■90年代コンテンツの特徴
(1)アニメーションの復活
『セーラームーン』から『エヴァンゲリオン』へ
80年代の末期には、テレビ放送のアニメーションの人気が低迷していた。そんななか、放送開始と同時に、広い層に愛される作品となったのが『美少女戦士セーラームーン』(1992年[図版12])であった。それでは、なぜ『セーラームーン』はヒットしたのだろうか?「セーラー服を着た女子中学生が怪物と戦う」という、まるで80年代までの同人誌の世界、男性オタクの欲望を可視化したかの如きアニメが、マニア受けにとどまらず、大ヒット作品となり、さらには女児のみならず女性にも支持をされたことの背景には何があったのだろうか。その背景にある時代性を完全に読み解くのはむずかしいが、90年代に入って、宮崎事件などの報道を行った放送メディアが、広くオタク文化を紹介していったことによる一般社会・文化の「慣れ」という状況もあったと考えられる。
セーラームーンの大ヒットを受け、ポスト・セーラームーン的な作品もいくつか制作された。『愛天使伝説ウエディングピーチ』(1994年)、『ナースエンジェルりりかSOS』(1995年)、『魔法騎士レイアース』(1994年)など、主役の女性キャラクターが複数登場し敵と戦う、という基本ストーリーをもったこれらの作品は、驚異的なスピードで「集団戦闘少女劇」とでもいうべきスタイルを築き、いっきに陳腐化の方向にむかってしまった。
そんな状況のなか、1996年に『新世紀エヴァンゲリオン』 [図版13]の放送が開始される。従来であればオタク向け、マニア向けとなると思われたその特異な作品世界は、予想を超えた大ヒットを記録し、社会現象化した。
そこには、80年代に結成された同人的なアマチュアフィルム集団を母体とし、それゆえファンの心理を的確に掌握することができた制作会社ガイナックスの英知の結晶がみてとれる。『エヴァンゲリオン』終了後、「ポスト・エヴァ」を狙った作品が制作されていった。熱血ロボットアニメのメタ・セルフパロディを目指した『勇者王ガオガイガー』(1997年)や『機動戦艦ナデシコ』(1996年)、天井桟敷や宝塚などの演劇の要素と少女漫画のテイストを融合した『少女革命ウテナ』など、過去のコンテンツ作品を理解した上で知識をもてあそぶようなオタク的視点を導入し、『 エヴァンゲリオン』のようなヒットを狙ったが、スマッシュヒットにとどまり、すぐに袋小路に突き当たってしまった。
それでも、エヴァンゲリオンの成功などによって活気づいたアニメーションは、1990年代の末期に至ると視聴者への提供の場所を、テレビ放送の深夜枠にうつす傾向をみせはじめた。視聴率への拘泥やスポンサーとの関係、表現縁手法など、ゴールデンタイムに比較して様々な面で制約が緩い深夜放送の時間帯におけるアニメの提供は、テレビアニメを「子供・一般向」と「大人・マニア向け」に分けることになり、作品単位での視聴者層のより明確な区別化を招いたのである。
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