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「ポルノ産業にもっと女性を、多様性を」ポルノ制作者、エリカ・ラストの挑戦

フェミニズムやジェンダーがいたるところで議論されているなか、なぜいまだにポルノ業界では白人男性が女性蔑視的でありきたりな駄作をつくり続けているのか。そんな疑問を感じた女性監督エリカ・ラストは、あらゆるポジションに女性を登用することによって、業界に変革を起こそうとしている。

スウェーデン人監督のエリカ・ラストは、ポルノ産業にもっと多くの女性を登用したいと考えている。映像作家、監督、プロデューサー、出演者といった、あらゆるポジションにだ。自身もかつてこのビジネスに飛びこんだ経験があることもあって、彼女はこの業界に要求されるものを心得ている。そのうえで彼女は、近年ハリウッドで増えている「カメラの向こうにもっと多くの女性を」と提唱する人々同様、アダルト産業がもっと多様性をもてば、作品もより優れたもの、セクシーなものになると考えているのだ。

「わたしたちはフェミニズムとジェンダー論議がかつてないほどメディアに取り上げられる時代に生きています。女性のセクシュアリティは、絶えず論じられています。しかしいまなお、メインストリームの制作会社はあいもかわらず退屈きわまる駄作をつくり続けています。そういう制作会社を経営しているのは、似たような狭量な男性たちなのです」とラストは言う。「われわれにいま必要なのは新しい視点、つまり女性の視点なのです」。この主張が正しいと、彼女は証明しなくてはいけない。

昨年10月、ラストは自身のウェブサイトで公募の実施を発表した。自身のポルノ企業XConfessionsの予算から25万ユーロをあてて、2017年に女性の映像作家による10本の作品をつくろうというのだ。

計画はいたってシンプルである。ポルノであれなんであれ、応募者が女性の映像作家であり、メインストリームポルノのマンネリズムに堕さない、女性が好きそうな成人向け短編作品のアイデアをもっていれば、ラストは融資とプロデュースを行う。公募には、わずか数週間で、スペイン、フランス、米国、インドなど世界各国から100近い応募が集まった。

ポルノに変革の時がやってきた

ラストが初めてポルノを観たのは、友だちと外泊したときだった。観終わったあと、彼女とその友だちは辟易しきっていた。大学時代に、彼女は恋人ともう一度ポルノを観てみたが、やはりよいものには感じられなかった。つまり、まったく刺激的じゃなかったのだ。少なくとも、彼女が望んだようには。

2004年、大学院を修了しバルセロナへ引っ越してすぐ、彼女は人生最初のポルノを制作した。“ピザの配達人”というお決まりパターンの、「The Good Girl」という名の22分間の作品をウェブに上げ、CCライセンスのもとで無償で配信した。作品は2カ月で200万回ダウンロードされた。彼女は目的を見出した。ラストは作品づくりを続け、2013年にオンラインポルノサイト「XConfessions」をローンチ。ファンたちが匿名で投稿する秘密の告白をベースに作品を制作した。

10年ほどこの業界にかかわったあとで、彼女はあることに気がついた。「女性の役割は、いたるところで論争の的となっている。ポルノ産業以外を除いては」。2014年、ラストはウィーンで開催されたTEDxの聴衆にこう語った。「ポルノに変革の時がやってきました。そしてその変革のためには、女性が必要なのです」

ウィーンで開催されたTEDxに登壇するエリカ・ラスト。

映画やTV番組で同じ現象がみられるように、ポルノにはその産業を担う女性が欠如していた。ラストいわく、アダルト映画産業における違いは、女性のモノ扱いがかなりの割合で不当であるということだ。

「わたしたちのセックス観とジェンダーロールに対する考え方において、ポルノがもたらす影響は非常に大きいです。ポルノの主流では一貫して、セックスは男が女に対して行使するもの、あるいは女が男に奉仕するものとして表現されています。つまり、女性をモノ扱いし、男性に対しても女性に対しても非現実的な認識を植え付ける、女性蔑視的なものなのです」と彼女は言う。

内側からポルノを変えるというアイデアは、単なる思いつきではない。その効果はしっかり証明されているのと、Yanks.comのプロデューサー、リリー・キャンベルは言う。彼女がそう話す理由は、キャンベル自身、彼女の意見を欲しがる男性プロデューサーから懇願され、モデルからプロデューサーへ転身した経験をもっているからだ。「わたしは、性差別的な態度をとる人々に出会ってきました。ただ、この業界に女性が意見を主張する余地が多いにあることは喜ばしいことでもあります」。ラストのような人たちが、もっとほかの女性を巻き込んでいけば、業界は変わるだろう。

女性クリエイターの流入によって、すべてのジェンダーの人々に対してより現実的なセックス観を生み出すことができるとラストは信じている。ペギー・オレンスタインが著書『Girls & Sex:Navigating the Complicated New Landscape』で指摘したように、多くの若者がラスト同様10代でポルノに触れ(ある調査によると大学生相当の年頃の男性の87パーセント、同年齢層の女性の31パーセント)、それが彼らのセックス観の最初の指標のひとつになる。また「たとえ若者たちが観るのがありきたりなセックス動画だったとしても、彼らは女性の性は男性の利益のために存在すると学習してしまうのです」とオレンスタインは書いている。そして、合意に基づき快楽を追求するセックスを提案するのが正しいポルノだとしても、それは「世界の970億ドル規模のポルノ産業の稼ぎ方ではない」とも付け加えている。

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現状に疑問をもっているなら、インディーに進出せよ

それはしかし、ラストの稼ぎ方ではある。そして彼女は例外ではない。1980年代でさえ、ポルノスターから監督へ転身したキャンディダ・ロイヤルのような人たちは、女性中心のポルノを製作すべく努力を積み重ねてきた。2000年代では、アナ・スパンやコートニー・トラブルといったフィルムメイカーたちが、女性による女性のための成人映画製作と配給に力を注いでいた。

そして、あらゆる種類のアーティストにとってそうだったように、インターネットが多くのインディー系のフィルムメイカーやパフォーマーたちが、作品を発表する場を提供した(そしてまた、他産業にとってもそうだったように、インターネットは多くの問題も引き起こした)。いまでは、シンディー・ギャロップの「Make Love Not Porn」のようなサイトが、実も蓋もない言い方ではあるが、アマチュアの出演者たちが、自分たちが刺激的だと思えるものをなんでも発表できる場を提供している。

「テクノロジーの素晴らしさは、いまや誰でもポルノグラファーになれることにあります」とアダルトショップ「Good For Her」の創立者、カーライル・ジェンセンは言う。彼女のショップは、「フェミニスト・ポルノ・アワード」を主催している。「しかし、監督としてのスキルを身につけ、(自分自身が出演するのではなく)十分な出演料を払って出演者を雇い、興味をひかれるようなセットを借り、エリカの作品のように上質で面白い作品をつくるためにカメラ・編集スタッフを雇うというのは、多くの人にできることではないのです」

こうした作品を提供することこそ、ラストが新しくやろうとしていることそのものである。しかし、ポルノは彼女が考えているほかにも多くの問題を抱えている。「もちろんもっと多くの女性をポルノ製作に巻き込むのは素晴らしいことです」と ジェンセンは言う。「しかし、トランスジェンダーやさまざまな人種の人々、年配者、障害のある人に資金を提供することがもっと重要なのでは、と感じています。こうした人々はポルノにおいては倒錯趣味やステレオタイプに分類されるか、または単に疎外されてしまっています。作品のなかでこうした人々がポジティヴなイメージで表現されることは稀です。特に自分たちのコミュニティーのなかで製作された作品では」

まだ始まったばかり

2015年のトップ興行収益映画のうち、女性やマイノリティー監督による作品が10パーセント以下しかなかったハリウッドと非常に似ているが、ポルノもまた多様性の受け入れについては独自の問題を抱えている。さまざまな場所で観られているため、ポルノ産業の多様性をたどるのは難しいが、ラストとジェンセンが指摘するように、状況は良くはないだろう。

だからこそ、カルフォルニア州立大学アネンバーグ校のコミュニケーション&ジャーナリズム学部のステイシー・スミスがハリウッドに提案したように、ポルノ産業はもっと多様な声を聞きいれるべきなのだ。ハリウッドは、多様性を受け入れるという意味では過去数年間で前進をみせたが、変化の足取りは遅いキャスリン・ビグローがオスカーをとったというだけで、状況が劇的に改善されるわけではない──そしてAVN賞をとった女性ポルノ監督のマンソンにも同じことが言える。

「これはどの産業でも同じことなんですよ」と言うのはMake Love Not Pornのギャロップだ。「たとえば、わたしに取材したいというジャーナリストに会うとしましょう。彼らはきっとこう聞いてきます。『ではシンディー、ポルノは女性をモノ扱いしていると思いますか』わたしはこう答えます。『男性がトップに立って支配している産業はすべて、女性に対して攻撃的で物扱いする商品をつくっていると思います』と。そしてスーパーボウルのCMについて話すんです。ポップカルチャー全体を通してまったく同じことが言えます。閉じた輪のなかにいる白人男性が、ほかの白人男性に別の白人男性についての話をしていると、『バットマンvsスーパーマン』[日本語版記事]みたいな発想が出てくるわけです。そうした状況に女性と他人種の人を取り込むと、『ハミルトン』の完成です」

これが、エリカ・ラストの話につながる。彼女は女性をポルノに登用しようとした先駆けではないが、何十億ドル産業に揺さぶりをかけるとなると、25万ユーロも大きな意味をもつ。彼女が選んだ監督たちは、来年撮影を開始するだろう。そして彼らが撮影を開始すれば、ヘテロ男性以外による、ヘテロ男性以外のためのポルノの市場が存在すると証明することになるだろう。

ラストはそれをよくわかっている。というのも、すでに彼女の作品への高い需要を見てきたからだ。3年前にXConfessionsを立ち上げてからというもの、彼女はスタッフを3倍に、5人から18人に増やさねばならなかった。また収入が3倍になるのも経験している。それは、大学時代に恋人のアダルト映画の選択肢を観て、「もっとマシなのがあるだろ」と思ったのは彼女だけではない、という証拠だった。

「『Pornhub』や『Brazzers』といった動画サイトにうんざりしている、教養ある要求の高い視聴者が増えています」と彼女は言う。「そうした人たちは、スマートで、セックスに対して前向きで、女性に敬意を払った成人映画を観たいと思っているんです」。ラストはそういう作品を彼らに提供したいと思っている。

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IMAGE: GETTYIMAGES

通信キャリアの時代は終わり、アマゾン、グーグル、フェイスブックがインフラを支配する

アマゾンフェイスブックグーグルの3社は、単なるメディア企業になろうとしているだけではない。寡占状態の通信キャリアに取って代わり、インターネット接続サーヴィスの提供も始めている。どうやら情報インフラを巡る状況は少しずつ変わってきているようだ。

テレビで観る番組はほとんどすべて、少数のメディア企業グループから提供されている。それと同様に、ケーブルテレビのサーヴィスは少数の通信キャリアが提供している。コムキャストと契約してNBCの番組を視聴しているなら、コンテンツと配信インフラを保有しているのは同じ人々だ。規制当局がAT&Tによるタイム・ワーナー買収を承認すれば、この小さな世界はさらに一極集中が進むだろう。

こうした一極集中の状態はインターネットによって緩和されるはずだった。ところが、かえって悪化させる恐れもある。アマゾン、フェイスブック、グーグルなど少数の企業が、メディア企業や通信キャリアに取って代わろうとしているのだ。これらの企業はすでに、消費者が視聴するコンテンツの多くをホストするだけでなく、ますます多くのコンテンツを制作している。また、それらのデータを送るインフラの多くを所有し、インターネット接続サーヴィスまで始めつつある。

これらの大手テック企業は、通信キャリアを打倒しようと計画していたわけではない。彼らのビジネスは、「信頼できる高速インターネットを利用する消費者」に依存しているので、そのすべてを自社で提供しようとしてきただけだ。消費者からすれば、状況の大幅な改善が約束される。大手通信キャリアを毛嫌いしている人なら、その終焉に喜びを感じるだろう。だが、新旧が入れ替わっても結局、同じ状態が続く可能性はある。

消費者が最良の電波を受信できる未来

Google Fiber」や、光ケーブルを使った無線インターネットへの移行については、おそらくあなたも聞いたことがあるだろう。グーグルのモバイル通信サービス「Project Fi」[日本版記事]は、もっと画期的なものになりえる。グーグルは、携帯電話基地局を建設する代わりに、SprintやT-Mobileのネットワークへの接続を再販する。CricketやTracFoneのような企業も同じことを行っているが、Project Fiなら、受信可能な最良の電波を常に携帯電話で利用できる。

ほとんどのモバイル端末は、ローミング中にネットワークを切り替えている。だがそれは、契約しているキャリアの電波を受信できない場合に限られている。契約しているキャリアを受信できるが電波状況は悪いという場合、従来のローミングなら、別のキャリアの強力な電波に切り替えられない。だがProject Fiは、どこにいても、最良の電波を提供してくれる。

これによって、無線ネットサーヴィス市場が変わる可能性がある。単一のキャリアと契約するのでなく、仲介業者である「モバイル仮想ネットワークプロヴァイダー」と契約し、利用可能な最良のネットワークを利用することになるわけだ。現在のキャリアは、利用者の目には触れない元売り業者となって、最安料金でアクセスを提供しようと競い合う。現実にそうなれば、より優れたサーヴィスを利用しながら、利用料金を大幅に節約できることになる。

通信キャリア同士の“壁”が崩れる

こうした市場の変化に、大手通信キャリアはもちろん抵抗するだろう。しかし、Artemis Networksのような中小企業にとってはチャンスが生まれる。同社は、帯域幅を格段に向上させる可能性のある「pCell」技術[日本版記事]に基づく無線ネットワークを開発した。従来であれば、AT&TやVerizonと同様に、消費者にサーヴィスプランを提供しなければならないところだが、創業者のスティーヴ・パールマンは、仮想ネットワークプロヴァイダーにサーヴィスを販売する計画を立てている。

グーグルはさらに、共通ログインで公衆Wi-Fiに接続できるサーヴィスを開発中だ。公衆Wi-Fi接続が普及すれば、Project Fiの成長可能性が高まるからだ。だが、グーグルがこうした大規模なネットワークをまとめあげる前に、そうしたネットワークの一部を他社が構築しなければならない。そこにフェイスブックが登場する。

フェイスブックは2016年2月、遠隔地や人口過密な都市圏で無線インターネット接続を提供するネットワーク機器を発表した。同社は、インターネットサーヴィスプロヴァイダー(ISP)になりたいわけではない。オープンソースのツールを提供することで、他社に、新たな地域で高速無線インターネットを提供してもらおうと考えているのだ。

新技術と無線周波数帯へのアクセス拡大は、モバイルネットワークの運営コスト削減につながる。このためグーグルなどの無線仲介業者は、全米(場合によっては世界全体)規模のネットワークを構築しやすくなる。実現すれば無線サーヴィスはコモディティ化し、主導権はAT&Tなどのキャリアからグーグルのような企業に移るだろう。

テック企業によるダークファイバーの活用

無線サーヴィスを通信キャリアから奪わなくても、テック企業はほかの方法で大手を弱体化させることもできる。アマゾン、フェイスブック、グーグルはかなり以前から、独自のデータセンターを建設し、使用されていない光ファイバーインフラ、いわゆる「ダークファイバー」を借りたり購入したりして、従来の通信キャリアを介さずにネットワークに接続している。

これは大きな意味をもつ。たとえばアマゾンは、ほとんどの専門家が世界最大のクラウドホスティング・サーヴィスと考えるものを運用している。データの送受信にこのサーヴィスを利用しているアプリやウェブサイトの数は明らかにされていないが、従来の通信キャリアはそれにまったく関与していない。

一方、グーグルとフェイスブックは、それぞれ「Accelerated Mobile Pages(AMP)」や「Instant Articles」というコンテンツをホスティングするサーヴィスに、もっと多くの企業を誘い込みたいと考えている。

こうしたプライヴェートインフラの規模は判断しがたい。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が2013年に報じたところでは、グーグルはSprintの約6万4千キロメートルをはるかに上回る、約16万kmの光ファイバー網を保有している。一方、調査会社Telegeographyの報告では、大西洋を横断するデータトラフィックの約60パーセントをプライヴェートネットワークが占めるという。アマゾン、グーグル、フェイスブックの3社が、現時点では米国で最大手の通信キャリアより多くの通信インフラを支配下に置いていないとしても、じきにそうなるだろう。

新たな寡占が生まれる危険性

こうした状況を総合すると、グーグルが仲介した無線サーヴィスを利用して、グーグルが製造した電話で、グーグルが所有するインフラ経由で広まったグーグル制作のコンテンツを視聴する未来が見えてくる。

多くの人々は、これを魅力的だと思うだろう。通信キャリアほど嫌われている業界を見つけるのは難しい。なにしろ通信キャリアは、ひどいサーヴィスと不透明な請求、料金の値上げでよく知られている。一方、テック企業は多くの人に革新的だと思われている。そして実際に状況を改善してくれてもいる。ComcastとAT&Tはすでに、Google Fiberと競合する地域で、接続を高速化している。

前述したProject Fiや、噂されているアマゾンのインターネットサーヴィス、フェイスブックによるオープンソースのハードウェアといったものは、通信キャリアが自社を守るためにさらなる革新を起こさねばならない、という状況に拍車をかける可能性がある。もちろん、通信キャリアに取って代わったテック企業が新たな寡占体制を生み出す恐れもあるのだが。

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