世代的に、アナログからデジタルへの移行を体感されていらっしゃるわけですが、楽器や録音機器に関して、最初にデジタルのものを使ったのはいつですか?
T: デジタルが出てきた時は衝撃でした。1981年の「すみれSeptember Love」で、松武秀樹さんが作ったサンプラーを使っています。
R: オレンジですね。
T: そう、あの曲のキックはオレンジ1号の音。しかもそのサンプリング元は、その時『ライス・ミュージック』っていうソロ・アルバムを作っていて、その時ドラムをやってくれたスティーブ・ジャンセンのキックなんです。あの曲はほとんど1人で作っていて、ドラムもスティーブのキックと松武さんのクリック聴きながらタムとかスネアとかを僕が叩いてバラバラに録っていって。デジタルとシ-クェンスの融合って自分の中ではあの時点で完成していましたね。

それ以降も電子楽器を使っていらっしゃったんですか?
T: 1980年代はどっぷりでしたね。サンプラーも鍵盤が付いてるのがよくて、ローランドのS-50を最初に2台買いました。あれは丈夫で、イギリスと日本を何回往復したか分かんないですけど、全然壊れなかったですね。今では当たり前にCD-ROMとかで売っていますけど、民族楽器系の音が入っているのはS-50だけでしたから、よく僕の所に友達のキーボード・プレイヤーが音をもらいに来ましたし、デュラン・デュランのニック・ローズもマネして2台買いましたよ。
ボス、ローランドの製品の印象的な話は他にありますか?
T: 一番長くつきあっているのはチューニング・メーターなんです(笑)。あれはもう20年壊れてないんです。音楽家にとって、機材は体の一部なんですよね。だから新しい製品がその馴れ親しんだものに勝るかと言うと、僕はNOと言いたいんです。

今回DD-20とGT-8をお使いですが、使い心地はいかがですか?
T: 僕なりの使い方ですが、アナログ・エフェクターではできないことがたくさんありますから、それを補うために使っていますね。もちろん、プリセットに入っている音で満足される方はそれで良いんでしょうけど、僕みたいなタイプだと、使い始めて3日くらいは格闘しました。最初はいろいろな機材やプリセットを試すのもいいと思いますよ。そのうち、だんだん自分の志向性とか、音に対する指標が出てきたら、自ずと求める音は絞られてくるはずですからね。

その音の目標というのも、土屋さんの中でもいろんな時代によって、曲によって、一緒に演奏する相手によって変わるわけですよね。
T: 変わりますね。今回リチャード・バルビエリと一緒に演奏するわけですが、彼は今回全部ローランドのキーボードを使って、音源もデジタルという前提があるので、僕が普段使っているアナログのエフェクターのセッティングに、GT-8とかの音を上手くプラスして混ぜてあげるとキレイに彼のキーボードの音と混ざるんですよね。今まであまりデジタルのエフェクトをギターには使ってこなかったんですけど、今回GT-8を使ってみて、結構ハマりましたね。

何か目標になる音を見つけるために楽器を使い倒すってことが大事なんですよね。
T: そうです。楽器とお友達にならないとまず話にならないですね。そこから恋人にしていって、最後は奥さんにして子供を産む、みたいな(笑)。結局音楽を作り出すってことと産みの苦しみも同じじゃないですか。

最後に、音楽を楽しんでいる読者にメッセージやアドバイスをお願いします。
T: やっぱり音楽、楽器に対する思いが不可欠なんですよね。その思いが深ければ深いほどちゃんと答えが帰ってくるし、思い込むと必ず実現します。楽器の場合、練習や努力って当たり前。こういうフレーズを弾きたいとか、こういう音を出したいという思いがあれば絶対にのめり込みますからね。僕が音楽を始めた頃、その後30年以上も音楽で生活していくなんてこと考えられませんでした。その頃はまだ大学生でしたから、何の責任もなく、したい放題やっていて、それでふっと気がついたら30代、40代、50代になっていた感じです。思いだけでここまできたというか、思いの強さだけは人に自慢できます。そして今があるんですが、今が一番楽しいってちゃんと人に言えますね。


 
楽器選びや音作りのコツなど、音に対してのこだわりや音楽に対する姿勢や情熱も含め、長年に渡って音楽をとことん突き詰めてこられた土屋さんならでは視点でお話しいただきました。何かひとつ自分の音の方向性を見つけて、次にはそれを実現するために楽器を使い倒すことが大事、という言葉からは、土屋さんの音楽に対する真摯な姿勢が感じられました。また常に優しく穏やかな口調は、それがそのまま、包容力のある大きなスケールの彼の音楽を想像させてくれました。
 

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最近のプロデュース作品
惑星『惑星II』
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