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■90年代における社会状況とコンテンツ
□国内の社会事情
80年代中期より続いていた経済成長、いわゆる「バブル景気」が1991年ごろをさかいにいよいよ崩壊し、ここから日本は長期的かつ慢性的な不況時代に突入することになった。
一方で、地域や家庭などの共同体の崩壊が一層すすみ、より大きな意味での秩序崩壊を生み出した。それは、ジュリアナブーム、ブルセラショップ、援助交際などの性秩序の崩壊や、オウム真理教というカルト宗教団体によるテロ活動などの社会規範秩序の崩壊といった具体的な現象となって浮上してきたのである。
□90年代の文化状況
まず90年代において、コンテンツへも大きな影響をあたえたと考えられるいくつかの社会現象を、特にやコミックマーケット文化との関連から、まとめてみたい。
(1)「有害コミック」問題
幼女を誘拐し殺害するという1989年の「宮崎事件」などの社会的な事件の影響もあって、まずはホラービデオなどの直接的な残酷描写への自主規制がはじまった。さらに、その後、コミックにおける残酷描写および性的描写の見直しも開始された。1990~91年ごろには、諸方面で「有害コミック」糾弾の論調が盛り上がっていくなか、1991年に東京都議会が「有害図書類の規制に関する決議」をまとめる。このような動向に対し、出版側の自主規制として、該当する単行本にマーク(円形黄色地に黒文字で「成年」)を貼付(のちに印刷)することが行われるようになった[図版2]。こうした出版・流通サイドの動きは即売会などで自主的に流通・販売される同人誌にもおよび、例えばコミックマーケットにおいても、1991年(CM40)以降、性行為および性器描写への徹底的な規制がはじまり、以前より実施されていたサークルによる見本誌確認が改めて制度化され、同時に他の即売会でも、これにならった規制が実施されることになった。
さらに、中高生を中心とした児童売買春の社会問題化によって、1998年、(財)日本ユニセフ協会などの要望で、議員立法として提出された「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案」いわゆる「児童ポルノ法案」が1999年に成立し、施行されたが、絵画・イラスト・漫画などは規制の対象とはならなかった(近年、この法律をコミックなどにも適用しようという動きがみられる)。
(2)日本的クラブ文化の熟成と歪曲
1980年代後半~1990年代前半は、バブル経済を背景に、享楽的な文化状況が生まれ、ディスコ、クラブの過激化を促進した。90年代前半には、「マハラジャ」に「お立ち台」が出現、「ジュリアナ[図版3]」などを中心に、ボディコン、ジュリ扇、チャンピオンベルト、など露出度の高い特異な衣装をまとった女性たちが乱舞する、というステロタイプな画像が興味本位のマスコミによって紹介されると、一般化と過激化が進み、バブル崩壊後に爆発的な流行をみせ、1994年、東京ドームでの大レイブ開催で極点をむかえた。
時を同じくして、80年代に全盛を誇ったアイドルおよびアイドルグループが激減し、かわって、数多のセクシー・グループが誕生することになった。1990年におけるC.C.ガールズのデビューを嚆矢として、大量のセクシーグループ(イケイケガールズ、T-BACKS、BCG、ピンクサターン)が登場、深夜番組「ギルガメッシュナイト」出演をきっかけに元AV女優の飯島愛がタレント化するなどの状況を作り出したが、1年程度の期間でテレビというメディアでの露出が不可になるほど過激化が暴走した。
このような流行現象は、コミックマーケットのもう一方の顔でもあったコスチュームプレイ(コスプレ)を、誤った認識を含みながらも一般社会に認知させるキッカケとなったことは記憶しておきたい。
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図版2
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図版3
1990年代前半のジュリアナ東京
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