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究極の塩顔イケメンの時任君が「金髪の白ギャルとベロチュウかましてぇ」と寝言を呟いた結果

作者:山納言


 現在高校二年生。

 僕、中田優には憧れの人がいる。

 その人は同じクラスの時任光一君だ。


 隣の席にいる光一君は本当に格好いい。

 みんなは光一君のことを「究極の塩顔イケメン」だって絶賛してるんだよ。

 王子様って呼ぶ人もいるくらい。


 本人はどっちも嫌がってるけど、僕としては仕方ないんじゃないかなって思うんだ。

 だって本当のことだもん。

 僕は光一君が嫌がるから言ったことはないけど、そう言いたくなるみんなの気持ちはすっごくよくわかる。

 なにせ勉強も運動もなんだってできちゃう天才だからね。


 でも、光一君の良いところは外見だけじゃないんだから。

 内面だって素敵なことを僕はちゃんと知ってる。

 頑張り屋さんだし、気配りもすっごく上手だし、いつだって優しい。

 悪いところなんてただの一つだってないんじゃないかな。

 いまお昼休みでお弁当を食べてるところなんだけど、食べる姿勢もすごくきれいで見とれちゃうくらいだし。


 あ、そうそう。

 僕は小学生のとき、いじめられてるところを光一君に助けてもらったことがあるんだよ。

 あのときの光一君はヒーローみたいで格好良かったなぁ……。

 違った、「みたい」じゃなかった。

 光一君はいまでも僕の憧れのヒーローなんだ。


「優。俺ちょっと寝るから。昼休み終わりそうになったら起こしてくれる?」

「うん、いいよ。おやすみ」

「おやすみ」


 言うなり、光一君は机に突っ伏しちゃった。

 昨日徹夜でゲームしてたらしいから寝不足なんだろうな。

 朝からずっと眠そうだったし。


 えっと。

 本当は良くないことなんだけど、うん。

 寝顔をちらっとだけ盗み見ちゃおう。


 大丈夫だよね、もう寝ついてるよね

 よしっ。


 うわぁ、本当にきれいな顔。

 とてもじゃないけど、僕と同じ人間だとは思えないや。

 あ、まつ毛もすごい長いんだなぁ。

 むむむ、ちょっとこれは本当に――


「あー、金髪の白ギャルとベロチュウかましてぇ……」



 ……はい?



 え?

 ね、寝言?

 えっ、寝言だよね?

 あれ、起きてないよね?


 あ、やっぱり寝てる……。

 起きてない!

 じゃあやっぱりさっきのは寝言だったんだ!


 でも、えっ?

 き、金髪の白ギャルとベ、ベベ、ベベベ、ベロベベベだなんて……!

 なな、なんてハレンチな……!

 で、でも、こ、光一君もそんなことを考えるんだね……!


 じゃなくて、うん。

 これは当然なんじゃ?

 そうだよ、きっと逆にむしろ健全な証拠なんじゃ?

 そういうことに興味があることはね、やっぱりほら。

 うん、健全なはず……う〜ん……。


「あ、光一君、起きて。昼休み終わっちゃうよ」

「んん? ああ、ありがとう……だめだ、全然寝たりない……」


 なんて悶々としてたら昼休みが終わっちゃった。

 授業もなんか集中できないし、ずっと頭からもやもやが離れない。


 どうしたらいいんだろう……?

 う〜ん、一晩たてば大丈夫かな。

 うん、きっと寝て起きたら大丈夫でしょ。



 そうして迎えた翌朝。

 ちょっとした事件が起こっちゃいました。

 これはすごいことですよ。


 なんと驚くことに、ええ。

 とある女子四名が金髪の白ギャルに。

 そう、僕たちのクラスにいる美少女四天王が金髪の白ギャルになっちゃったんです!


 良家の深窓令嬢として有名な、東条玲奈ちゃん。

 学年で二番目の秀才にしてクールな眼鏡っ子の、西島綾ちゃん。

 みんなの妹的な存在で元気いっぱいな、南山風香ちゃん

 ギャル雑誌の看板モデルをしている、北岡あいりちゃん。


 以上が、校内でも名だたる美少女として有名な四名。

 北岡あいりちゃんはもともとギャルだったけど、茶髪を金髪に変えた感じです。


 でも、これにはちょっと僕も興奮を隠せないというか。

 まさかこんなことが起こりうるんだと鼻息を荒くせざるをえません。


「優?」


 いやぁ、光一君の寝言がこれまでの影響を及ぼすとは。

 信じられない。

 これは本当に大変なことですよ。

 さすがは僕のヒーロー。

 スケールというか影響力が違うというか、なんというか――


「ねぇ優? 聞いてる?」

「――へっ? ああ、ごめんね! なにかな?」


 おっと、光一君に話しかけられてたみたい。

 いけない、いけない。

 考え事に夢中になってたから気づけなかった。

 そっか、いまは昼休みか。

 ごめんね、光一君。


「いや、なんであの四人が金髪の白ギャル化してるのかって話なんだけど。優は理由知らない?」



 ……はい?



 え?

 僕?

 なにこれ、僕が聞かれてるの?


 どうしよう、答えられないよ!

 光一君が「金髪の白ギャルとベベなんとか」って寝言を言ったから、きっとみんなイメチェンしたんだよなんて!

 そんなの言えるわけないよ!

 無理無理、言えるはずがないよ!


「さ、さぁ、知らないけど?」


 ごまかせ!

 全力で知らない振りをするんだ、僕!

 実は理由をばっちり知ってることを光一君に知られないように――


「なんだ、知ってるじゃん」


 って、ええっ!?

 なんで?

 どうしてすぐ嘘だって見抜かれちゃったの?

 え、なんでなんでぇ?


「じゃあそうだな……ねぇ優。優はその理由をみんなに言える?」


 あっ。

 まずい、これはだめだ。

 光一君がちょっと怖いもん。


「い、言えないよ。だって知らないんだから」

「じゃあ俺にだけ言えないの?」

「だ、だから言えないってば。ぼ、僕は本当に知らないんだから!」

「ふぅん……」


 ひえぇ、やめてよぉ……!

 笑っているようで目が笑ってない感じ、怖いよぉ……!

 お願いだから、とってつけたような微笑みを僕に向けてこないでぇ……!


「なるほど。みんなには言えて、俺には言えないことが理由か」


 だからどうしてわかるのぉ!?

 なにをもってして僕の――


「そっか。じゃあ俺が原因なんだな!」


 嫌ぁぁあああ!

 光一君がどんどん答えに近づいてくるぅ!

 なんでこんな少しのやり取りで答えに近づいてこれるのぉ……?


 いや、待てよ。

 そうだ、落ち着くんだ僕。

 まだ光一君は答えに辿り着いてはいないじゃないか!

 そうだよ、原因であること自体はわかっても詳細は――


「そうすると、俺が白ギャルを好きって言ったとか?」

「――えっ?」

「いや、でもそんなこと公言した覚えはないから……あっ。じゃあ寝言で言ったとか? 例えば、金髪の白ギャルとベロチュウかましてぇ、みたいなことを」


 正解ですうぅぅぅ!

 名探偵すぎるよ、光一くぅん……!

 お手上げ、シャーロック・ホームズも完全にお手上げの名推理だよぉ……!


「あー、じゃあみんなに悪いことしちゃったなぁ」

「へ……? 悪いこと……?」

「うん。だってほら、金髪の白ギャルを好きなのは俺じゃなくて野崎だから」



 ……はい?



「いやだから、さっきのセリフは俺のじゃなくて野崎の口癖なんだよ。あいつがいっつもそんなことばっか言うから、いつの間にか寝言で口にするぐらいうつっちゃってたみたいだなぁ」

「え、えぇ……?」


 あれ、ちょっと待って。

 それじゃあ、野崎君が大変なことになっちゃうんじゃ。

 えぇと、野球部で坊主頭の野崎君はと――


「ねぇ野崎。ちょっとこっち来てくんない?」

「待て待て、北岡! 俺は悪くない! けっして俺は悪くないぞ! 悪いのは俺じゃなくて、勝手に寝言を口走った光一のほうで――」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ! いいから来いって言ってんだろ! おらっ!」

「ひぃぃ……!」


 あ、北岡あいりちゃんを始めとするギャルグループに連行されてる最中だ。

 首根っこや肩とか手をみんなに捕まれて、教室の外へとずるずる引きずられていく。

 可哀相に、野崎君……。

 南無南無。


「中田ぁ! お前、拝むくらいなら助けてくれよぉ!」


 あ、野崎君がこっち見た。


「えっと、ご、ごめんなさい?」

「なんで疑問系なんだよぉ、ふざけんなよぉ……!」

「ふざけてんのはおめぇだろうが野崎! うちらギャルをこけにしたこと、ぜってぇ許さねぇからな!」

「ひぃぃ……!」


 可哀相に、野崎君……。

 南無南無。

 どうか安らかに成仏してください。


「で、優はなんで急にメイクをし始めたの?」

「へ……?」


 へ……?


「へ、じゃなくて。今日マスカラ使ってるでしょ?」

「う、うん、まぁ、一応」

「へぇ、急に色気づいちゃって。あれ、もしかして優も俺に影響されちゃった?」

「ち、違うよ! 別に光一君に影響されたわけじゃ――って、ば、馬鹿にしないでよ! 僕だって女の子なんだからお化粧ぐらいするよ!」


 ついムキになって言い返しちゃう。


 べ、別にこれは光一君に影響されたわけじゃないから。

 昨日、帰り道に寄ったコンビニでたまたま目に入ったから、なんとなく買ってみただけであって。

 そうそう!

 そろそろお化粧を覚えなきゃなぁって思っただけで。

 ほ、本当に他意なんてないんだから!


「女の子なんだから、ねぇ……?」

「そうだよ。わ、悪い?」

「別に? ただ、俺の婚約者にも見習わせたいなぁって思っただけ」



 ……はい?



 こ、婚約者とな……?

 えっ、光一君に婚約者がいたの!?

 初耳!

 そんなの僕、いま初めて聞いたんだけど!


「えっ? えっ? そ、そうなの? 光一君って婚約者がいたの?」

「うん。相手は幼馴染で、婚約してからもう八年は経つかな」


 えっと、八年前っていうと僕たちが九歳のときか。

 たしか僕の家の隣に光一君が引っ越してきたのもちょうどそのころか。


 う〜ん、そうすると昔住んでたところの子が相手なのかな?

 えぇ、僕も幼馴染なのに全然知らなかったよぅ……。

 それならそうと教えてくれてもよかったのに……。


「は、八年かぁ……な、長いね……」

「うん。もとは子供同士のたんなる口約束でも、もう長い付き合いになるから、いまじゃ家族公認の仲。相手の家族みんなが認めてくれてるよ。どうぞ娘をよろしくお願いします、って。まぁ俺のほうもずっとお願いし続けてきたわけなんだけど」


 すごいなぁ、さすが光一君だなぁ……。

 たしかに光一君なら相手として文句ないだろうし、人付き合いも上手だからなんにも問題ないよね。


 だって僕の家族もみんな光一君のこと好きだもん。

 お父さんとお母さん、お兄ちゃんとお姉ちゃん、弟と妹、お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、ペットのポチとタマまで。

 みんなして「光一君は本当に良い男だ。最高の男だ」って大絶賛してるよ。

 ポチとタマなんか僕よりも光一君のほうに懐いてるくらいだし。


「まぁでも実際、その婚約者の子は俺と婚約してること自体、すっかり忘れちゃってるんだよね。悲しいことに」

「……へ?」


 そ、そんなことあるの……?

 家族は知ってるのに、当の婚約者が忘れてるなんて。


 え、いや、それってどうなの?

 ちょっとあれじゃないかな?

 なんていうか、失礼だと思う。


 うん、そうだよ。

 失礼だし、可哀相。

 一途に想い続けてる光一君が絶対に可哀相だよ。


「そ、それはさすがに失礼だね」

「失礼?」

「うん。だってそうだよ。ぼ、僕はその子のこと好きになれないかも……!」

「――ぷっ」

「ん?」

「いや、なんでもない」


 光一君が顔を背けて肩を震わせている。

 えっと、多分笑ってるんだろうけど……。

 僕なにかおかしなこと言ったかな……?

 う〜ん、なんでだろう……?


「そうだ、優。それより次の数学の宿題やった? 答え合ってるか見てやろうか?」

「本当に? ありがとう! 実はやったのはいいけど答えが合ってる自信はなくて……」

「大丈夫、間違ってる答えは俺が直してあげるから」

「うん。いつもありがとね、光一君」

「どういたしまして」


 光一君と机をくっつけてノートを広げる。

 本当、光一君は頼りになるなぁ。

 さすが僕のヒーローだ。


 おっと、いけない。

 集中しなきゃ。

 せっかく光一君が教えてくれるんだから。

 集中集中。




「ったく、北岡の野郎! 俺に八つ当たりしようとしやがって! なにが『焼きそばパン買ってこい』だよ、そもそも売店にねぇっつうの!」

「野崎さん、ちょっといいかしら?」

「ん? お、おう、東条か。ど、どうした?」

「大変申し訳ないのだけれども、わたくしにも焼きそばパンとやらを買ってきてくださらないかしら? あなたの自腹で」

「えぇ……」

「野崎君、私の分もお願い。腹黒王子と天然僕っ娘の甘ったるいやり取りでもうお腹いっぱい、胃が焼けつきそうなの」

「な、なんだよ、西島まで。てか、胃が焼けつきそうならメシいらねぇだろ」

「野崎ちゃん、みんなに一縷の望みにかけさせた罪は重いぞ! だからあたしの分も買ってきてね! ……ダッシュで」

「み、南山、お前そんな低い声出せるんだな……」

「野崎! てめぇここにいたのか!?」

「げっ、北岡」

「おらっ、さっさと焼きそばパン買いに行ってこいよ!」

「う、うるせぇ! 悪くない! 俺は悪くないんだぁ!」

「あっ、待て! 逃げんな、こら!」



お読みいただきありがとうございました!

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