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 かんぽ生命が「おわび行脚」のかたちで営業を再開した。一方で、同じ日本郵政グループ内のゆうちょ銀行で新たな問題が起きている。国民の財産を引き継いだ巨大企業として社会にどんな価値を提供していくのか。組織全体が改めて問われる。

 かんぽの営業再開は昨夏の自粛以来1年3カ月ぶりだ。長年にわたる不正販売の横行、それを正せなかった企業統治の不全、長期に及んだ営業の空白と、再出発の環境は厳しい。

 「一人ひとりのお客さまに寄り添い、お客さまの満足と安心に最優先で取り組み、信頼していただける会社になる」と掲げるが、問題は実行力だ。

 不正にかかわった職員の調査や処分は進んだものの、管理職の処分や内部通報制度の改善などで、なお課題が残る。立て直しの本番はこれからであることを、肝に銘じてほしい。

 ゆうちょ銀では9月以降、口座を何者かに不正に使われて、顧客がお金を引き出される被害が相次いで発覚した。

 金融機関からキャッシュレス決済への振替をめぐる一連の不正では、ゆうちょ口座の被害が件数、金額ともに目立って多かった。自社のキャッシュレス決済サービス「mijica」でも不正利用が確認されている。

 さらに、口座が不正に開設され、証券会社口座からの出金先として使われる事例もあった。

 セキュリティーに大きな不安が生じたうえ、口座の持ち主への補償が長く放置されていた例があるなど、きちんと顧客を向いて対応しているのか、疑わざるをえない状況だ。

 情報開示も、総務相持ち株会社日本郵政に迫られてようやく進んだようだ。別会社とはいえ、かんぽの教訓を学んでいるのか心配になる。

 かんぽの不正発覚以降、日本郵政をはじめ、グループ各社の株価は大きく下げた。中長期の経営戦略もはっきりしておらず、市場から重大な疑義が突きつけられているのは明白だ。

 郵政の民営化はなお途上にある。だが、かんぽ不正以前から、その道筋は曲折と先送りが重ねられ、経営者も頻繁に交代してきた。巨額を投じた海外企業の買収失敗に加え、今回の事態である。手厚い財務基盤や人員・郵便局網を有して出発しながら、将来を見通せない立場から抜け出せないままだ。

 しかも、超低金利の長期化やデジタル化の急速な進展など、金融をとりまく環境は激変している。メガバンクも生き残りのために変身を図る時代に、日本郵政グループはどのように顧客の支持を得ていくのか。信頼回復のためにも、取り組むべき課題は山積している。

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