交渉
魔王様はどうやら、強さという物に対して強い関心があるようだ。
それを利用して、俺の方が魔王様よりも強くなれば、もしかしたら世界征服なんて考えを改めさせる事が出来るかもしれない。
とは言った物の、どうやって強くなればいいだろうか。
圧倒的に自分が上位の相手と、力関係的が互角の相手とでは対応が変るのは必然だろう。
5年以内に宝玉を確保する事、そして少しでも強くなる事。
それが俺が達成しなければならない目標だ。
では、現実的な話をしようと思うが、俺が一人で魔王様を超える程まで強くなることは可能かどうか。そう問われれば、俺はこう答えるだろう。
ダンジョンでレベルを上げて、ステータスを向上させ後天性スキルを多く獲得する事で可能であると。
レベルはダンジョンを10階層突破するごとに1上がる。
それに比例して、成長率分のステータスが向上する。ステータスの力はダンジョンに一度でも入る事で行使可能となる。
俺は何度も見た自分自身のステータスを見直す。
【
レベル0
破壊力120 (B
耐久力120 (B
敏捷力120 (S
精神力120 (A
感覚力120 (A
炎9 C
風9 S
水9 C
土9 C
先天性スキル
《魔王級魔眼》
後天性スキル
】
これが俺のステータスになる。
軒並み数値は低いが、成長率は中々の物だと言える。
成長率Sに関してだが、これは一人一つの項目しか絶対に発現しないようだ。
ソースは俺が昨日ネットで人の顔検索しまくった統計結果。
身体能力と魔法属性に一つづつある俺のこのSランクは、ほぼ最高値と言える。
欲を言えば、他のステータスにもう少しAがあって欲しかったが、それはもう諦めるしかないだろう。
ステータスは100で凡そ10%の該当部分の身体能力強化に当たる。
だから、嫌でも分かってしまう。
このステータスでレベルが1アップする10階層まで行くのは不可能に近いという事が。
だとしたら方法は二つしかない。
後天的なスキルを新たに獲得するべく修業するか、もしくは誰かに連れて行って貰うかだ。
てか、実質一つだな。
俺に、ちまちま修業している時間なんか無いんだから。
◇◆
名実ともに、日本最高の称号を手に入れた最大手ギルド。
その名も『白栄ギルド』。
このギルドは、元々国運営だったらしいが法改正で民間の企業となった。
俺は日本を代表するギルド当てに手紙を出した。
その手紙の内容は、そのギルドが保有する有力探索者のステータス情報だ。
基礎的なステータスだけを記載し、それを送り付ける。
見る人が見れば解るだろう、それが確かに正しい数値を指示している事に。
ただ、ステータスはその人物の強化割合を示す。
一概にその人物の強さとは呼べない場合もあるって事だ。
そんな諸々を加味して、一日で俺に返答が来たギルドは日本の五大ギルドの内のたった一つ。
この『白栄ギルド』だけだった。
「お迎えに上がりました赤宮様」
まさかの出迎えである。
スーツの男が二人、俺の住所までやって来た。
白栄ギルドの代表から直接会いたいと連絡を受けて、俺は昨日の今日で白栄ギルドへ赴く事となってしまったわけだ。
速達にしといて良かったよ。
黒塗りの高級車に入り、車は白栄ギルド本社へと車輪を回す。
「それで、この情報は一体どこで入手した物なの?」
白栄ギルドの代表取締役社長、兼日本最高の探索者、荒神楓が社長室で俺と対面していた。
「それは言えませんね」
荒神楓が睨みを強くする。
そりゃそうだ、ここまで来ておいて情報は言えないなんて舐めてるのかって話だ。
けど、俺が背負ってるのはこの世界だぞ。
今更、魔王ですらないこの女一人の眼光程度に屈するか。
やべぇ、ちびりそう。
「ですが、我々《・・》は鑑定を行う伝手を持っている事に違いはありません。報酬次第で手紙に書いた内容以上の情報を鑑定してもいい」
手紙に書いたのは、破壊力、耐久力、敏捷力、精神力、感覚力の五つの項目のみ。
それ以外にも切れるカードは有る。
成長率だけは言う訳には行かないが、それ以外のスキル効果やスキルレベルだって教えてもいい。
「勿論、こちらの要望に応えて下さればのお話ですが」
「まず、
貴方方、つまり俺以外にもバックに人間が居ると勘違いしてくれたらしい。
そして、俺だけをここで拘束しても意味が無いという事も察しただろう。
(ここで俺を捉えて拷問でもしようものなら、鑑定を行える人物とのパイプを自ら切断する事になる)
勝手にそう思ってくれて助かるよ。
「勿論、大丈夫ですよ」
俺はメモを取り出し、彼女へ手渡す。
「これは……」
そこに書かれているのは、彼女自身のスキルだ。
後天性のスキルがあるという事は、鑑定が無くとも広く知られている。
先天的には何もできなかった物が、ダンジョンへ入る事で火や水を操る事ができるようになるのだから。
だが、それを明確に言語化する事は難しいだろう。
そして、威力に関しても数値化する事は難しかった。
だが、俺のスキルはそれが出来る。
人間の能力を数値化言語化できるという事がどれほど強力な事か、彼女でも解るだろう。
そして、彼女は自身の体感とその数値と言語化されたスキルを当てはめる。
噛み締める様な表情で、数秒そのメモを睨みつけた後、彼女はこう言った。
「貴方方が提示する条件とはどのような物でしょうか?」
良し!
「それは、お受け頂けるという事でしょうか?」
「条件次第ですが、前向きに検討したいとは思いますが」
「分かりました。では三名分の鑑定と交換という形で、俺をダンジョンの五十階まで連れて行って欲しい、というのはどうでしょうか?」
これこそが、俺が考え出した楽々レベル上昇方法。
高レベル探索者に寄生して高階層まで登れば、殆ど労力が掛からずにレベルを上げる事ができる。
ダンジョンの到達階層がレベルに依存すると言うのは寄生に対して無力な気もするがいいのだろうか。
これは利用しない手は無いよな。
「そんな事でいいんですか?」
到達階層イコールレベルというのは、一般的には出回っていない情報だ。
ダンジョンを多く攻略している者の方が強いのは、当然と言えば当然だから。
レベルアップの概念は有るらしいが、それが何故起こるのかは分かっていないというのが現状だ。
「ええ、それとそれに必要な装備や道具もそちらに負担して頂きたいのですが?」
「それくらいは構いませんわ」
流石に到達階層一四二階層の探索者。
五十階層まで程度なら苦ですら無いらしい。
「それでは、攻略日はいつがよろしいでしょうか?」
「出来るだけ近い日でお願いしたいです」
早ければ早いだけ嬉しい。
五年もあると捉えるか、五年しか無いと捉えるか。
俺は後者だった。
悪いが目標は五百階なんかじゃない。
そのもっと上、魔王を超えるレベルまでだ。
「それでは、明日でどうでしょう? それでしたら私が同伴しましょう」
運も俺に味方した!
日本最高の冒険者が一緒に来てくれるならそれに越したことはない。
それに日付も完璧だ。
「それでお願いします」
「分かりました。では明日の午前5時にここへいらして下さい。出来るだけ早い方がいいというのであれば、私の運動も兼ねて一日で踏破する事を約束しましょう」
そんな話し合いの後、俺は直ぐに帰路へ着き。
同時に床へ就いた。
明日でレベル5。
このペースなら、もしかしたら見えるかもしれない。
魔王様を越えるという目標が。