だった。
一階層は中学のカリキュラムで俺も入った事があるので、初体験って訳でもない。
一階層に現れるモンスターはスライムだけ、罠も無いと来た。
それに内部はちらほらと人が居るので、もし危なくなっても大声を上げれば誰かが助けてくれる。
チュートリアルゾーンの様な物だ。
まあ、うちのパーティーに救援は必要ないだろうけど。
荒神楓が似つかわしくない武骨な大剣を一振りすると、同時に五匹以上のスライムが消し炭になる。
スライムなんて、成人男性であれば問題なく倒せるレベルの敵だ。
ダンジョン攻略によって莫大なステータスを得ている荒神楓にとっては、蟻を踏み潰すぐらいの感覚なのだろう。
「日本一の探索者の戦いを生で見れるなんて感動だね」
探索者は一種のアイドル業としても機能している。
そりゃ、何時の時代だって強くて戦える人間はかっこいいものだ。
人気が沸くの解る話。
それで言えば、この荒神楓は日本一人気な探索者とも言えるだろう。
他の一階層に居た探索者もチラチラとこっちを伺っている。
そりゃ最高記録持ちが、こんな初級階層に居るなんて可笑しな話だよな。
「私の背中に居れば、君たちに危害が加わる事は有り得ない」
「ヒュー、団長かっけえぇ」
「茶化すな」
「さー、せん!」
そう言って、夜琵は短剣をスライムに突き刺す。
目にも止まらぬ高速移動で、いつの間にか辺りに居たスライムは全滅させられている。
「さぁ、五十階層まで一気に行こうか」