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中国製マスクの性能と、マスクビジネスに潜む闇を見た(閲覧注意)

2020.10.04

※本記事は5月末にすでに書き終えていたもので、保存したまま公開していませんでした。CNETに取材していただいた記事「高額転売に待ったをかけた「原価マスク」–トリニティに聞くマスク製造の舞台裏 – CNET Japan」があり、そこでこの記事も公開して良いタイミングだと判断しました。記述は当時のままにしてありますので、状況が変わっていたりしますがあえて修正せずに公開しますので、その点についてはあらかじめご理解の上お読みください。

また、人によってはショックを受ける可能性のある内容ですので、閲覧にご注意ください。知らない方が良いことも世の中にはあります。


当社は「デジタルライフを豊かにする」というミッションを達成するため、スマートフォンやタブレット、コンピューター周辺アクセサリーを企画・開発・販売を行なっています。

トリニティ株式会社 | Trinity, Inc. 【Digital Life Products】

このたび思い立って「原価マスク」というプロジェクトを立ち上げました。まったく分からないながらもマスクを輸入して販売するということを短期間で成し遂げるために、さまざまな情報を集めて、当社として販売するために必要な品質、価格、期間を精査して進めました。立ち上げまでのストーリーは別に記事にしているので、そちらをご覧ください。

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当初20万枚程度と思っていた需要が、蓋を開けてみれば申込だけで500万枚以上となり、急遽生産体制を増強して対応することにしました。現在は、3つの工場でラインを確保して生産しています。

原価マスクを始めた当初は、私たちの原価マスクがほぼ最安値の状態で、マスク自体を手に入れることができないという状況が少し緩和されて、マスク自体は買えるものの高いという状況でした。その後、ゴールデンウィーク明けくらいからは段々と高値で売って利益を得ることが難しくなってきたことから、在庫の放出とみられる値下がりが見られ、現在は段々と供給されるようになってきました。

マスクは買えないか、もしくは非常に高価でした。

いったん、ここで結論を書きます。元々、原価マスクのスタートは「日本全体でマスクが手に入らない、高すぎるという問題を解決する」ということでした。元々本業でもないですし、これで利益を得るわけではないので、その目的を達したら終了するプロジェクトでした。そして、マスク不足の状況も段々と解消され、個人的に期待しているアイリスオーヤマも来月くらいには本格増産が稼働しそうで、ユニクロも参入を決めました。その意味で、我々の役目は終わったと思いますので、現在の発注数量を無事輸入し、原価マスクを求めていただいているみなさまにお届けしたらこのプロジェクトを終了しようと思います。

少し前置きが長くなりましたが、このように「目的を達したから」という部分もありつつ、これからご説明するように当社としてマスクを販売するリスクやコストが高すぎて継続していくのが困難だと感じたからです。

マスクのフィルター性能とは

マスクを販売する時に、一番気をつけなければいけないこととして、その品質と性能があります。通常当社が販売しているスマートフォンアクセサリーと異なり、衛生製品であることがその理由です。

当初とてもよく聞かれた質問が、マスク性能についてです。マスクの性能を測る指標として、フィルターの濾過効率というものがあります(遮断率と呼称する場合もあるようです)。これは、マスクのフィルター性能を表わし、これによってどんな物質をどれくらい濾過(つまり遮断)することができるのかということがわかります。

3層の真ん中にあるMIDDLE LAYERというところがメルトブロー不織布であり、ウィルスなどを遮断する役割を果たします。

マスクのほとんどは3層、もしくは4層構造で、真ん中にメルトブロー不織布と呼ばれる生地を挟み込んでいます。この不織布がフィルターの役割を果たし、埃や花粉、細菌などから守ってくれる仕組みです。

よくマスクに99%とか95%とか書かれているのを見かけると思いますが、それはそのフィルターの濾過できる数値となります。

ただし、これはどのサイズの物質を濾過するのかによって、効率の意味が変わります。当たり前ですが、大きな物質に対しては濾過率が高くなりますし、小さなものでは相対的に低くなります。ですから、99%と95%という表記が同じ指標なのかを確認しないと、一概に99%だから良いということにはなりません。

上記は「不織布マスクの性能と使用時の注意」というタイトルで全国マスク工業会の資料として公開されているものを引用しておきます。

一般的に、花粉などは3μm〜5μm(マイクロメーターは0.001mm)と言われており、これを試験するのがBFE(Bacterial Filtration Efficiency:細菌ろ過効率)という指標で表わします。これより細かい物質、たとえばインフルエンザウイルスなどのこちらは0.1um~5umサイズの物質にに対してVFE(Viral Filtration Efficiency:ウイルスろ過効率)というのがあります。一番小さな物質専用のPFE(Particle Filtration Efficiency:微小粒子(ろ過)効率)というのもあり、こちらは0.1μmとなります。

さて、この基準に対して私たちの原価マスクの仕様として、どこを目指すのか、そしてその性能をどのように評価するのか、がポイントとなります。

私たちは14年間中国でものづくりをしてきて、中国の会社からの資料はエビデンスを求めることにしています。どこの工場もマスクの性能を99%だと言ってくるし、CEなどの認証を取っていると言ってきますが、それは正直なところ基準も明確でない場合が多くそのまま鵜呑みにしてはいけないと考えています。

本来であれば信頼できる試験機関に依頼して測定してもらうのが一番良い方法であるのは間違いありません。私たちが通常販売している製品も必ず第三者機関の試験を経て性能を表示しています。

マスク関連の試験受付中止について | 一般財団法人カケンテストセンター

ところが、日本で一番信頼できる機関としての「一般財団法人カケンテストセンター」ではマスクの性能試験を中止してしまっていますので、中国でテストするしかないということになります。ただ、中国で一番大きな試験機関であっても、PFEという基準がないらしく、最小単位が0.3μmの濾過率しか測定できないとのことでした。さらに、この試験についても混み合っているのでかなり時間がかかると言われています。現在、試験に提出していますが、明確にいつ結果が出るのかは分かりません。

追記:この中国での試験は0.3μmについて95%以上の濾過率を持つという結果が出ました。

メルトブロー不織布のばらつき

実際に、工場監査をしていると毎日のようにメルトブロー不織布が入荷してきているのですが、納入業者によれば同じ性能のものということでも、見た目でもかなり違いが分かる不織布が混じっているのを発見しました。これを混ぜられては困るということで、マスク工場の1社が協力してくれて簡易測定器を購入してくれました。

その測定結果を見ると、本当に毎回入荷毎に性能にばらつきがあるのが分かりました。不織布は需要に対して供給が少ないのでどんどん値上がりしていて、入手困難になっていっているため、工場側は性能のばらつきを許容しないとマスク自体を作れないということでした。

原価マスクでは95%のフィルター効率ということで工場と契約をしました。本来は99%が望ましいのですが、これは手に入れるのが非常に難しい、入荷が少ないので生産できない、コストが高い、などの理由に寄ります。この99%もさきほどの基準でいうとVFEにあたり、0.3μmに対して95%の濾過効率を最低仕様としています。

前述のように毎回入荷毎に変わるので、毎回当社の検査スタッフが入荷したものを検査し、この数値を見て判断をしています。

日本で販売されているマスクを測定した結果

原価マスクが日本で販売されているものに対して、性能が低いのではないかと思われたかもしれません。私もそう思いました。

そこで、日本で売られている99%のフィルター性能と書かれている製品を分解して測定してみました。その結果は驚きの性能でした。まったく99%ではありません。よく分からないメーカーのは、もう散々の結果ですし、どことは言いませんが誰もが知っているメーカーのものでも原価マスクとほぼ同等の性能でした。

99%として表記されて売られている製品を測ってみると…。※このマスクは日本マスク工業会の会員製品ではありません。

みなさんが安心して買えると認識されている日本の団体のマークが入っているものであっても、同様の結果でした。これは本当に驚きました。日本のものの試験をした意図として、日本で売られているものは性能も高く、安価であるということを中国工場に示したかったからですが、結果としては日本のメーカーの製品であっても同じじゃないかと言われて、「うぐぐ」となってしまいました。

もちろん、測定方法が異なる可能性は高く、測定器によっても結果が違う可能性があったり、たまたま私たちが測ったものが悪かっただけの可能性もあるので、一概にはいえませんし、この件についてこれ以上具体的なことは言えません。ただ、私たちの測定器では原価マスクも日本で売られている99%とうたっている製品も、同等の性能でした。

中国におけるマスク生産の闇

さて、性能について、このような状況にあることから、私としてはマスクの性能をうたって販売することは困難だと考えました。毎回毎回、素材の品質が変わるのを私たちが担保することができないこと、市場に出回っているマスクについても同様の場合、どのように比較していけるのか分からないことなどが原因です。

このような検品を全数ひとつずつしていくのは現実的ではありません。
人間の目で見ているので、抜け漏れも発生してしまいます。

工場側も、毎日監査に来たり、素材がそのまま使われなかったり、不良を弾かれたり、全数検品し直させられたり、とうるさいことばかりで出荷数が減っていってしまうので効率が悪くなると煙たがられます。

日本では99%フィルター性能として販売されている製品です(梱包されている過程を確認しています)。

ちなみに私たちの検査担当者が弾いた不織布素材、不良品などはどうなると思いますか? そのまま捨ててしまったら、工場としては損失です。それは、他の出荷に混ぜられてしまうのです。不織布も、私たちの以外の製品に使われて世界のどこかに出荷されていくのです。それは、もしかしたら日本かもしれません。私たちの委託している工場は私たち以外の日本の顧客にも出荷していますが、検査に来たことはないそうです。

重量検品してもずれる数量

マスクは1枚あたり4〜5gです。これを50枚入の箱に入れるのですが、今のところこれは人がカウントしています。ですから、間違えることがあります。正直なところ、これはマスクに限らずですが工場の工員は相当適当ですから、間違えるときがあるというよりも、間違えるものと考えて取り組まないといけません。

基本的には、重量で検品を行ないます。しかし、50枚入りとなると、たとえば0.3gマスク自体の重量にばらつきがあると50枚で15gずれます。そうすると3枚ほどの誤差が出ることになってしまいます。下限で計算すると、ほとんどのパッケージを再検品することになってしまいます。

後述しますが、これにより数え直しが多く発生し、生産数量が大幅に少なくなります。しかも、全数を私たちの監査スタッフが見ていることはできませんので、どこかに抜け漏れが発生することがあります。

したがって、現在日本の倉庫に入荷した際にもう一度全箱を再度重量検品を行なっています。さすがに全数数え直すとなると、500〜600万枚でもうそれだけで数ヶ月はかかってしまうので、前述のように下限を設定して弾いて、弾いたものだけを検品しています。それがゆえに、入荷したものをそのまま出荷していないので、出荷に時間がかかってしまっているというのが現状です。

予定よりも出荷が遅れてしまっているところで、ご迷惑をお掛けしてしまっていて非常に心苦しいのですが、このようなことを裏側ではやっているのです。なお、この方式だと50枚よりも多く入っている場合には仕分けることができません。しかし、今回のプロジェクトではすでに遅れていることもあって、多い分には実害はないということで出荷をしています。

同梱されている合格証とはどんなものなのか

先日、新聞広告でマスクに合格証が付いているということを宣伝文句にして、安心であるとアピールしているマスクがありました。この会社が実際に自分たちで中国に生産委託しているのか、中間のブローカーがいるのかは定かではないですが、知っててあえてそう宣伝しているのか、本当に知らないのかはわかりません。しかし、実際に製造の現場を知っている私からすると、苦笑してしまいます。

はっきり言って、この合格証、ほとんど無意味です。

なぜならば、この合格証がマスク自体について何かの基準に基づいて検査された合格の証ではないからです。これは単にマスク製造についての許可を得ている会社であるということだけで、それぞれのマスクの仕様や品質に何ら関係していないからです。

新型コロナウイルス感染症の広がりと共に経済活動が一時的に止まった際に、多くの会社がマスク製造に乗り出しました。しかし、ノウハウもないままにマスク製造を行ない、不良品がたくさん世界に出荷され、それが問題になりました。それ以降、突然政府が出荷に合格証を添付していないと中国国内に出荷させないとの通達を出しました。

これはちょうど私たちが初回の寄付向けマスクを出荷するときでした。そして、どうしたかというと、合格証を印刷してパッケージに封入して出荷したのです。マスク自体には何一つ手を加えずに。

ですから、この合格証にはほとんど意味はないと思います。少なくとも、私たちが見ている範囲のいくつかの工場ではまったく同じ状況です。これが実態です。

コストと品質の関係

ここまで長く書いてきて、これほどまでに時間と人員(=お金です)をかけてもなお、まだ完璧でない場合、これ以上続けていけないというのが本音です。そもそも間接費を入れていませんから、3つの工場に毎日24時間交代で監査の人間を付けておくのは損失が大きすぎます。

パッケージ不良もものすごく多く、やり直しが大量に発生していました。

さらに、原価マスクは個包装をする仕様なので、一日の生産枚数が少ないため、同じ価格で販売すると売上が下がります。加えて、前述のように一番うるさい顧客となりますから、今後は価格を上げたいという話が出てきました。

現在、マスクの単価は下がっていく方向にある中で、これだけのコストをかけて、工場からの出荷価格が上がるのをそのまま価格に転嫁していくことはできません。だからといって、品質について手を抜くわけにはいきません。

これが、冒頭に書いた、現在の中国工場へのオーダー数を入荷、出荷したら、この原価マスクプロジェクトを終了しようと決めた理由です。これ以上、コストをかけて損失を増やしていくわけにはいかないからです。当社スタッフも、これだけの努力を重ねていても、出荷が遅いなどのクレームが日々来ていたり、オペレーション的にも非常に苦労しているのが見えているため、私からするとこれ以上は続けさせたくありません。

明らかに数量が多く、膨らんでいます。

消費者のみなさまは、当然安い製品の方が良いと思います。しかし、衛生製品でかつ感染症を防ぎたいという目的であるならば、安いからといって品質の悪いと思われる製品を買うのはお勧めできません。特に中国語や英語のパッケージのまま販売している製品は避けた方が良いと思います。何も考えず、ただ安いものを輸入しているだけだと思うからです。

個包装が正しく裁断されていないものもたくさん発見されました。

安いということはコストをかけてないということですから、私たちがやっているようなことをしていたとしたら、原価マスクの価格で販売することはできないのが本来だと思います。私たちはコストを寄付だと思っていますが、ビジネスとしてマスクを販売するのであれば、やはり直接消費者向けに販売するとして2,980円くらいになるでしょう。

それであれば、私たちが続ける意味もありません。ただ、マスクの市場に一石を投じ、少しはマスクの供給に役に立ったと考えていますので、残り6月中旬くらいまでは販売を続けますが、在庫が無くなり次第終了としたいと思います。

最後に言いたいこと。できる限り、日本製の製品を買うことをお勧めします。シャープやアイリスオーヤマなどの安心できるブランドを買うのは、安心を買うことになります。多少値が張るかもしれませんが、口や顔に付ける衛生製品です。感染を防ぐ目的です。

もちろん、中国だからといって一概にすべての工場の管理が悪いわけではありません。ただ、私たちが見てきたマスク工場のほとんどは同じ状態でした。その中でも良い工場を選んだつもりです。それでも、かなり深く監査をしていかないといけないというのが現状です。

当社が普段作っているようなスマートフォンアクセサリーのように本業であれば、経営者ともしっかりと話し合い、品質を高めていくことが最終的に中国で生き残っていくための差別化になるのだから、一緒に改善していこうという方向性に持っていきます。現在はほとんどの工場と長年に渡り取引をしているところとしか製造委託していません。今回の原価マスクプロジェクトは一時的なものですから、そこまで長期的な視点で進めることができませんでしたし、今後長期に渡ってやっていけると思えませんでした。

工場とも品質問題で揉め、当社の中国マネージャーが数日の間、朝から夜中まで張り付いていたこともありました。そんな苦労を今後もさせるわけにいきません。

至らないことがたくさんあった上で、終了となりますが、できる限りのことはやったと思っています。実際には私が直接的にやったことは少なく、中国マネージャーやスタッフ、日本のマーケティングチーム、オペレーションチーム、カスタマーサポートチームには多大なる苦労をかけてしまいました。とても意義はあったと思っていますが、これからもやっていく仕事ではありませんでした。

購入いただいた皆様には感謝申し上げるのと共に、もしかしたら数量が多いこと、一部見逃してしまった不良もあったかもしれません。特に不良についてはご連絡いただきましたら、返金などの対応をさせていただきます。すでに交換品もなくなってしまっていますので、本来のサポートができないことをお詫びいたします。

すべての関係していただいた皆様、ありがとうございました。短い間ですが、何かしら世の中に役に立てたと感じられたこと、とても嬉しかったです。

 

このブログを書いたスタッフ

プレジデント

ほっしぃ

音楽からMacの道に入り、そのままApple周辺機器を販売する会社を起業。その後、オリジナルブランド「 Simplism 」や「NuAns」ブランドを立ち上げ、デザインプロダクトやデジタルガジェットなど「自分が欲しい格好良いもの」を求め続ける。最近は24時間365日のウェアラブルデバイス「24時間365日のウェアラブルデバイス|weara(ウェアラ)」に力を注いでいる。

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2020.10.08 15:07

2020.10.08 15:07 #490892 sido67

初めまして。
私も中国企業と取引をする会社に在籍しています。
中国工場と取引がない方々が一般的ですが、そのような方々には想像もつかないようなことが、中国の工場では起こりますよね。

ほっしぃ様の社会貢献への姿勢、また、目に見えないところで手を抜かない姿勢は、中国工場を利用している日本企業には是非見習って頂きたいものと感じます。

クォリティが低いものをそのまま日本市場へ流すのではなく、販売者として責任をもって管理して製品を販売すべきですよね。そうでないなら、価格が高くても、made in Japanの製品を主流にすべきだと考えます。日本を元気に、国民の幸福度を上げることも日本企業としての義務だと私は考えています。

これからも応援しています。

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