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寝取られ令嬢の逆襲 作者:ねこやしき
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「ルシアナが身分と金だけの女、ねえ? 一体君は何を見てそんな事を言っているんだい?」


 ルシアナを背後に庇って立ち、いかにも小馬鹿にしたような声音でオスカーが問うと、メリンダは眦を釣り上げて彼を睨んだ。


「だってそうじゃない! 髪だって陰気な黒髪、目も安っぽい緑で、体も痩せすぎて貧相だし、性格だってちょっと頭がいいからって男を見下すし可愛げが無いって皆言ってたわ! ヴィローザ家の娘じゃなかったらあんな女と婚約しないってね!」


 言いながらルシアナを見て嘲笑したメリンダは、オスカーの顔に目線を戻すなり身を固くする。


「……君は昔からそうやってルシアナをいじめていたよね。僕は知っているよ。人前では仲良さげに振舞っていたけど、二人きりと思っている時には外見の事を何度も貶して自分の姿を自慢していたよね。ルシアナの友人達はそれに気付いていたから、出来るだけ君達を二人きりにせず、事あるごとに思ったままルシアナを褒める様にしていたんだ」


 ルシアナからは顔が見えないオスカーの静かな言葉に思わず目を見開き、友人達の方を振り返ると、彼女たちはにっこり微笑んで軽く手を振る。

 ある時からやたら褒められるようになって不思議に思っていた事が、自分を励ますための気遣いだったと知ったルシアナは目頭が熱くなるのを感じて唇を噛んだ。


「僕が知ったのは十三歳位の、君と初めて顔を合わせた茶会でだけど、人目につかない場所で詰っている所を偶然目撃してね。不審に思ってルシアナの親友に聞いたら教えてくれたよ。ずっと幼い頃からメリンダがこそこそいじめているんだ、とね」


「い、いじめてたんじゃないわ! 皆に財産と身分のお陰で甘やかされてるルシアナが傲慢にならないように、本当の事を教えてあげてただけだもの! 感謝して欲しい位よ!」


 妙にひきつった声でメリンダが叫ぶも、オスカーは鼻で笑って彼女の言葉を切り捨てる。


「何が本当なんだい? ルシアナの髪はベルベッドの様に艶やかで美しいじゃないか。磁器のような白い肌に漆黒が映えて、まるで夜の女王の様だと昔から思っていたし、纏めていると艶やかなのに下ろしているとくるくるした巻き毛が動くたびに跳ねてとても愛らしい。瞳は真夏の日差しに透けた木の葉の様に鮮やかに澄んでいて、でもエメラルドの様に深くて美しいよ」


 手放しの賛辞に思わず羞恥を感じて頬を熱くしながらちらりとオスカーを見上げると、肩越しにこちらを見下ろす琥珀色の瞳がにこりと微笑んだ。


「全体的に猫みたいで可愛いのに、顔立ちだけ取ってみると整っていてとてもきれいだ。僕は猫が好きだからね、君に初めて紹介された時になんて可愛い子なんだろうって思ったよ。大きな緑の目の、少し臆病だけど賢い猫みたいで、こんな女の子がお嫁さんになってくれたらどれだけ嬉しいだろう、って思ったけど……僕は次男だったからね。ヴィローザ伯爵の愛娘を妻に望める立場じゃなかったし、君はその後すぐに婚約したから諦めるしかなかったんだ」


 重ねられる賛美に狼狽えていた所で最後に予想外の言葉を告げられて、ルシアナは更に大きく目を見開いて思わず彼を凝視する。


「何が猫よ! ただの底意地悪そうな顔じゃない!髪だって肌だってお金をかけて手入れして、そんなに良いドレスと宝石を付けてればどんな不細工だってそれなりに見えるわよ! 私は今のままでもこれだけきれいなの! 侯爵夫人になってたっぷりお金を掛けたら誰にも負けないわ!」


 元婚約者達をそっちのけにして見つめ合う二人に苛立ったメリンダが叫ぶと、オスカーが琥珀の目でちらりとそちらを見やり、フン、と鼻で笑った。


「まあ、君も顔立ちは悪く無いよ。ルシアナと血は繋がっているしね。でもね、品性や知性、人格は顔に現れるんだよ。齢を重ねる程に。君の顔は非常に下品で知性が感じられない。何せルシアナに対抗する事しか考えていないから、人格が未熟で浅くて空っぽだ。知性は勿論貴族らしい品性すら無い」


 ぴしゃりと言い放ったオスカーの言葉に、メリンダが青筋を立てる。


「私のどこが下品なのよ! ルシアナなんて性格の悪さで目がつり上がってるじゃない!」


「まずそんな風に怒鳴る令嬢は有り得ないね。それに品性と知性がある淑女なら婚約者のいる男に擦り寄って宿や休憩室に籠ったりしない。ふしだらで気持ち悪いよ、君」


 気持ち悪い、と言われたメリンダが絶句し、顔を引きつらせている間に、オスカーは更に言葉を重ねた。


「ひきかえルシアナは淑女としての教育は完璧。この騒動の中でも声を一度も荒げていない。知性については君も知っている通り学園でも実に優秀だった。総合で五位に必ず入っていたよね」


 そこで言葉を切り、つくづくとメリンダを見詰める。


「君は……何位だったんだい? 確か百数十人中九十位以下のクラスにいたよね。まあ、妻にする女性にさして優秀さを求めない男性も多いけど、侯爵夫人になる女性ならいざという時執務をある程度任せられるだけの知性が必要だよ。君はディレンズ領とその近辺の領の特性や各領主の血統、派閥、人脈、先祖の功績、国王陛下からの信頼の度合い、婚姻によるものを含んだ縁戚関係……これ位は把握した上で侯爵夫人になろうとしているかい? ああ、ディレンズは外交に携わる家だから、外国語は最低五ヵ国語、各国の王族、主だった貴族の顔や名前、派閥に思想傾向、他国との重要な縁戚関係、我が国との関係や因縁も把握しなくてはならない。まあ最低限のこれだけでも君には出来ないだろうが、その点ルシアナはこちらも完璧だ」


 何度か口を挟もうとしたメリンダに一切発言させる事無く言い連ねたオスカーが再び鼻で笑ってから、体ごと向き直ってルシアナに目線を戻し、微笑む。


「勿論、ルシアナが今ほど優秀じゃなくても、美しく無くても、僕は君が好きだよ。幼い頃からずっと。……改めて、政略とは関係なく、言わせてもらう。君を愛してる。僕と結婚して欲しいんだ、ルシアナ」


 跪き、呆然としているルシアナの手を取ったオスカーが告げると周囲がしんと静まり返り、続いて背後の友人達がわっと盛り上がって拍手と祝福の歓声を送り始める。


 その音に我に返った周囲の者達も拍手と共にはやし立て、会場は歓声や口笛、拍手が合わさって一時凄まじい盛り上がりを見せた。


続きは明日朝9時に投稿予定です。

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