▼行間 ▼メニューバー
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
特級探索師への覚醒~蜥蜴の尻尾切りに遭った青年は、地獄の王と成り無双する~ 作者:笠鳴小雨

第3章 望まぬ忘却の先に、肯定と未来の線路を築く

90/94

第90話



 地獄クエスト、達成条件その2。

 シャドーボクシング15時間継続、ただし足を一度でも止めてはならない。10分を過ぎると本物の人型シャドーが出現し、精神を大幅に削り取る攻撃を仕掛けてくる。

 なお、今回は10体のシャドーがいる模様。


 そして、もう一つ――。

 拳の風圧のみで巨大な青銅鐘を破壊せよ。


「せいっ!」


 シャドーの拳をステップで躱して、躱して、躱して、躱して……ようやく抜けた先で、渾身の拳を青銅鐘目掛けて振りぬく。

 ブゥンと風を切る鈍い音が響き渡り、周囲の地面に落ちている木の葉が風の渦に舞い上げられていく。


 すでにこんな状態を繰り返して、五時間が経っていた。

 しかし、未だに青銅鐘にはヒビ一つ入ってはいない。


(何がダメなんだ!? どうすればいいって言うんだよ!)


 何度も何度も心の中で悪態をつきながらも、テンジは足と手を一度も止めることはなかった。

 少しでも長く地面に足を付けていると、いつアナウンスが失敗とみなすかわからないからだ。

 例え、クエストクリアの糸口が見つかっていなくとも、ただただ全力で方法を探ることだけが、今のテンジに許された最後のあがきだった。


 ただひたすらに、攻略の糸口を探し続ける。



 † † †



『残り:47秒』

『青銅鐘のHP:9,977/10,000』


 14時間59分13秒が経過していた。

 何度か渾身の拳風圧で23のHPを削ることに成功するが、未だにこれといったコツを掴めてはいなかった。


 すでに全身はボロボロで、気力だけでこのクエストをこなしている状態だ。

 まるで糸口を掴めなかったのだ、仕方のないことだろう。


《制限時間内に青銅鐘の破壊が達成されませんでした。30秒後に再びカウントが始まります。実行可能回数、残り1回。30、29、28――》


「はぁ……はぁ……どうやれって言うんだよ」


 悪態を吐きながらも、テンジは急いで体力回復鬼灯と精神力回復鬼灯を胃袋に押し込んでいく。ついでにスポーツドリンクを飲み、さらにエナジーゼリーも胃の中に押し込んでいき、辛くとも強制的に体にエネルギーを補給した。

 すぐに体が全快したような感覚が漲り、自然とやる気も湧いてくる。


(さっきはたったの23回だけだけど、渾身の一撃と言える拳を放つことができた。……あの感覚を思い出すんだ。あれを1万回ほどやってのければいいだけ。5秒に一回繰り出せればクリアだ)


 クエストが始まるまでの三十秒間で、自分の最高のパフォーマンスができた姿を思い浮かべる。脳内で最高のシミュレーションを何度も繰り返し再生し、自分に自己暗示をかけていく。


《――3、2、1。カウントが動きます》


 残りのクエスト実行可能回数は残り一回。

 本当の本当に、最後のテンジの挑戦が始まった。



 † † †



『残り:2,740秒』

『青銅鐘のHP:2/10,000』


 45分以上の時間を残したところで、テンジは念願の青銅鐘破壊の目前まで迫っていた。

 二度目の挑戦が始まって15分後、テンジは渾身の拳を振るうコツを掴んだのだ。それを機に、青銅鐘のHPがみるみると削られていくこととなった。


 そうしてテンジの頑張りは、ようやく身を結ぶことになる。


「おりゃぁっ!」

「こんにゃろーっ!」


 二連続の拳を振りぬくと、拳から少し遅れてシュッと風を切り裂くような音が聞こえてくる。

 これがテンジの行きついた、渾身の拳という理想の形だった。


(音が遅れてやってくるくらいの威力と速度、そして気合いを籠めないと……認めないってかよ)


 なんだか今までの自分の本気を否定された気持ちであった。

 お前ならまだまだ先の力がある、と師匠から現実を突きつけられたような弟子の感覚だ。

 嬉しく思いつつも、やっぱり悔しさの方が勝っていた。


『青銅鐘のHP:OVER KILL』


 ついに閻魔の書の表示が変化した。

 どうやら達成条件の一つである『青銅鐘の破壊』は攻略できたようだ。しかし、クリアのアナウンスが鳴り響かないことから、もう一つの条件をクリアしないと正式にはクリアと認めてくれないらしい。


「ラストスパートだぁぁぁぁぁ! らっしゃぁぁぁぁぁ!」




 それから45分が経過した。

 テンジは死力を尽くした戦いに、何とも言えぬ達成感を感じていた。


 背中から地面に倒れ、赤い夜空を眺めながらハァハァと息を整える。

 もう指先一つ動かせないほどには体が悲鳴を上げており、このまま二日くらいここで寝ていたと思うほどであった。


 外気温も来た時より下がっており、体中から白い湯気がゆらゆらと湧き出てくる。

 汗も止まることを知らずに、地面の土を濡らしてこげ茶に染めていく。


《達成条件その2の終了を確認しました。お疲れ様です》


《地獄クエスト『赤鬼からの挑戦状~Level.2~』がクリアされました。クリア報酬二つが贈呈されます。『五等級武器“赤鬼グローブ”』、『五等級装備品“赤鬼ネックレス”』は帰還後、オリジナルの閻魔の書に反映されます。30秒後に帰還します》


 息を整えるために心臓の鼓動に合わせて呼吸を調整していると、脳内にクエスト完全攻略のアナウンスが響き渡った。

 ガッツポーズする余裕のないテンジは、心の中で勝利の雄たけびを上げる。


「ハァハァ…‥あっ、忘れないうちに」


 近くに置いてあったバッグへと必死に手を伸ばし、なんとかバッグの紐を掴む。

 地獄領域から現実世界に転移するとき、体のどこかに触れていない物はこの場に置き去りにされてしまうのだ。

 この検証をするべく、以前のクエスト時に近くの木につまようじを刺しておいたのだが、今回来た時にはそれが刺さったまま残っていた。

 そこからこの地獄領域では、忘れ物をする可能性が浮かび上がってきたのだ。


《天城典二を帰還させます。今後の活躍に期待しております、主よ》


 三度目の地獄クエストを攻略したのであった。

 テンジの体は閻魔の書によって、現実世界へと引き戻されていく。




――――――――――――――――

『召喚可能な地獄武器』

【赤鬼シリーズ】

 ・赤鬼刀――五等級――

 ・赤鬼ノ短剣――五等級――

  <パッシブスキル:泥酔>20%の確率で、敵を泥酔状態にする。

 ・赤鬼グローブ――五等級――

  <パッシブスキル:爆破>10%の確率で、攻撃に爆破(300%)を上乗せする。

――――――――――――――――

――――――――――――――――

『召喚可能な地獄装備品』

【赤鬼シリーズ】

 ・赤鬼リング――五等級――

 ・赤鬼バングル――五等級――

  <アクティブスキル:力導>使用者の攻撃力を1.75倍にする。

 ・赤鬼ネックレス――五等級――

  <アクティブスキル:無導>地獄武器を自在に操作する。

――――――――――――――――



 地獄武器『赤鬼グローブ』、地獄装備品『赤鬼ネックレス』。

 これがテンジの新たな召喚可能な欄に加わった。



地獄クエストを描くのもこれで3回目ですね。

もうなんとなくは要領を掴んでいただけたかな?と思うので、これ以降の地獄クエストは基本的に簡素にしていく予定です。

明日からは第3章の後半へと物語が進んでいきます!!


あと。

これからはたま〜にポイントください的なあとがきも書こうかなと思います。嫌いな人はごめんなさい。

とりあえず区切りがいいところとかに入れようかなと。

ということで良かったら☆で評価お願いします!!

ブクマしてくれるとなお嬉しいです。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想は受け付けておりません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。