・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
ネイアは『魔導王陛下へ感謝を送る会(仮)』総本部の執務室で頭を悩ませていた。
今や20万以上に膨れ上がった同志……魔導王陛下へ万感の感謝を抱く者の中にですら、残念なことにアインズ様の偉大なるお考えである〝多種族との共存〟を真っ向から否定、又は言葉にこそしないが怪訝な顔をする者があまりにも多い。
アインズ様へ忠誠を誓うネイアの同志達でさえこの有様なのだ、ローブル聖王国の民たちがどのように考えているかなど、容易に想像がつく。
とはいえ、元来ローブル聖王国は亜人を相手に戦争を繰り広げていた長い歴史があり、更にはヤルダバオトの収容所に捕らえられ、人間以外の存在に肉親や愛する者を目の前で悪魔の実験に使われたり、嬲り殺しにされたとなれば無理もない。ネイアとて先の大戦では亜人は即座に殺すべき存在と信じて疑わなかったし、事実何十体・何十匹・何十人とその命を奪った。
またネイアは両親を亡くしたが、目の前で成すすべなく惨殺されたという訳ではないので、亜人に心身ともに想像することもできない地獄の苦しみを与えられた彼らの心情を鑑みれば致し方ないとは思うのだが……。
〝君たちは亜人たちと共に歩を進めるのは嫌だろう?〟
あの別れの日、アインズ様の御慈悲溢れるお言葉が脳裏に甦る。救国の英雄にして、歴史上最も偉大なる王、アインズ様に気を使わせてしまった身でありながら、自分たちは何も進歩できていないではないか……そう思うと不甲斐なさで倒れてしまいそうだ。
「何が魔導王陛下の代弁者……。わたしの何処が真実へ導く指導者ですか……。」
どれだけアインズ様の素晴らしさや御威光を謳おうと、所詮自分はアインズ様の偉大なるお考えを前に呆然と立ち尽くす事しかできない無能ではないか……。ネイアは部屋に飾られるアインズ様の御尊顔が描かれた絵画に目を合わせることさえ不敬であると、うなじが見えるほど机で頭を抱え、自己嫌悪に陥り思考の悪循環へ突入する。
「うひゃあ!!」
そんなネイアのうなじに粘着質の丸い何かが……と思った辺りで。
「シズ先輩!!」
「…………何時になく暗い顔。どうした?」
「いえ……実は…………」
ネイアはシズへ、現在直面している難題について相談した。人間と亜人の融和問題についてを悪魔に相談するのはどうなんだろう?と一瞬ネイアの頭に疑問も過ったが、魔導国の領地であるアベリオン丘陵から
「…………ローブル聖王国をアインズ様へ統治していただくための下準備。亜人や異種族に寛容な下地をつくりたい。しかしシモ……同志にさえ反対される。なるほど。」
「ええ、特に聖王国南部は深刻な状態です。〝真なる聖王国民が神の敵を打ち倒す〟という妄言の下、神殿と貴族たちが結託し、【血統証明書】なるものが普及しており、
「…………共通の敵を作る。民を団結させる。うん。力のないところがやっても悪手。御計画?自滅?」
「先輩、何か言いました?」
「…………なんでもない。安心。時間が解決する問題。」
「そうですかねぇ…。」
「…………アインズ様は不死なる御方。ネイアの撒いた種は必ず開花する。」
「…………例えば孤児院の創設。ユリ姉が凄く褒めていた。凄く凄く褒めていた。」
「…………子供の子供。孫の孫の代までアインズ様は存在してくれている。ネイアが言っていたこと。」
「…………初めから上手くできる存在なんて41人しか居ない。」
「…………それに。失敗は次に繋げればいい。違う。失敗してない。うーーん。」
あの寡黙なシズ先輩が、選ぶように次々と言葉を紡ぎネイアを励ましてくれている。そんな光景があまりにも微笑ましく、目尻に軽く涙を浮かべてしまい……。
「…………ん。」
ネイアの鼻孔が紅茶にも似たいい香りで充満する。気が付けば何時かのようにシズ先輩へ抱き着いていた。そしてネイアの頭を手袋越しに慈母のように優し気な気配が撫でる。シズは自分の胸で甘えるかわいくないが可愛い後輩を抱きしめ、まるで母と子のように密着する。
……【ローブル聖王国民は、他種族への理解や共存が可能か?】
ネイアが直面している難題の回答。最たる例が今まさにその身へ起こっているのだが、余りにも当たり前になりすぎて、ネイアはただただアインズ様へ献身出来ない苦痛や不安を、シズに甘え和らげていた。
・シズ先輩とネイアをイチャイチャさせたかった。今は反省している。