新型コロナ・ウィルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)に関して、「希望者全員にPCR検査をすべき」との論調がテレビのワイドショーで散見されます。2020年8月9日の産経新聞によると東京都世田谷区が「何時でも、誰でも、何度でも」という世田谷方式で複数の検体を同一試料にまとめて検査する方針にしたようです。これは武漢でなされた方法と同じです。この稿では平成28年(2016年)第110回医師国家試験問題を題材として、症状のない人に検査する意義を考えてみます。この設問は「感度90%の検査」をする設定です。感度90%の検査で「陽性」と判定された場合、その病気である確率は「90%だ!」と考えてしまいませんか? 素人なら直感的にそう考えても不思議ではありません。ところが検査には「感度」の他に「特異度」という要因があります。さらに「検査前確率」がもっと重要です。そのため「偽陽性」とか「偽陰性」という問題が生じます。結論を先に書いてしまうと、次に示す設問の場合、その検査で「陽性」と判定が出ても、その病気である確率は「0.45%」にしかなりません。直感的な「90%」と実際の「0.45%」では、あまりにもギャップが大きすぎます。この違いはどうして生じるのでしょうか?
[設問]--------------------------------------------
ある疾患の有病率が0.1%であるとします。症状が何もないのに(ただ不安になって)、ある検査を受けたとします。その検査は「感度が90%」、「特異度が80%」です。この検査で判定が「陽性」と出た場合に、その人が本当に罹患している確率は何%あるでしょうか?
(補足)これは正しく陽性である確率すなわち「陽性適中率」を求める設問です。医師国家試験では検査後確率を求める設問となっています。
図1
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ここで示した「有病率」については後で触れますが、正確に表現すると「検査前確率」です。有病率0.1%とは例えば人口が1億人だとすると、10万人が発症していることです。この設問では「症状が何もない場合」という設定ですが、結果が「真の陽性」だったとしましょう。「真の陽性」とは体の中に原因となる菌やウィルスがいたということを示します。しかしながら「発症しているかどうか」は別問題です。そもそも症状が無ければ「発症している」とは言えません。この場合は単なる「無症候性保菌者(保因者)」という事です。これは新型コロナ感染について、特に注意すべき点です。「無症候性保菌者である」ということの他に、すでに体がウィルスを退治してしまった後で、極端に言うと「ウィルスの死骸」を感知しているかもしれません。ウィルスは死んでも一定期間はそのDNAは残るでしょう。
この問題を解くには「感度」と「特異度」の意味を知る必要があります。表を用いて説明します。表の縦(列)は、実際に「疾患が有る列」か「疾患が無い列」かを示します。横(行)は、検査で「陽性となる行」か「陰性になる行」かを示します。2×2の4通り(A~D)のセル(区画)ができます。
1.「感度90%」の意味
感度90%とは、その疾患に感染している人(A+B)のうち、ちゃんと「陽性である(A)」と結果を出せる確率が90%であるということです「A/(A+B)」。例えば100人の感染者がいたとすると、この検査により90人(90%)が「陽性」と出ます。この陽性という結果は正しいので「真の陽性(A)」です。しかしながら残りの10人(10%)は「陰性」と出てしまいます。この「陰性」と出てしまった結果は間違っています。そのため「偽りの陰性」ということで「偽陰性(B)」と言います。「真の陽性」とは「真陽性」でも構わないのですが、パッと見て「偽陽性」と紛らわしいので、この稿では注意を喚起するために「真の~」と書きます。
2.「特異度80%」の意味
特異度80%とは、その疾患に感染していない人(C+D)のうち、ちゃんと「陰性である(D)」と結果を出せる確率が80%であるということです「D/(C+D)」。例えば100人の非・感染者がいたとすると、80人(80%)が「陰性」と出ます。この陰性という結果は正しいので「真の陰性(D)」です。しかしながら残りの20人(20%)は「陽性」と出てしまいます。「陽性」と出てしまった結果は間違っています。そのため「偽りの陽性」ということで「偽陽性(C)」と言います。
繰り返しになりますが、(1)実際に疾患が有る場合に検査で陽性となるのは「真の陽性(A)」です。疾患があるのに、検査で陰性となってしまうのは間違ってますから「偽陰性(B)」です。感度は「A/(A+B)」として示され、疾患の有る人を正しく陽性と判定する確率を示します。(2)疾患が無い場合、検査で陽性になってしまうのは間違っていますから「偽陽性(C)」です。正しく陰性と判定されるのが「真の陰性(D)」です。特異度は「D/(C+D)」で示され、疾患の無い人を正しく陰性と判断する確率です。
理想的な検査とは、感度が高くて、なおかつ特異度も高い検査です。しかしながら通常は、「感度と特異度」がトレード・オフ(二律背反)の関係にあります。感度を高くしたいとき、すなわち「真の陽性(A)」を増やしたいとき、「偽陽性(C)」も多くなります。偽陽性(C)と真の陰性(D)の合計は一定ですから、「偽陽性(C)」が多いということは、「真の陰性(D)」が少ないという事です。従って「特異度が低い」ということになります。ある検査を組み立てるとき、結果は必ずしも白黒はっきりしているわけではありません。どこかで区切りを付ける必要があります。すなわち、どこかのレベルで妥協する必要があるのです。この境い目を「カット・オフ値」と言います。「感度」と「特異度」のバランスが難しいところですが、このバランスについては次の稿で視覚的に示します。
以上を踏まえて問題を解いていきます。この設問で求めるのは陽性適中率です。陽性適中率は「A/(A+C)」です。これは「陽性」という検査結果が正しい確率です。適合度とか精度とも言われ、「陽性」と判定が出た場合の信頼度を示します。この稿の最後に示しますが、これとは逆の陰性適中率は「D/(B+D)」です。これは陰性と出た場合の信頼度です。有病率(検査前確立)は「(A+B)/ (A+B+C+D)」です。「正確度(正診率)」についてはこの稿では触れませんが「(A+D)/(A+B+C+D)」で示されます。
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(1)検査前確率=0.1%の場合 (感度90%、特異度80%)
設問の設定のごとく、何の症状もないのに(不安だという理由だけで)検査を受ける人が1万人(A~D)いたとします。この感染症の有病率(=検査前確率)は0.1%ですから、この1万人の中に本当の感染者は10人(A+B)しかいません。非・感染者は9,990(C+D)人です。この検査の「感度は90%」ですから、本当の感染者10人のうち9人(90%)が「陽性」と出ます。この9人は「真の陽性」です。本当の感染者10人のうち1人(10%)は「陰性」と出ます(B)。この1人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,990人(C+D)でした。この検査の「特異度は80%」ですから、このうちの7,992人 (80%)が「陰性」と出ます(D)。この7,992人は「真の陰性」です。非・感染者9,990人のうち、1,998人 (20%)が「陽性」と出てしまいます(C)。間違った結果ですから、この1、998人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。
この設問で求めたいのは「陽性適中率」です(A/[A+C])。すなわち検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当にその病気である確率」は何%あるのか?というものです。「真の陽性者」は9人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者9人」に加えて「偽陽性」の人が1,998人です(C)。従って9÷(9+1998)≒0.0045となります。この設問の解答すなわち陽性適中率は0.45%です。0.45%の確率でしか「真の陽性者」を検出できません。
こんな陽性適中率では全く信頼できない検査という事になります。では実際の臨床場面で、どうすればいいでしょうか? 最初に「有病率=検査前確率」と書きましたが、これは正確ではありません。他に何のチェックもせずに「任意の人」を集めてきた場合は、確かに「有病率=検査前確率」です。従って、この設問のように「何の症状もないのに不安なだけで検査を受けた」という条件なら成立します。ところが通常は何らかの症状があって病院を受診するわけですから、全体の率(有病率)よりも病院を受診する人の集団では、疾患である確率は高くなります。従って「有病率<検査前確率」となります。ここから新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に関係してきます。この検査をする前に、別の方法で「対象患者を絞り込む」という作業が重要です。たとえば「37.5℃以上の発熱が数日続いている」とか、「COVID-19が確定した人と濃厚接触がある」とか、「味覚障害や嗅覚(きゅうかく)障害がある」とか含めたとしましょう。このような条件を加味して「検査前確率」が「5%」に上がった場合を計算してみます。これらの条件に合う人が1万人いた場合です。
(2)検査前確率=5%の場合 (感度90%、特異度80%)
検査前確率が5%になりましたから、1万人(A~D)のうち本当の感染者は500人(A+B)で、非・感染者は9,500人(C+D)です。この検査の「感度は90%」ですから、本当の感染者500人のうち450人(90%)が「陽性」と出ます(A)。この450人は「真の陽性」です。本当の感染者500人のうち50人(10%)は「陰性」と出ます(B)。この50人は、本当は陽性なのに間違って陰性と判定されたので「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,500人(C+D)でした。この検査の「特異度は80%」ですから、このうちの7,600人 (80%)が「陰性」と出ます(D)。この7,600人は「真の陰性」です。非・感染者9,500人のうち、1,900人 (20%)が「陽性」と出てしまいます(C)。本当は「陰性」なのに間違って「陽性」と判定されたので、この1,900人は「偽陽性」です。同じように表にすると次のようになります。
求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に、本当にその病気である確率は何%あるのかというものでした。陽性適中率(A/[A+C])を求めるものです。450÷(450+1,900)≒0.1915となります。陽性適中率が19.15%に上がりました。
日本ではCTスキャン検査装置が普及しています。これが他国と異なることでしょう。これで肺炎像が明らかな場合は、新型コロナ感染症の疑いがさらに高くなります。検査前確率がさらに高くなるということです。仮に検査前確率が20%になったとします。このような人が1万人いた場合です。
(3)検査前確率=20%の場合 (感度90%、特異度80%)
検査前確率が20%になりましたから、1万人(A~D)のうち本当の感染者は2,000人(A+B)で、非・感染者は8,000人(C+D)です。この検査の「感度は90%」ですから、本当の感染者2,000人のうち1,800人(90%)が「陽性」と出ます(A)。この1,800人は「真の陽性」です。本当の感染者2,000人のうち200人(10%)は「陰性」と出ます(B)。この200人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は8,000人(C+D)でした。この検査の「特異度は80%」ですから、このうちの6,400人 (80%)が「陰性」と出ます(D)。この6,400人は「真の陰性」です。非・感染者8,000人のうち、1,600人 (20%)が「陽性」と出てしまいます(C)。これは間違った結果ですから、この1,600人は「偽陽性」です。表にすると次のようになります。
求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に、その病気である確率は何%あるのかというものです。陽性適中率(A/[A+C])は1,800÷(1,800+1,600)≒0.5294となります。陽性適中率が52.94%に上がりました。
以上は架空の検査の場合でしたが、このように「感染者を選び出す」という目的のために、「すべての希望者」にPCR検査をするということは意味がありません。偽陽性者ばかりになってしまいます。その結果として医療現場に混乱を引き起こします。ですから疾患として症状のチェックやCT検査などを総合して「検査前確率を高くしておく」という必要があります。
この設問では検査の感度は90%としていました。これは相当に優秀な検査と言えます。現在、新型コロナ・ウィルスの検出に用いられているPCR検査については、「コロナ制圧タスクフォース」というインターネット・サイトによると、感度は70~80%くらい、特異度は99%くらいのようです。特異度が高いのは、断片であっても遺伝子自体の存在を確認するからかもしれません。そこで先ほどの設問を「感度が75%、特異度が99%」に置き換えてみると次のような設問になります。
コロナ制圧タスクフォース
https://www.covid19-taskforce.jp/[設問]--------------------------------------------
2020年8月の時点で、SARS-CoV-2の保有率(COVID-19の発症率とは異なる)は不明なので、仮に0.1%から計算を始めます。症状が何もないのに(ただ不安になって)、PCR検査を受けたとします。その検査は「感度が75%」、「特異度が99%」です。この検査で判定が「陽性」と出た場合に、その人が罹患している確率は何%でしょうか?
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(1)検査前確率=0.1%と仮定した場合 (感度75%、特異度99%)
何の症状もないのに(不安だという理由だけで)、PCR検査を受ける人が1万人(A~D)がいたとします。この設問の作業仮設として有病率(=検査前確率)を0.1%から始めます。この中に本当の感染者は10人(A+B)しかいません。非・感染者は9,990人(C+D)です。この検査の「感度は75%」ですから、本当の感染者10人のうち7.5人(75%)が「陽性」と出ます(A)。この7.5人は「真の陽性」です。本当の感染者10人のうち2.5人(25%)は「陰性」と出ます(B)。この2.5人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,990人(C+D)でした。この検査の「特異度は99%」ですから、このうちの9,890.1人 (99%)が「陰性」と出ます(D)。この9,890.1人は「真の陰性」です。非・感染者9,990人のうち、99.9人 (1%)が「陽性」と出てしまいます(C)。間違った結果ですから、この99.9人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。
この設問で求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当に感染している確率」は何%あるのか?というものでした。「真の陽性者」は7.5人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者7.5人」に加えて「偽陽性者99.9人」です(C)。陽性適中率は7.5÷(7.5+99.9)≒0.0698となります。この設問の解答は6.98%です。あくまでこの計算は検査前確率が0.1%の場合です。現状のCOVID-19とは合致しない可能性がありますが、検査前確率を高める作業をしない場合、低い確率でしか「真の陽性者」を検出できないことを示します。かなりの数の人が偽陽性になります。第2波と考えられる集団の中には症状が軽い人が多いようですが、そもそも「偽陽性」ならばCOVID-19で無いのであり、症状が軽いのは当たり前です。補足しておきますが、何も症状が無い場合でも「COVID-19に感染しても不思議でないような環境にいる人」は検査前確率がもっと高いことになりますから、次の(2)以降の場合に準じます。ただし何をもってリスクが高い環境かというのは判断が難しいところです。
(2)症状チェックなどで検査前確率が5%に上がった場合 (感度75%、特異度99%)
このような条件でPCR検査を受ける人が1万人(A~D)がいたとします。検査前確率は5%になりましたから、この中に本当の感染者は500人(A+B)で、非・感染者は9,500人(C+D)です。この検査の「感度は75%」ですから、本当の感染者500人のうち375人(75%)が「陽性」と出ます。この375人は「真の陽性」です。本当の感染者500人のうち125人(25%)は「陰性」と出ます。この125人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は9,500人でした。この検査の「特異度は99%」ですから、このうちの9,405人 (99%)が「陰性」と出ます。この9,405人は「真の陰性」です。非・感染者9,500人のうち、95人 (1%)が「陽性」と出てしまいます。間違った結果ですから、この95人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。
この設問で求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当に感染している確率」は何%あるのか?というものでした。「真の陽性者」は375人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者375人」に加えて「偽陽性者95人」です(C)。従って375÷(375+95)≒0.7979となり、陽性適中率は79.79%です。79.79%の確率で「真の陽性者」を検出できるようになります。
(3)さらに別の検査と組み合わせて検査前確率が20%に上がった場合 (感度75%、特異度99%)
このような条件でPCR検査を受ける人が1万人(A~D)がいたとします。検査前確率は20%になりましたから、この中の本当の感染者は2,000人(A+B)で、非・感染者は8,000人(C+D)です。この検査の「感度は75%」ですから、本当の感染者2,000人のうち1,500人(75%)が「陽性」と出ます(A)。この1,500人は「真の陽性」です。本当の感染者2,000人のうち500人(25%)は「陰性」と出ます(B)。この500人は「偽陰性」です。
一方、非・感染者は8,000人(C+D)でした。この検査の「特異度は99%」ですから、このうちの7,920人 (99%)が「陰性」と出ます(D)。この7,920人は「真の陰性」です。非・感染者8,000人のうち、80人 (1%)が「陽性」と出てしまいます(C)。間違った結果ですから、この80人は「偽陽性」です。これらを表にすると次のようになります。
この設問で求めたいのは、検査の判定が「陽性」と出た場合に「本当に感染している確率」は何%あるのか?というものでした。「真の陽性者」は1,500人です(A)。検査で「陽性」と判定されるのは、この「真の陽性者1,500人」に加えて「偽陽性者80人」です(C)。従って1,500÷(1,500+80)≒0.9494となります。陽性適中率は94.94%です。94.94%の確率で「真の陽性者」を検出できるようになりました。
2020年の春、日本はまだPCR検査をたくさんできる体制ではなく、いくつかの条件に合う人のみに検査をしていました。その時の作業能力にもよりますが、検査前確率を高くしたことは理にかなっています。効率的にCOVID-19を探し出すのには正しい方法でした。この後で陰性適中率について触れますが、この条件(感度75%、特異度99%、検査前確率20%)での陰性適中率は94.06%になります。陽性適中率(真の陽性者を検出する)は94.94%でしたから、「真の陽性」も「真の陰性」もバランス良く検出できる条件だと言えます。
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これまで提示した表から、陰性適中率(D/[B+D])を計算することもできます。すなわち、検査の判定が「陰性」と出た場合に、本当に陰性(真の陰性)である確率です。
(A)感度90%、特異度80%の場合(2016年の医師国家試験より)の陰性適中率
(1)検査前確率が0.1%の時
真の陰性は7,992人。偽陰性は1人。従って7,992÷(7,992+1)→99.99%
(2)検査前確率が5%の時
真の陰性は7,600人。偽陰性は50人。従って7,600÷(7,600+50)→99.35%
(3)検査前確率が20%の時
真の陰性は6,400人。偽陰性は200人。従って6,400÷(6,400+200)→96.97%
(B) 感度75%、特異度99%の場合(コロナ制圧タスクフォースより) の陰性適中率
(1)検査前確率が0.1%の時
真の陰性は9,890.1人。偽陰性は2.5人。従って9890.1÷(9890.1+2.5)→99.97%
(2)検査前確率が5%の時
真の陰性は9,405人。偽陰性は125人。従って9,405÷(9,405+125)→98.69%
(3)検査前確率が20%の時
真の陰性は7,920人。偽陰性は500人。従って7,920÷(7,920+500)→94.06%
PCR検査で「陰性」と判定された場合、本当に陰性である確率(陰性適中率)は高いようです。これは「偽陽性が多い」ということの裏返しですが、「陰性」だと知りたい場合に、この検査はそれなりに意味はあるのかも知れません。ただし、この結果をそのまま現在の新型コロナ感染症に当てはめるのは問題が残ります。諸検査を組み合わせて検査前確率を高くしておくと、陽性を検出する精度は飛躍的に高くなりましたが、わずかながら陰性適中率が下がりました。偽陰性が増えたという事です。「偽陰性」とは、「本当は陽性者」なのに「陰性」と判定される人です。体内にウイルスを持った偽陰性の人が安心してあちこち動き回るとスーパー・スプレッダーになる可能性があります。一方、偽陽性者は感染してないのに行動を制限されるだけで、他者に迷惑はかけないでしょう。結果的に軽症者の割合が増えます。
前記のようにCOVID-19のことが良くわかっていなかった頃、日本ではPCR検査をする際に検査前確率を高くする対応が厳しいくらいになされており、パニック的に病院に駆けつけることもなかったのですが、他の国では検査に集まった場所で感染した人もいたのではないかと想像できます。
(附記)
最初に出てきた世田谷モデルですが、仮に5人の検体を1組の試料として検査する場合、10,000人を対象とする場合は2,000組の検体を検査することになります。ある試料が陰性の場合は、その組の5人すべてが陰性という事になります。一方、1人でも陽性なら試料全体が陽性となります。陽性者を特定するためには、改めて5人全員の検査をする必要があります。
この5人のうちで組み合わせの数を考えると、
0人が陽性:5C0=1通り
1人が陽性:5C1=5通り
2人が陽性:5C2=10通り
3人が陽性:5C3=10通り
4人が陽性:5C4=5通り
5人が陽性:5C5=1通り
・・・となるはずです。従って1人以上が陽性となる確率は、(5+10+10+5+1)/( 1+5+10+10+5+1)≒0.969 → 96.9%だと思うのですが、これ以上はどうやって計算するのか分かりません。何時でも、誰でも・・・という検査では、偽陽性が多いのは既に示した通りですから大量の偽陽性検体が生じる可能性があります。陽性と判定された組の全員の行動制限をする訳にもいかないので、追加の特定作業が二度手間になるのではないかと思われます。