辺野古問題とは切り離して、「原点」である米軍普天間飛行場の危険性の除去に取り組んでほしい――。沖縄県の玉城デニー知事が、首相就任後初めて菅義偉氏と会談し、そう訴えた。
首相はこの声に真摯(しんし)に向きあう必要がある。軟弱地盤の発覚で辺野古移設の先行きは見えない。政府のもくろみ通りにいったとしても、工事の完了までに12年という長い年月がかかる。市街地にある普天間をめぐる様々な問題を、その間、放置していいはずがない。
知事は国との対話の場を設けるよう求めた。政府は「すでに枠組みはある」との立場だが、その「普天間飛行場負担軽減推進会議」は、県と地元宜野湾市の要請にもかかわらず、1年半前に開かれたのが最後だ。
同会議は、辺野古の埋め立てを承認した仲井真(なかいま)県政時代の14年に設けられた。当初は年3回開かれたが、翁長(おなが)県政では4年間で1回、3年目に入った玉城県政でも1回だけだ。会議の開催が、政府の方針に従う知事か否かで判断されるようなことはあってはならない。
政府と厳しく対峙(たいじ)した翁長氏とはややスタイルを変え、玉城氏は「辺野古ノー」の思いを引き継ぎつつ、政府に繰り返し対話を求めてきた。米軍基地のあり方全般について、日米両政府と県の三者が検証・協議する場の創設も提唱している。
「基地負担軽減のためにできることは全て行う」と政府は表明してきた。そうであるなら、普天間問題は真っ先に取り組むべき最大のテーマの一つだ。訓練の分散・移転や、学校・保育園上空での飛行禁止の徹底などによって、住民の生命と健康を脅かす要素を着実に取り除いていかなければならない。
政府が4月に県に申請した辺野古工事の設計変更には、軟弱地盤対策として当初予定した7倍近い海砂を採取することや、県北部に限っていた埋め立て用土砂の調達先を県全域に広げることなどが盛り込まれた。環境破壊は必至で玉城知事が承認する見通しはないが、だからといって普天間の危険の放置を正当化する理由にはならない。
今回の会談時間はわずか5分間ほどで、首相からは踏み込んだ発言はなかったという。菅氏は安倍政権で辺野古移設を主導し、政府に協力すれば地域振興のための予算配分を手厚くし、逆なら冷遇するなど、強権的な姿勢をとってきた。
こうした「アメとムチ」政策は、地域や住民に分断をもたらし、沖縄と政府の間にも深い溝が刻まれた。しこりを解きほぐすには、地道に、誠実に対話を進めるしかない。今後の行方は首相の姿勢にかかっている。
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