第3部 ウィルガルド大陸伝奇
17年前、まだ23歳のマダム・ブラスターはレテ河の畔で
新しい回復薬の錬金術のレシピを考えていた。
木綿の平織りの質素なローブの夜着のまま、
ブルネットの一本の三つ編みにした腰まである長い美しい髪。
灰色の瞳。ほつれげが風になびく。
整った美しい顔は化粧けがなく、クールな面立ちの女学者は
何かの気配に気が付いた。
ここはレテ河の畔。もう夜中の2時ころである。
マダム・ブラスターは河岸の草むらに葦船を見つけた。
ここいらでは運悪く死んで産まれた赤子の遺体を葦船に乗せて流し、
再び産まれ変わってくることを願う葬式の習慣がある。
しかし、その赤子は生きていた。
しかしその子は手足も眼も鼻も耳も舌もなかった。
マダム・ブラスターはとっさにその子を自分の子として育てる決意をした。
そのまま、その子を拾うと、すぐに自分の仕事部屋に連れて行き、
ゴーレムの秘儀を行う準備を整えた。
素材は……
1、清められた子供の骨、一人分
2、粘土、
3、宝石数種類
4、金(これでゴーレムの耐久性が決まるため、
子供のために手に入る限りのかなりな金を用意した)
5、新鮮な人間の血液(これは自分の小指を切って用意した)
6、聖水
7、塩
これらの物を使い、彼女は100年は持つ最高のゴーレムの
身体を創り、呪われた赤子の身体に融合させた。
これで、赤子は誰が見ても、ごく普通の男の子の赤ん坊の姿になった。
しかし、彼女はそのとき、その赤子がさらに魂にまで、
とんでもない呪いをかけられているのに気が付いた。
さすがに、これは……ヤバイ! 詰んだか! と思ったが
彼女は、あらゆる自分の知識を総動員した。
古代の呪文書の術式をつかい、彼女はその場で新たな防御魔法を創造した。
そしてその防御魔法を赤子にほどこした。
それにより赤子は、ごく普通の子供と変わりなく過ごせるようになった。
彼女はその子にクリスタル・ブラスターと名付け自分の息子として育てた。