加藤グループの研究上の不正

On 2013/7/31 水曜日, in Thus Spoke Dr. Hypoxia, by bodyhacker

加藤グループの研究上の不正

かねてから噂されていた東大の加藤茂明氏の研究室からの論文についての東大の調査結果の一部が発表されました。(参照)

改めていろんな波紋をよんでいます。

 

いろんな観点がありますがぼくにとって大きな問題は「やる気をそがれた」ということにつきます。

加藤氏はぼくが大学院生だった時分に頭角を現した研究者でそれ以後も世界の核内受容体の研究の牽引者の一人だとぼくは思ってきました。 そのような人があんな幼稚な不正を行っていたと知ってまったくもってやる気がそがれました。 お前は甘いといわれるかもしれませんが加藤氏はあんなことをする最後の人だと思っていました。

今回不正「認定された」43篇の論文に共著者として関わっていた人たちはこれからどうなるのでしょうか?

「大将」は「私が悪うございました」などと管理責任-この意味はわかりません-をあっさり認めしかし「自分は知らなかったのだ」と言い放ち自分の科学者としての良心は保ったままあっさり辞職を認めてもらい福島に引き込んで「いい人」になっちゃった訳です。

ハシゴを外された他の当事者はどうなってしまうのでしょうか。

 

日本の基礎医学研究のビッグネームで研究室の出身者も独立した研究者としてやっている人が多いなどここ数年の研究不正とはすこし構造が違う事件だと思います。

誰にも読まれない、引用もされないような論文はもし捏造されたデータを含んでいたまたはまったくの捏造だったとしても世の中に大きなインパクトはありません。

麻酔科医による大規模捏造も麻酔の専門医であるぼくでも彼の捏造論文などどこかで眼にした事があったという程度でましてその論文に基づいて麻酔医療を行ったという事はありませんでした。学会賞にも何度か応募していたようですが結局は受賞には至らなかったといことです。研究費を大量に取得していたかというと少なくとも日本学術振興会からの研究費がずば抜けて多額だったという事もありませんでした。論文の数が多かったというだけです。一種のネタとして扱われていたと思います。

これもこれで寂しい話です。

 

この事件でデータの管理が厳しくなると面倒だなと思っています。

米国にいたときに学んだ管理法と同等程度の管理はしていますが日本人はついついそれ以上の妙な「規則」を作って自分たちで自分たちの頸を絞める傾向にあるので心配です。

日本学術振興会から資金を得たら予備実験も含めた全てのデータを公的にdepositしろとかいわれても困ります。

そうなれば基礎研究は止めるか別の資金源を探します。もともと某研究所の体制が不満で飛び出し、二足のわらじを履いていけるところまで行こう、どちらかと選べという局面では基礎研究は捨てようと思っていたので「潮時」かも知れません。

 

ディオバンをめぐる問題

一方臨床医学に直結する分野ではかなり事情は異なります。

医学上のevidenceなどというものは儚いものです。

例えばこの報告

New England Journal of Medicineに2001年から2,010年にかけて掲載された様々な臨床研究のメタアナリシスです。

New York Timesでも紹介されました。(参照)

治療法や診断法など医療行為に関する1344の論文が対象で,そのうち981の論文はある疾患・病態の新療法・診断法などの有効性についての論文で362篇は従来療法・診断法の有効性を再確認する目的の論文でした。

これらの論文が最終的には

  • Replacement:新療法・診断法が従来療法・診断法より有効と判断された
  • Back to the drawing board:新療法・診断法が従来療法・診断法に比較して劣っていると判断された
  • Reversal: 従来療法・診断法がそれ以前の標準療法に比較して劣っている判断された
  • Reaffirmation:従来療法・診断法がそれ以前の標準療法に比較してより有効であると判断された
  • inconclusive.:明確な結論が得られなかった

の5種類に分類されます。

この論文の結論はいろいろあるのですが最も重要な点は362篇の従来療法の有効性を再検討した論文により”reversal”と判定された論文が40%で効果が”Reaffirmation”と判定されたものが38%,”inconclusive”と判定されたものが21.7%であったという事です。

NEJMでは毎年40回程度の”reversal”が起こっているのです。「常識」として行われていた様々な療法の有効性が確認できないどころか有害であるかもという療法が毎年見つかっていくのですからすごいことです。

たぶん,毎日発表される様々な種類の研究結果も数年すれば”reversal”と判定されてしまう可能性があるのです。 非常に優れた研究計画に従った優れた研究であっても例外ではないとおもいます。 これが医学の進化というもので赤の女王はこのことを”It takes all the running you can do, to keep in the same place“と表現しています。

とうことは一度は捨て去られた療法なり診断法が現代的な文脈では復活ということもあるのではないかとも考えました。

しっかりとした基礎生物学的な背景を持った治療・診断法は信じられやすいが実際に臨床上の有効性は無い場合があるのですがはやりその基礎的な背景がしっかりしているが故に復活するということもあるのではということです。

しかしこれとても解析の対象データが正しく収集されてそれが正しく解析されるという前提でこそなので今回のディオバンをめぐる事件のようにデータが操作されたらこれはどうしようもありません。

Natureに発表されたネズミを用いた研究成果を読んで次の日から自分の眼の前の患者に適応するぶっ飛んだ臨床医というのはほとんどいないと思いますが、New England J MedicineとかLancetに掲載された論文を読んでというか(たぶんabstractだけしか読んでいなくとも、またそれを解説した日本語の記事だけ読んで)その日から自分の臨床に適応する何ともナイーブな医者は多いと思います。

またこの世界、聞いたこともない雑誌に掲載された研究成果でも日本人が対象の初の大規模研究なんですというような言い方で宣伝される場合があります。何となく価値があるような気がするものです。

医者にはすごく強い裁量権が認められていますが個々の医者を「納得」-すごく広い意味です-させる材料をそろえれば”reverse”された療法・診断法を選択させることは製薬会社・医療材料会社には可能です。


大人の発達障害ってそういうことだったのか」 を読みました。

確かに某大学にはどう考えても発達障害だと思うしかない教授がいました。廊下で会っても挨拶もしないのはたぶん「病気」ですよ。 大学にはそのような人がごろごろいます。研究だけやっているにはよいと思いますが診療科を率いているとするとちょっと怖いですね。

関西弁講義

書店で見かけて買ってしまいました。ぼくは関西歴30年以上なのですがそうだったのかと思う事がいろいろと書いてありました。

 ホッチキス買いました。素晴らしいです。


日曜日の午後教室の先生の結婚披露宴に出席しました。

結構堪能しました。末永くお幸せに!!

隣の席にお座りになっていた現在は某病院の院長先生が面白い人でちょっと「びっくり」しました。


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