ノーベル平和賞 連携して危機に対処を

2020年10月13日 07時35分
 ノーベル平和賞に国連世界食糧計画(WFP)が選ばれた。コロナ禍で食料問題が深刻化、飢餓に起因する紛争も後を絶たない。世界が連携して危機に対応するよう促すメッセージと受け止めたい。
 WFP(本部・ローマ)は国連傘下の機関として、最大規模の人道支援を行っている。
 約六十年の歴史を持ち、二〇一九年には八十八の国・地域で約九千七百万人に支援を実施。日本人八十五人を含む約一万九千人の職員がおり、その九割は途上国の最前線に滞在し、困窮する人々を支えている。
 WFPの最大の特色は、自ら輸送手段を持ち、幅広い支援活動を展開していることだ。
 約五千六百台のトラック、三十隻の船、百機の飛行機を保有している。コロナ禍の中でも、飢饉(ききん)や水害地域に陸海空から穀物やコメを送っている。他機関の物資や要員を現地に運ぶこともある。
 バングラデシュでは少数民族であるロヒンギャ難民支援のため、地元住民とも協力して重機を使って土地を整備し、安全な難民キャンプを造成した。
 食料の安定供給のため、地元の農家への助成といった長期的な栄養プログラムも実施している。
 ノーベル賞委員会は、WFPへの授賞理由について、「(紛争地などにまん延する)飢餓と闘い、より良い平和な状態をもたらすため貢献した」とした。飢餓と紛争の悪循環に立ち向かうWFPの姿勢を、高く評価したものだ。
 一方、状況は急速に悪化している。WFPは深刻な飢餓に苦しむ人を約一億五千万人としていたが、コロナの影響で八割増の二億七千万人になると予測している。
 アフリカや南米などでは、コロナに加えバッタの大量繁殖などの影響もあって社会や経済のシステムが混乱し、飢餓の淵に追い込まれる人が増えている。
 こういった事態に対応するためWFPは、八百五十の非政府組織(NGO)や他の国連機関、地元政府とも緊密に協力している。
 世界では逆の動きが目につく。中でもトランプ米大統領は、自国第一主義を掲げ、国際協調を乱しがちだ。今回の平和賞の意味を、よく考えてほしい。
 WFPは各国からの拠出金や、企業、個人からの寄付で成り立っている。貧困や食料不足は、格差が広がる日本の問題でもある。平和賞受賞をきっかけに、われわれもWFPの活動に関心を持ち、積極的に支援したい。

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