「アポロ計画による人類の月面着陸はなかった」「実はテロを計画しているのは政府だ」「宇宙人はもう地球にやって来ている」「世界を動かしているのは、フリーメーソン、イルミナティ、ロスチャイルド、ロックフェラーなど影の実力者」……など、世界には実にさまざまな陰謀論が溢れている。
ところで、陰謀論に魅せられる人々には、通常と異なる気質が具わっているのだろうか? 陰謀論は、他者そして世界に対する開かれた心と、強い関心がなければ、決して語り得るものではないように思えるが、実際のところはどうなのか? 今、この疑問に答える研究成果が発表されたとして大きな話題となっているようだ。
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■社会心理学の研究者が指摘! 陰謀論者の本性
陰謀論者の精神的特性について、思いもよらない結論を導き出したのは、英・ケント大学で社会心理学の教壇に立つアレクサンドラ・チホツカ博士の研究グループだ。博士らが、学術誌「Social Psychological and Personality Science」上で今月公開した論文によると、なんと陰謀論を信じる人は“ナルシスト”であり、かつ“自尊心が低い”のだという。
研究グループは、万全を期すために計3回、のべ数百人の被験者を対象として陰謀論やパーソナリティについてのアンケート調査を実施し、今回の結論に至った。
■自尊心の低いナルシストで「かまってちゃん」?
第1回目の調査では、まず被験者202人に対してさまざまな陰謀説が提示され、それを各自がどの程度信じているか質問が投げかけられた。それと同時に、各被験者がどれだけ自己を愛しているか、つまりナルシストである度合いや自尊心の強さも調べられたという。
その結果浮かび上がったのは、陰謀論を信じる人ほどナルシスト的なパーソナリティを強く示しつつ、一方では自尊心が低い傾向にあるという事実だった。
「自尊心の低いナルシスト」――これは一見したところ矛盾した話にも思えるが、過去の研究によると、相反するような気質が個人の中で共存することは決して珍しくないのだという。ナルシストで自尊心が低い場合、人は他者から承認されたいという欲望を強く抱くとともに、ふとしたことで他者から攻撃されていると感じてしまう。つまり、「かまってちゃん」のような性格になるようだ。
■他者に理解はしてほしいが、人間を信じていない
「陰謀論は、集団的な悪意につながりがちです。私たちは、陰謀論の承認とは、それが個人や集団の自己陶酔につながる結果起きるのではないかという点を明らかにしたかった」
インタビューでこのように語ったアレクサンドラ・チホツカ博士。276人の被験者を対象とした第2回目の調査では、陰謀論を好む人が(自己もしくは同様の信条を持つ他者に対して大いに価値を見出す)集団的ナルシシズムの状態にあるのかどうかという点が調べられたという。
しかし結果では、自尊心が低いナルシストである陰謀論者が、集団的ナルシシズムというよりも、自らの主張を他者にわかってほしいと考えていることが判明した。つまり、陰謀論者は集団的に連帯する傾向にはないが、他者にも理解してほしいと思っている以上、それが単なる個人的信条に留まっているとも言い切れないわけだ。また、ここでも陰謀論者が「かまってちゃん」であることが裏づけられた形になる。
そして500人以上の被験者を対象とした第3回目の調査では、陰謀論を好む人の低い自尊心の根底には、人間という存在に対する否定的感情が潜んでいる可能性を示す結果が得られたという。
■陰謀論者だからナルシスト? それともナルシストだから陰謀論者?
「もしかするとナルシストは、自己中心的な自意識によって陰謀論を信じてしまう傾向にあるのかもしれません」
「誇大妄想的傾向にあるナルシストにとって、陰謀論は膨れ上がった自己愛に強く訴えかけてくるものがあるのでしょう」
こう語る研究グループだが、たとえば夢に破れて打ちひしがれている自分がいるとして、その理由を陰謀に求めることは、今回の研究結果が示した“陰謀論者像”にまさに合致していることになるのだろう。
なお、博士らは「“自尊心の低いナルシスト”としての気質と陰謀論を好む気質のうち、どちらが先に立つものであるかについては判明していない」と、今後調査すべき課題についても言及している。果たして、陰謀論好きの読者は今回の研究結果に納得しただろうか? 自身の性格と比較してみてほしい。
※イメージ画像:「Thinkstock」より