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宮廷【獣医】、国外追放のち獣の国で幸せになる~森で会った神獣を治療したら、臣下のケモ耳少女たちから好待遇で雇われました。え?動物たちが言うことを聞かないから帰ってこい?いやちょっと無理ですね

作者:茨木野

最近流行の追放ものにチャレンジしてみました!

連載候補の短編となってます!



「おい、【ジーク】。この給料泥棒。こんなとこで何やってんだ?」


 王都郊外にある、国営牧場にて。


 俺【ジーク】が家畜の牛たちを見ていると、宰相が柵の向こうから俺に声をかけてきた。


 作業をやめて、俺は彼に近づく。


「宰相殿。この牛たちにビタミン剤を打っておりました」


 手に持っていたマジック注射器シリンジを見せる。

 魔力を込めると最適な注射針、薬液を満たすことができるというもの。

 俺が開発したものだ。


「ビタミン~? なぜそんなことをするのだ?」


「食肉用の牛はサシを入れる関係でどうしてもビタミンが不足しがちだからです」


 しかし俺の説明を聞いても、宰相はフンッ、と小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「食用に買っている牛にそこまで手をかける必要などない。金の無駄だ」


「しかしきちんと手入れした方が結果的に質の良いものを安価で提供でき、国民が満足するかと……」


「ああもううるさい! この給料泥棒! おまえのへりくつはもううんざりだ!」


 ぺっ……! と宰相が俺につばを吐く。


「ジーク、おまえたち【獣ノ医師】は昔からそうだ。動物のためとかぬかし、余計な金を捻出させよって!」


 俺たち【ベタリナリ】の一族は、【獣ノ医師】といって、だいだい国に仕え、国の所有する動物たちの治療・管理を行ってきた。


 国は多くの動物たちを抱えている。運搬用の馬、家畜用の牛だけじゃない。

 竜騎士たちのドラゴン、国防用に特別訓練された使い魔。


 それらの体調を管理するのが、俺たち獣ノ医師だ。


「余計なって……全部必要なことです。動物の飼育管理には手間暇がかかる」


「黙れ! 畜生に薬なんて上等なものは無駄なのだ! おまえも無駄だ! 無駄無駄無駄!」


 ドンッ……と宰相が俺のことを突き飛ばす。

 近くに詰んであった牛糞のなかに、ぐしゃっ、と俺はツッコむ。


「城に戻る前にしっかり風呂に入っておけ。牛糞臭くてかなわんからな」


 俺をせせら笑うと、宰相は立ち去っていった。


「やれやれだ……」


 よいしょ、と俺は立ち上がる。


「無駄……かぁ」


 獣ノ医師は、人間の医師くらべ重要度は低いとされる。


 そりゃそうだ、家畜は結局最後には食われる。

 そんな命を、なぜ救うのかと馬鹿にするものも多い。


「動物だって生きて、命があるんだ。病気もするし怪我もする。こいつらの声なき声を聞き取り、それを救えるのは、獣ノ医師だけだ。誇りある仕事だよ、なぁ?」


 俺は牛に語りかける。

 やつらはのんきに草をはっていた。


 だが今朝よりは心なしか、元気よくもりもり草を食っていた。


 ま、牛だしな、ありがとー、なんて言われるわけもない。


「じゃあな、また来るわ」


    ☆


 国営の牧場は王都郊外から、結構離れている。


 地竜の【ちーちゃん】の背中に乗って、王都を目指していた。


「ぐわっ! ぐわっ!」

「どうしたちーちゃん、荒ぶってんな」


 地竜とは人間より一回りくらい大きな、走ることに特化したドラゴンだ。


 この子は幼竜のとき、怪我していたところを俺が保護し、以後育てている。


「ぐわー!」

「俺のために怒ってくれてんのか? ありがとなー」


 よしよし、とちーちゃんの長い首を撫でる。

 宰相に突き飛ばされている現場を、この子は目撃していたのだろう。


「ま、よくあることだ」

「きゅーん……。きゅ? きゅいきゅい!」


 ちょうど森にさしかかったそのときだった。


 ちーちゃんが足を止めたのだ。


「どうしたちーちゃん?」

「ぐわー!」


 ダッ……! と地竜が突如として走り出したのだ。


「お、おい! 王都はこっちじゃないぞ! どこいくんだよ!」


 だがちーちゃんは勝手に森の奥へと進んでいく。


 ややあって、俺は【それ】を目撃した。


「怪我してる……犬?」


 真っ白な毛の犬が、森のなかに倒れていたのだ。


「なるほど、弱っているこの子を助けて欲しいんだな」

「ぐわー!」


 俺はちーちゃんから降りて、さっそく犬のそばへと向かう。


 かなり小さい子犬だ。

 俺が近づいても微動だにしない。よほどヤバい状況だろう(野生動物は絶対に人間を近くに寄せ付けないからな)。


 マジック注射器を取り出し素早く採血。


「【医療鑑定】」


 シリンジに鑑定魔法を使う。

 これは通常の物体の価値を見抜く鑑定を応用し、採取した血液の成分から、患畜の状態を調べる魔法だ。


「毒素が検出された。なにか毒草でも食ったな」

「きゅ、きゅー……」


 子犬が怯えた目を俺に向けてきた。


 知らない人間がそばにいたら、怯えるのは当然か。


「安心しな、悪いようにはしない。俺は獣ノ医師だ」


「きゅー……」


 ちーちゃんの背に積んでいたリュックから治療道具を取り出す。


 採取した血液をより詳しく鑑定した結果、食べた毒草が【しびれ草】のだと判明。


「良かった、大がかりな手術は必要なさそうだ」


 解毒に必要な薬草をリュックから取り出す。


「【調剤】」


 必要とされる薬草を混ぜ、薬を作り出す獣ノ医師に伝わる固有スキルだ。


 薬草が空中で成分抽出され、調合され、そしてマジック注射器のなかに薬液が満たされる。


「これを打てばすぐに治るからな。ジッとしてろよ」


「きゅー……」


 不安げに子犬が俺を見上げてきたので、その頭を撫でてやった。


 すると子犬は安心したように目を閉じる。

 俺は素早く薬液を投与すると、ほどなくして子犬の震えが止まった。


「きゅー!」


 むくり、と子犬は立ち上がって、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「ははっ、元気になって良かったなぁおまえ」


 子犬は俺を見上げて、ペコッ……とお辞儀をした。


 え、お辞儀?


『ありがとー! このおれー、ちゃんとするー!』


「は? え? なに……動物がしゃべった!?」


 突如として突風が吹く。


「うわっぷ!」


 砂塵が巻き上がり、次の瞬間には……さっきの子犬が消えていた。


「なんだったんだ……あの犬? 夢?」

「ぐわー!」


 ちーちゃんが俺の頬をペロペロとなめる。

 そのくすぐったさは、今夢の中じゃないことを教えてくれた。


「魔獣だったのか? けどあいつらは魔王に意思を乗っ取られててコミュニケーション取れないし……」


 いわゆるモンスターかと思ったんだが、どうやら違うようだ。

 あいつらは人間を見かけると見境なく襲ってくるしな。


「ま、不思議なことも……あるもんだな」


 と、このときはそれ以上深く考えないでいた。


 まさかその後、ちゃんと恩返しに来るなんて、思ってもいなかったけどな。


    ☆


「ジーク、おぬしはクビだ」

「え……?」


 王城に戻って、風呂に入った後。

 俺は国王に呼び出され、王の間へとやってきた。


「あの……どうしてでしょうか?」

「宰相から報告を受けた。おぬしがいるせいで莫大な額の余計な金がかかっているとな」


 国王その場で宰相が、ニヤニヤ笑いながら立っている。


 あの野郎……!


「おっしゃるとおりです国王陛下。大量消費、大量生産のこのご時世、獣ノ医師など、もはや今の世の中には必要ないのでございます」


「うむ、そうだな。畜生ごときに医師を用意する必要もない。死んだらまた産ませればよいだけのこと」


 なんともひでえ言い方だった。

 動物を文字通り【動く物】程度にしか思っていないようだ。


「貴様がいなくなれば、高い給金を払う必要も、不必要に要求されていた飼育管理費もコストカットできる。浮いた金でより多くの獣を飼えば医師など不要なのだ」


 宰相がニヤニヤと邪悪に笑いながら言う。

「ジークよ、何か反論はあるか?」


「はぁ……じゃあ、一言だけ。本当にいいんですか? この国大変なことになりますよ」


「「は……?」」


 訳わからんみたいな顔をされてしまった。

「理由は二つ。1つ、動物の体調管理は非常に繊細です。一歩間違えば疫病が流行って家畜たちが全滅、なんてことも普通にあり得ます」


 家畜が死滅すればこの国の食糧事情は大変なことになるだろう。


「2つ。竜や使い魔は魔獣です。あいつらにはプロの管理者がいないと途端に暴れ出して、人を普通に傷つけます」


 魔獣は魔王の支配を受けているせいもあって、人間を見境なく襲ってくる。


 しかし獣ノ医師たちは、魔物を従える特別な【管理術】を習っている。

 裏を返せば、獣ノ医師がいなくなると、魔物が言うことを聞かなくなるということ。

「ジーク、おまえは知らぬだろうが最近【調教具】という魔法道具が開発されたのだ」


「ちょうきょうぐ……?」


「つけるだけでたちどころに魔獣を従えることのできる不思議なアイテムだ!」


 う、うさんくせえ……。


「要するに魔法で無理やり従わせるってことですよね。そんな相手の気持ちや尊厳を踏みにじるようなアイテムを使ったら、魔獣達はもっとストレスを感じていつか暴動を起こしますよ?」


「はぁ? 畜生風情に自我があるとでも思っているのか? 愚か者め」


「ぷぷ……陛下。どうやらジークは少々妄想癖があるようですね……雇っていても国にとって不利益になるだけかと」


 ……ああ、ダメだこいつら。

 人間様にしか心がないとでも思っているらしい。


「ジーク、貴様はクビだ。それに今まで獣ノ医師しか魔獣を管理できぬと嘘をつき続けたことも重罪である」


「いや嘘じゃないんですが……」


 魔獣管理術は獣ノ医師たち相伝の秘術なんだけど……。


「だが今まで国に仕えてきた功績も加味し、国外追放で許してやる。荷物をまとめ、早々に立ち去れ」


    ☆


「国外追放ってマジかよ……はぁ……」


 俺は地竜のちーちゃんの背中に乗って、国の外をえっちらおっちらさまよっていた。


「死んだ親父もおふくろも、天国で怒ってるだろうなぁ……」


 ベタリナリ家は長男の俺と妹がいるだけだ。

 両親は数年前に死んでしまっている。


 妹は魔法学校を卒業後、家を出て一人暮らしをしている。


 出て行った後一度も実家に顔を出してないので、嫌われてしまっているのだろうなぁ俺は。


「こういうとき身を寄せる先のない独り身はさみしいぜ……」


「ぐわー! ぐわー!」


 ちーちゃんが抗議の声を上げる。


「ああ、すまん。おまえがいたな。よしよし、ふたりでこれからも頑張ろうぜ」


「ぐわー!」


 とはいえ、だ。

 これからどうすればいいだろう。


「別の国で雇ってもらうか? でも……そんな都合良く獣ノ医師を雇ってくれるとこなんてあるかな」


「きゅー……」


「ま、クヨクヨしてても仕方ねえな」


 と、森のなかを歩いていた、そのときだった。


「きゃー……!」


 どこかから女性の悲鳴が聞こえた。


「ちーちゃん、声のした方へ!」

「ぐわー!」


 ドドドッ! と地竜が高速で走り出す。

 馬なんて比じゃない速さだ。


 木々の間を抜けると、開けた場所に到着する。


「オーガか」


 人の倍以上の体を持つ大鬼だ。

 それが10体いて、女性を襲おうとしている。


「グガガァアアアアアアア!」


 オーガの一体が手に持った棍棒で、女性に殴りかかろうとする。


「よっと」


 俺は地竜の背を蹴って、オーガめがけて跳び蹴りを食らわせる。


「え?」「ぐが……?」


 オーガは俺に蹴飛ばされて、凄まじい速さで吹っ飛んでいく。


「おまえら、この人に何の恨みがある?」

「ぐ、グガァアアアアアアア!」


 オーガは魔獣の一種、魔王に自由意志を奪われている。


 管理術を使えば言うことを聞くようになる……が、時間をかけてやる物だ。


「仕方ない、悪く思うなよ」


 オーガ達は俺をめがけて駆け寄ってくる。

 俺は右手を彼らに向けて、獣ノ医師としての力を発動させる。


「【麻痺パラライズ】」


 周囲に電流が走ると、オーガ9体がいっせいに体を硬直させる。


「【眠りスリープ】」


 右手から白い煙が発生する。

 動けなくなったオーガ達は、その煙を吸うと、バタン……! と倒れる。


「ふぅ……大丈夫か?」


 腰を抜かしている女性の元へ向かう。


 十代半ばくらいだろうか。

 メイドのようなエプロンの上から、軽鎧を来ている。


 よく見ると頭から猫の耳を生やしていた。


「お、オーガはBランクと聞きます。10体を、一瞬で倒すなんて……著名な冒険者のかたですか?」


「え、ただの獣ノ医師だけど……」


「医師? 医師なのですか、あなたは。でも、どうしてこんなにも強いのです?」


「そうか? 普通じゃないか」


 魔獣相手に治療することもあるので、昔から体は鍛えていた。


 麻痺や眠りは手術に使う物を応用したものだ。


「すごい……やはりあなた様は、ウワサ通りの凄いお人です!」



    ☆


「申し遅れました、わたしは【ミント】。獣人国ネログーマで近衛騎士を務めております」


 俺が助けた猫耳少女が、ペコッと頭を下げる。


「獣人国って……たしか東方にある、緑豊かな国だよな」


 深い森には魔石などの資源が多く眠っており、周辺国とくらべかなり裕福だと聞く。

 でもあそこって……確か国交を断絶してるんだよな。


 昔獣人は虐げられていた時期があって、人間その他を毛嫌いしていると聞いたことがある。


「どうしてこんなとこにいるんだ?」

「それは……」


 ミントが答えようとした、そのときだ。


『あたちが連れてきてって、たのんだのー!』


 ぴょんっ、と俺の肩の上に何かが乗っかる。


「うおっ、この間の白いワンコじゃないか」


 森のなかで、しびれ草を食って動けなかった子じゃないか。


 て、ゆーか……え、えええ!?


「おまっ、しゃ、しゃべてるぅ!?」

『しゃべるってるー!』


 しゃべる犬など聞いたことがない。

 文献では高位の魔獣がしゃべると聞いたことがあるが……けれどこの子からは魔獣特有の邪気を感じない。


「その御方はわがネログーマにおわす【神獣】でございます」


「し、しんじゅう……?」


「ええ。古来よりこの世界に存在し、特別な霊力を持つ偉大なる獣様、そのご令嬢でございます」


『あたち、【ハク】! ごれーじょー!』


 どうやら俺が助けたのは、とんでもない動物だったらしい……。


『あたち、おにーちゃんに会いに来たのー! おれい、言いたいのー!』


「お礼……? なんかしたか俺?」


 するとミントは感極まったような表情で、声を震わせていう。


「なんと……神獣様のお命を救ったというのに、さも当然のことのように振る舞う。誠に見事な御仁でございますな、ハク様!」


『そー! おにーちゃんちょーいーひとでしょー!』


 するする、とハクは俺の肩を昇って、頭の上に乗る。


『あたち、おきにいりました!』

「なんと! では、神子に選んだのですね!」


『うんっ!』


 な、なんだかよくわからない事態になってるですがそれは……。


「神子様、お名前を伺っても良いでしょうかっ!」


 ミントが俺の手を掴んで、キラキラした目を向けてくる。


「え、えっと……ジーク・ベタリナリ。ジークでいいよ」


「ではジーク様! ぜひ、わが獣人国に来てはいただけないでしょうか!」


 獣人国に、来る、だぁ……?


「え、あそこって人間は入れないんじゃないのか?」


「本来ならば、ですが、あなた様は特別です。我が国の大切な客人としてぜひ迎え入れたいと存じます」


「いや……でもな……急に言われても……」


「ああ、すみません。あなた様は医師とうかがいました。そうですよね、元の生活がありますものね」


「あ、いや……たったいま国外追放になったばっかりかだけど」


「ならば好都合です!」


 お、おう……ぐいぐい来るなこの美少女。

「お仕事がないのでしたら、ぜひ宮廷医師として我が国で働くのはどうでしょう」


「宮廷医師……いや、俺人間の治癒師じゃないが」


「我が国の全員が獣人でございますゆえ」


 なるほど、獣ノ医師としての技術が使えるかも知れないってことか。


「ちなみに宮廷医師お給金は、元いたところの3倍……いや、5倍は出しましょう。週休も3日。ボーナスも支給しますし、各種手当てのほか、福利厚生もしっかりとしております」


「乗った!」


 なんて素晴らしい好条件。

 断る理由なんてない!


「では、参りましょう。ご案内します、我が国へ!」

『やったー! おにーちゃんとずぅっといっしょー!』


 かくして、俺は獣人国に雇われることになった、のだが……。


『ぐぬぬ、ジーク……あったばかりの女の子にデレデレしてっ。ひどいっ!』


「え? な、なんだこの声……?」


 どこからか、若い女の子の声が聞こえたような気がした。


 でもミントでも、ハクでもないし……。

 この場にいるのは、他に地竜のちーちゃんだけだ。


「どうしたのですか、ジーク様?」

「あ、いや……気のせいかな。いこうぜ、ちーちゃん」


 俺は地竜のちーちゃんにまたがって、ミントたちとともにその場を後にする。


『獣人なんかにアタシの大事なジークはゆずらないんだからねっ!』



    ☆


 ジークが獣人国へと向かった、一方その頃、宰相はというと。


「くくく……上手くいったわ」


 私室でひとり、ワインをあおっていた。


「畜生どもを管理するスタッフも安く手配済み。ジークに払っていた分の給金との差額は、まるまる我が懐に入ってくるという寸法よ……くくく」


 祝杯をかかげる宰相。

 そこへ、国王が入ってくる。


「これはこれは陛下」

「うむ、なにやらうれしそうだなぁ、宰相よ」


 国王は宰相の正面の、ソファセットに座る。


「陛下こそ、目障りなお荷物が消えて喜んでいるのではないですか?」


「うむ。牛や竜の管理など誰でもできるのだ。獣ノ医師などというたいそうな称号とともに城内部でデカい顔をされているのが気にくわなかったのだ」


 宰相は国王にワインをつぐ。


「して、宰相よ。ジークの処分についてだが」


「すでに手練れの暗殺者を、手配済みでございます」


「うむうむ、よいぞ。ジークめ、国王たるわしを脅迫したのだ。ただですむと思うなよ」


 本当は処刑したいところだったが、そんなことで死罪にしたとなれば国民から非難されてしまう。


 ゆえに国外追放してから、暗殺者に殺させようとなった次第。


「ええ、なにが大変なことになるですか。馬も竜も大人しくしております。肉も滞りなく市場を回っております。すべてはあの男がついた保身のための虚言にすぎません」


「つくづく度しがたい男だ。無能の分際で高い金をもらっておき、あまつさえ偉大なる国王に脅迫するなど」


「まったくそのとおりです! 死んで当然かと!」


 ふたりが邪悪に微笑む。


「ところで、神獣の捕獲はまだできていないのか?」


 ここ最近、王都周辺で神獣の目撃情報があった。


 神獣は【瑞獣】ともいう。

 手に入れた国には、大いなる繁栄をもたらすと古来より言い伝えられている。


「罠をあちこちにしかけているのですが、今のところ捕獲成功の報告は入っていません」

「そうか……神獣を捕まえれば、我が国は更なる発展をとげるだろう」


「ええ、さすれば歴史に、国をさらに豊かにした国王陛下の名前が賢王として、末長く残ることでしょうなぁ」


 ……しかし、国王は知らない。

 神獣はとっくに、王都から去っていったことを。


 国王は知らない。

 神獣を傷つけたものは、逆に大いなる災いに襲われることを。


 ……そして、彼らは知らない。

 国で保管していた魔獣達が、獣ノ医師がいなくなったことで、管理下から解き放たれたことを。


 このときの彼らは、なにも知らなかった。

 

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