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俺だけ使える鑑定スキル 作者:水色の山葵
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花村冬華


「ぇ……ねぇ……」



 明日は早いんだよ。

 頼むから寝かせてくれって。



「ねえ、起きてってば!!」


「わっあっしょい!!?」



 奇声を上げながら飛び起きる。


 そこに居たのは馴染みのある顔の女だった。


 幼馴染の花村冬華はなむらとうか、俺の両親が死んでから、直ぐ近くに住むこいつは時折俺の心配をして家に来てくれる。

 19歳にもなって恥ずかしいが、冬華が偶に来て作ってくれる料理は凄くうまい。



「って、なんだよ起こさないでくれ」



 ただ、それとこれとは別問題だ。

 一人で寝ていた俺を叩き起こしていい理由が冬華にあるというのだろうか。

 否。

 勝手にそう決めつけもう一度布団に包まる事にした。



「寝ようとするな!」


「ぐえっ!」



 冬華はもう一度布団に包まろうとした俺に強硬策を提示してきた。

 手に持ったフライパンを重力に任せて俺の脳天に直撃させたのだ。


 高さはそれほどではなかったから、平気っちゃ平気だがクソ痛い。

 眠気も覚めてしまった。



「何すんだよ、痛ぇ……」



 頭を摩りながら起き上がると、冬華はキョトンとした表情で俺を見てきた。



「青葉、今日外に出たの?」


「え、?」


「だってさ、靴が散らかってたから」



 炊事洗濯掃除、冬華はうちに来る度にそれを行ってくれている。

 全く情けない話だが、俺には生活能力が無い。

 冬華が居なかったら、俺はとっくに死んでいただろう。



「出たけど、何?」


「おめでとう!! 遂に出られたんだね!!」



 まるで泣き出しそうな表情をしながら、冬華は俺に笑みを向けた。

 まるで、子供の成功を喜ぶ親の様に。

 って俺はガキか。


 いや、お前にとってはそうなのかな。



「ごめん、でもちゃんと働くから」



 冬華は俺なんかとは違ってキチンとした大学に通っている。

 俺は高校卒業して無職のニート。

 本当に、何故こうも冬華が俺に構ってくれるのか分からなかった。

 剰え、彼女を邪魔に思ったことも何度かある。


 俺は本当に馬鹿な奴だ。



「大丈夫だよ。少しずつで、大丈夫だから……」



 子供をあやす様に、冬華は俺の頭を撫でた。

 これも魔眼の力だろうか、見えていなかった物が見えた気がした。



「ご飯、作ったけど食べる?」


「食う」



 リビングへ移動すると、魔王様ネコサマが肉を食っていた。



「この子、これしか食べないの。大丈夫かな?」


「あはは、まあ多分大丈夫なんじゃないかな」



 こいつ結構いい舌を持っているらしい。

 まあ、一応王だしそういうもんか。



「何しに外出たの? 猫飼いたかったの? それとも他の理由?」



 食事が始まると俺は質問攻めを受け始める。

 買い物は全部冬華にお願いしていたから、最後に外に出たのは一年以上前だ。

 高校も通信制で殆ど外には出なかったし。

 そりゃ気にもなるか。



「俺、探索者になるから」


 だから、正直にそう言った。


「はい……?」


 冬華は口をポカンと開けて、ドリアを掬ったスプーンからドリアが零れて机を汚す。



「何考えてるの!?」


 そして、冬華は激高した。


「意味わかってる!? 死ぬかもしれないんだよ! 居なくなるかもしれないんだよ! そんなの、今まで通りの方がずっとマシだよ! 嫌だよ、考え直して! 違う、考え直さない限り絶対に外に出さないから!!」



 ふざけないで、いい加減にして、出来る訳ないでしょ、やれると思ってるの、無理だよ、不可能だよ、死んじゃうよ、何もできないよ、何にもならないよ、何にも始まらないよ、全部駄目になる、全部失敗する、意味不明、理解不能、無理、駄目、嫌、否、不可。


 ありとあらゆる否定の言葉を冬華は口にした。

 俺は、それをただ聞く。

 言葉を挟める余地など無かったから。



「はぁ、はぁ……」



 全ての酸素を使って冬華は俺を止めようとしてくれた。

 だから、俺もそれに答えなければならないと思った。

 今までずっと迷惑をかけていたのだから、何も説明しないなんてそんな事、許されるはずがない。


 そして、もう一つの感情も芽生える。

 彼女をこの問題に巻き込んでも良いのか。

 魔王とか異世界とか侵略とか、そして俺が五年後に死ぬとか。

 そんな問題に冬華を、俺の一番大切な人を巻き込んでも良いのか。



「にゃー」



 黒猫の鳴き声が響く。

 そちらを向けば、猫は俺に向かって大きく首を縦に振っていた。

 そうかよ魔王様クソヤロウ


 決められない。

 巻き込む決断も、説明しない決断も、俺は下せなかった。


 だから、一つ賭けをしてみる事にした。

 そんな事でこの人の運命を変えていいのかとも思うが、どちらを選んでも返ってくるのは不幸だ。

 だったら、その能力があるかどうかで判断しようと思った。


 彼女のステータスだ。

 それが、俺を越える成長率だったなら、俺は彼女に全てを話す。

 そして、全くの無力なら俺は何も話さない。



 花村冬華


 レベル0


 破壊力100 A

 耐久力100 A

 敏捷力100 A

 精神力100 A

 感覚力100 A


 炎4 A

 水4 A

 風4 A

 土4 A


 先天性スキル

 《経験倍増》


 後天性スキル

 《体術1》《武術1》《剣術1》《受け身1》《回避1》



 それが彼女のステータスだった。

 いや、疑問しか浮かばんが。


 まさかの成長率オールAである。

 更に経験倍増は、後天性のスキルの獲得に必要な経験値を倍所得するとかいうチートスキル。

 って、冬華が先天性のスキルを持ってるなんて初耳だぞ。


 いや、違う。



 そうか、『自覚していない』だけで先天性スキルを獲得している人は居るのか。



 冬華の場合、凄く分かりにくい自認しにくい能力だ。

 だが、確かに冬華は俺とは真逆で、何事も取り組める人間だった。

 努力する事が好きだったし、それをキチンと自分の物へ落とし込む才能も持っていた。

 このスキルはそんな冬華という人間を構成した最もな理由。

 このスキルは間違いなく化けるだろう。

 才能だけを見れば、彼女は俺なんかよりも数倍の可能性を秘めている。


 ただ、このスキルはきっと俺にあったとしても意味のない物だっただろうと、今となって思う。

 一昨日までの俺なら、そのスキルを持っている冬華に嫉妬の感情や、狡いとか不公平みたいな不平不満しか抱かなかっただろう。

 だが今は違う、彼女はやる気のある人間だから順風満帆で、俺はそれが足りていない人間だからニートなんてやっていたんだ。

 今ならそれが解る。

 そのスキルは、確かに冬華に最も相応しい。



「分かった全部話すよ」



 賭けの結果は見ての通り、冬華には話すしかない。

 その結果、冬華がどれだけ不幸を呪っても、もう取り返しはつかない。

 だから、俺は冬華に殴られるくらいの覚悟はして話した。


 魔王とか魔眼とか異世界とか、そういう諸々全部を。



「嘘じゃ、ないんだよね……」



 流石に突拍子もない話過ぎて疑われるかとも思ったけど、冬華は思ったよりも簡単に俺の話を信じてくれた。



「だって、嘘だったらそんな悲しそうな顔してる訳ないし、それくらいの理由が無きゃ確かに外になんてでないもん」



 変な所を信用されているような、そんな気がするのは多分気のせいだ。

 そう思い込むことにした。



「話してくれて良かった。もし話してくれてなかったら、脚を折ってでも止めてたから」


「ひぇ」


「冗談だよ」



 いや、冗談な顔して言ってくれ。

 真顔で言うな。



「うん、決めた」


「ん?」


「私も行くよ、ダンジョン」


「え? いやいやいや、来なくていいって」


「でも、それ目的で話してくれたんじゃないの? にしても私にスキルなんて有ったんだ、驚きだね。成長率オールAだったから話してくれたんでしょ? それって連いて来いって意味じゃないの?」


「話が早くて助かります!!」



 うん、全然間違ってない。

 こんな神ステータス見逃すはずがない。

 どう考えてもSSRだ。

 理論値でこそ無い物の、殆ど最強に近い。


 パーティーメンバーの二人目、オールラウンダーが仲間になった。

 大学とかあるから色々と遅れは出るかもだけど、それを加味しても喉から手が出る程欲しい人材だろう。

 人材育成に最も力を入れろって誰か言ってたし。



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