祝・MNOサービス開始1周年(仮)、楽天モバイルの不祥事を振り返る
2019年10月に楽天モバイルがMNOとして携帯電話事業に参入してから、1年が経過しました。
先行サービス(無料サポータープログラム)の開始日を基準に1周年と言って良いのかは微妙なところですが、当時彼らは散々「開始が遅れたわけではない」と言い張っていたので、まあ1周年ということにしておきましょう。2020年4月から一般受付が始まった正式サービスを基準にするなら半年経過ということで、どちらにせよ節目ではあります。
参入前後から楽天モバイルの動向を追い、実際にユーザーとしても利用した上で言えることは「通信事業者、インフラ事業者としてあまりにもお粗末でどうしようもない」「大口を叩くばかりで実体が伴っていない」「新規契約しておもちゃとして試すのは良いけど、絶対にMNPなどしてはいけない」といったところです。
あまりボロクソに書くと「新規参入だから大目に見ようよ」とか、どんな期待という名の勘違いをしているのか知りませんが「日本の携帯電話市場を変える期待のプレイヤーなんだから云々」とか言われそうですが、そういうレベルじゃないでしょ?安ければ本当にこんなので満足ですか?そもそも公共財である電波をこんなところに預ける価値ありますか?ということを改めて熟考していただくための資料として、参入決定から現在までの出来事を整理しておきたいと思います。
楽天モバイルの歴史(表)
諸々の問題に触れる前に、正史としての楽天モバイルの歴史をおさらいしておきましょう。
・2014年10月29日:楽天傘下のフュージョン・コミュニケーションズ(当時)が、MVNOサービス「楽天モバイル」を提供開始
・2015年12月1日:楽天本体にMVNO事業を移管
・2017年11月1日:プラスワン・マーケティング(旧FREETEL)のMVNO事業を承継、合計で140万回線突破
・2017年12月14日:MNOとして携帯電話事業に本格参入する意向を表明
・2018年1月10日:楽天モバイルネットワークを設立
・2018年4月6日:総務省電波監理審議会が1.7GHz帯(Band 3)の割り当てを決定
・2019年1月23日:関東、東海、近畿地方における特定無線局の包括免許を取得(以下、各地方の免許取得状況については省略)
・2019年4月1日:楽天モバイルネットワークから楽天モバイルに社名変更
・2019年9月1日:MVNOサービス「DMM Mobile」を承継
・2019年10月1日:先行サービス「無料サポータープログラム」の1次募集を開始(東京、名古屋、大阪、神戸在住の5000人限定)
・2020年1月23日:「無料サポータープログラム」の2次募集を開始(東京、名古屋、大阪、神戸在住の2万人限定)
・2020年3月3日:正式サービスに向けて、料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」を発表
・2020年4月8日:正式サービス開始
・2020年4月22日:パートナー回線エリア(KDDIローミング)での月間データ容量を2GBから5GBに増量
・2020年6月30日:Rakuten UN-LIMITの契約申込数が100万回線を突破
・2020年9月30日:5Gプラン「Rakuten UN-LIMIT V」を発表、同日から提供開始
楽天モバイルの歴史(裏)
表だけを見れば、5年足らずでトップに躍り出た強豪MVNOがMNOにステップアップしたという順風満帆な展開にも見えますが、実態としては多くの問題が山積しています。MNO参入表明から今までの主な不祥事を以下にまとめました。
・2019年3月6日:総務省から1回目の行政指導(基地局整備の遅れ)
・2019年7月17日:総務省から2回目の行政指導(基地局整備の遅れ)
・2019年8月26日:総務省から3回目の行政指導(基地局整備の遅れ)
・2019年10月:「無料サポータープログラム」開始
……SIMが届いても開通できない、設定ミスで当選者は5回線まで契約できてしまう(意図しない仕様)など、トラブルが続出
・2019年12月1日:無料サポータープログラムのオプション利用者に誤請求が多数発生
・2019年12月13日:約3時間の通信障害。ネットワーク設備のソフトウェア不具合により音声・データ不通
・2019年12月13日:総務省から4回目の行政指導(通信障害の件)
・2020年2月17日:大阪・名古屋の一部エリアで通信障害。音声通話が発信出来ず
・2020年3月26日:東京・大阪の一部エリアで通信障害。ネットワーク設備のソフトウェア更新後、接続が不安定に
・2020年4月:通話機能に関わる「Rakuten Link」のSMS認証を回避できてしまうことが発覚、14日に修正(※関連記事)
・2020年5月1日:無料サポータープログラムから正式サービスに移行したユーザーの一部が通信できなくなる不具合
・2020年6月26日:独自端末「Rakuten Mini」に関する問題を認める。対応バンドが異なるロット、技適未取得のロットが存在
・2020年7月10日:総務省から5回目の行政指導(Rakuten Miniの件)
・2020年7月17日:同日朝に広範囲で通信の停止を伴うメンテナンスを行うという内容の「システムメンテナンスのお知らせ」を誤掲載
・2020年9月11日:総務省から6回目の行政指導(値引き規制に抵触)
こんな短期間に6回も行政指導を受けるなんて全盛期のソフトバンク以上では……というのはさておき。6回目に関しては難解で誰の得にもならないゴミみたいな制度が悪いとすら思えますしね。
色々ありすぎですが、ざっくり分類すると「社会インフラとしての自覚のなさ」、受付体制やサポートなど通信以外の「ノウハウがあるはずの部分で繰り返されるトラブル」、色々透けて見える「Rakuten Mini騒動」の3点が大きいかなと思います。
主な問題点①:社会インフラとしての自覚のなさ
先にネットワーク品質の問題と書きましたが、始まったばかりのノウハウのないキャリアですし、エリアの狭さや展開の遅さ、そして多少の通信障害は起きても仕方がない……と言ってはいけませんが、必要以上に責めるべきではないと思います。
まあ、2018年末にソフトバンクが大規模通信障害を起こした直後に「(楽天モバイルのネットワークは)今までとは次元の違う安定性」とコメントしたり、汎用ハードウェアベースの仮想化ネットワークが偉いんだと喧伝してきたのにネットワーク設備の障害が立て続けに起きたり、「5Gレディの基地局(だから4Gから一気に切り替えられる)」と自慢していたのに実際の5G開始時のエリアはごく一部だったり、さんざん大口を叩いてきたのにフタを開けたらこんな有様だからあれこれ言われてしまうわけで、自業自得だとも思いますけどね。
話が少し逸れました。通信障害を例に挙げると「通信障害が起きてしまったこと」自体は新参者であるうちはある程度の理解は得られるでしょう。大きめの障害が起きたのは「無料サポータープログラム」の期間、いわばベータ版ですし。ただ、もはや社会インフラとして欠かせない携帯電話事業において、その「仕方ないよね」という猶予は「トライ・アンド・エラーを繰り返しながら成長していく」ことが全面的に肯定されるほど大きくはないでしょう。
起きてしまったことは仕方ないとしても、それに向き合う姿勢が一番の問題です。2019年12月の最初の通信障害が起きた際の初動対応は酷いものでサポートと揉めるユーザーも多数見受けられましたし、無料サポータープログラム開始直後の開通不能問題もRakuten Miniの件もそうですが、「非を認める」「適切な措置を取る」という判断が遅すぎます。
また、正式サービスの開始時にRakuten UN-LIMIT 2.0だなんだと仕様をコロコロ変えてユーザーを混乱させたり、実際のエリア展開状況とリンクしていないエリアマップを公開したり(ローカルネタすぎて書けませんが、全然合っていないところがたくさんあるんですよ)、何かと周知不足が目立ちます。
かと思えば大規模メンテナンスの誤掲載のように、軽率に誤った情報を提供してしまうという別の意味で自らが与える影響の大きさに気付いていないとしか思えないミスもあり、このあたりの問題を総括すると「インフラを担う自覚がない」という一言に尽きます。
主な問題点②:ノウハウがあるはずの部分で繰り返されるトラブル
前の項目でも書いた通り、新参者だから仕方ない部分はあります。通信関係で色々起きるのは5000兆歩譲って仕方ないとしても、振り返るとノウハウがあるはずの部分で起きているトラブルがかなりの割合を占めています。これは全然仕方なくないですよね。
本業は23年の歴史を誇る老舗ネット通販のはずなのに新規受付がパンクしたり、発送がまったく追いつかず納期が大変なことになったり……。仮にも業界シェアNo.1の勝ち組MVNOだったはずなのにサポートがめちゃくちゃだったり、プランやキャンペーン条件を後から慌てて手直しする詰めの甘さが拭えなかったり……。
楽天って面白いもんで、コアなネットユーザーには嫌われがちな割に世間的には意外と好かれていて、楽天経済圏にどっぷり浸かっている人もいれば日本が誇る巨大IT企業だと思っている人もいるわけです。だからこそ第4の携帯キャリアになるべき会社だと祭り上げられたわけですが、やっぱり社会インフラを担う器じゃないんじゃないかなあ、と思ってしまいます。
主な問題点③:独自端末「Rakuten Mini」をめぐる問題
複雑で難解な不祥事なのですが、オリジナルスマートフォン「Rakuten Mini」をめぐる騒動には、楽天モバイルの悪い部分が全部詰まっているなと思います。
解説すると長くなるのでざっくりまとめると、
・途中からユーザーへの告知なしに対応バンドが変更されていた(2回)
・3種類存在するモデルのうち、初期型は誤った(中期型の)認証番号を表示。後期型は認証を取得していなかった
・仕様です!把握してなかったけど仕様です!という顛末。これらの情報が揃うまでに何度も小出しに情報が出てきて、全貌を掴めるまでは何が正しいのか混乱してしまう事件でした。
「コロコロ変わる」「周知不足」「しらばっくれる」「往生際が悪い」これぞ楽天モバイルです。
こういう不誠実さは色々なところに現れていて、1日10GB制限があるのに「完全データ使い放題」だと言い張ってみたり……そういうギリギリ嘘ではない系の際どいやり方って各社が一通り試し終わった後ですし時代錯誤というか、そのうち必ず問題になると思いますけどね。
まとめ:悪い意味でベンチャー気質。インフラ事業者としての資質に疑問
楽天モバイルというか楽天は、良く言えばベンチャー気質な大企業なのだと思います。フットワークの軽さや挑戦的なビッグマウスは強みになる分野もあるとは思いますが、少なくとも今の楽天モバイルは「脇が甘い」「携帯電話事業を舐めている」「口だけの見栄っ張り」としか映りません。この調子で第4のキャリアとして定着するかは甚だ疑問ですし、ましてや第3や第2になれるとは到底思えません。
「日本の携帯料金は高すぎる」?まともに全国にエリア整備して災害対策もしてから、品質と料金の両面で海外キャリアと比較した上で同じこと言えよ。総務省のピンボケ会議みたいで素敵ですね。
「事実82.9%もの人が下げてほしいと思ってる」?へぇ、思ってるだけで事実になるんですか?じゃあ、この記事を最後まで読んでくれた人の82.9%が「こんなキャリアは免許返納した方がいい」と思ったら、きっとそれも事実なんでしょうね。
余談:無責任に乗り換えを勧めるな
例のCMの不快な金切り声を思い出したら、ムカつきすぎて文体が崩れてしまいました。失礼しました、失礼ついでにもう一発いいですか?
楽天モバイル自身もどうかと思うのですが、それ以上に気に食わないのは「こんな携帯キャリアもどきを無責任に勧める人たち」の存在です。
あのね、こんなお粗末な物は2台目、3台目であれこれ試してみたり、トラブルに見舞われてヤジ飛ばしたりする程度が妥当な楽しみ方なんですよ。「【乞食速報】スマホが1年間0円でギガ使い放題wwww」みたいな煽り方して、メイン回線を軽率に乗り換えさせちゃいけないの(適当に考えたタイトルですが実在したらごめんなさい)。自称情強様やスマホ詳しくないけどドケチムーブには真剣なポイ活勢が、楽天モバイル(MNO)1本で乗り換えたり乗り換えさせたりしてるのを見ると頭痛がします。
「お前もキャンペーン情報とか書いてるだろ」と言われればそれはそうなんですが、私は楽天モバイルに乗り換えるなんてリスキーな選択肢は提示していませんからね。現状の楽天モバイルを契約するならガチ利用は避けて、あくまで何かあっても笑って済ませられる程度の“おもちゃ”に留めてほしい、と切に願います。
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