「連環画」という中華文化
もともと、中国のみならず、香港・台湾といった中華文化圏には、「連環画」と呼ばれる伝統的な絵物語文化がありました(ベトナムも中国文化の影響を強く受けていますから、古来はこういう形式だったようです)。「連環画」というのは、小さな横長の冊子の形をしていて、1ページに1枚の絵と、その下に数行の説明が載ったものです。つまり、まさに「誌上紙芝居」(日本でも絵物語が雑誌に載り始めた頃はそう呼ばれた)のような形式で物語が進んでいきます。
この連環画文化は、香港・台湾では、60年代に日本マンガの形式が流入するにつれてすたれていきます。が、中国では80年代まで盛んでした。これは1949年の革命で共産主義になった中国が海外の文化の輸入を制限してきたこともありますが、中国共産党政府によって連環画が共産党の政治思想を広く人民に浸透させるために利用されてきた、という歴史的事情もあります。
連環画の題材になるのは、「西遊記」や「三国志」、「紅楼夢」といった中国古来の物語や故事成語などが多いのですが、もう片方で「文化大革命」とか「抗日の勇士」といった政治的な題材が描かれて、政府によって配布されるという使われ方もありました。こうした国家思想普及のための連環画は、全国津々浦々までいきわたる共産党の思想伝達ネットワークに乗せられ、電車やバスで無料で配られたりもしていたようです。
ここに変化をもたらしたのが、80年代からの日本動漫(日本のアニメやマンガ)の流入でした。具体的には1980年から放映され始めた「鉄腕アトム」のTVアニメです。これは中国の子供たちに熱狂をもたらしました(海賊版ながらマンガ版もすぐに出版されましたが、これも初期の頃は連環画形式でした)。これ以降、日本のアニメやマンガの影響を受けながら育った世代のことを「80后」といいますが、子供のころ中国で苛烈な革命内戦の時代を生き抜いた体験をつづった『チャーズ』の著者であり、中国文化や政治社会にたいへんに詳しい筑波大学名誉教授の遠藤誉さんが『中国動漫新人類』(日経BP社)の中で活写しています。
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