新型コロナのリアルワールドでの感染は「飛沫感染」が大半
感染者からの距離と換気の程度が大きく影響
大西淳子=医学ジャーナリスト
新型コロナウイルス感染症の世界的流行が続く中、このウイルスの感染が現実世界ではどのように起こっているかについて、さまざまな情報が蓄積されてきました。そこで、米Montefiore Medical CenterのEric A. Meyerowitz氏らは、現在までに公開されている研究報告の内容を整理し、新型コロナウイルスの感染にかかわる特性をまとめ、Annals of Internal Medicine誌に報告しました(*1)。
分かってきた新型コロナの感染の特徴
新型コロナウイルス感染症の流行が始まった時点で提案された予防法は、主に、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)といった、過去に発生したコロナウイルス感染症の流行時に得られた情報に基づいていました。その後、今回の新型コロナウイルスに関する情報が蓄積されていき、SARSやMERSの原因ウイルスとは異なる特性も持つことが明らかになりました。
著者らは今回、主に、LitCovidとmedRxivという2つのデータベースに、2020年1月1日から9月7日までに登録されていた英語の論文の中から、実験室でウイルスを用いて行った研究、示唆に富む患者またはクラスターに関する報告、その他の観察研究またはシミュレーション研究などの報告を選出し、新型コロナウイルスに関する新たな知見をまとめました。以下がその要点です。
これまでに明らかになった新型コロナウイルスの感染の特徴
- ほとんどの感染は鼻や咽頭を介して発生し、経路は主に飛沫感染である
- マスクは感染を抑制するために有効な手段である
- 発症前の患者や無症状の感染者からもウイルスは排出される
- 1人の患者から感染する患者の数は一定ではなく、スーパースプレッダーが感染拡大に主な役割を果たしている
- クラスターは、換気の悪い室内に多くの人がとどまる状況下でしばしば発生している
それぞれについて、もう少し詳しく論文の内容を見ていきましょう。
環境での新型コロナウイルスの生存について分かっていること
さまざまな物質の表面に付着した新型コロナウイルスが、一定時間を経た後にも感染力を持った状態で存在しているのかどうかについて調べた実験の結果は、複数報告されています(参考記事「新型コロナ、サージカルマスクの表面で7日間感染力を示す」)。環境に存在するウイルスは、低温では安定していますが、温度の上昇に弱く、70度では5分で感染性を失うこと、また、様々な消毒が有効であることも示されています。
では、リアルワールドではどうなっているのでしょうか。感染者が生活していた病室や、使用した食器などを調べれば、新型コロナウイルスのRNAは検出されます。しかしその量は、本人の鼻や咽頭の中に存在するレベルに比べ、非常に少ないことが分かってきました。また、病室内から採取したエアロゾルや粒子の中に、感染力のあるウイルスが存在していたという報告はわずかしかありません。
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- 接触感染も起こりうるが、頻度は低い