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 紛争と疫病。二つの災禍が世界の各地を覆う今、国を超えた連帯こそが求められる。人間の命の糧を届ける最前線の機関が、その象徴に選ばれた。

 今年のノーベル平和賞が、国連世界食糧計画WFP)に贈られる。途上国を中心に、戦地や被災地など過酷な現場で食料を届けている組織である。

 減り続けてきたはずの世界の飢餓は5年前に増加に転じ、改善の気配がない。主な理由は、武力紛争の拡大と、気候変動に伴う自然災害の悪化である。

 そこに今年は、新型コロナの大流行がのしかかった。人やモノの移動が制限され、アフリカや中東、中南米などの貧しい国々で、いっそう事態が深刻になると予想される。

 国連によると、慢性的な栄養不足は6億9千万人。最低限の食料さえ入手困難な人は約1億5千万人とみられていたが、コロナの影響で2億7千万人まで増える恐れがあるという。

 飢餓は食料の争奪を起こし、新たな紛争をもたらす。ノーベル委員会はWFPの言葉を引用し、「医療用のワクチンができるまで、食料が混沌(こんとん)を防ぐ最良のワクチンだ」と述べた。

 明日の食事に困る人をひとりでも減らすことが、平和な世界を築く礎となる。そのメッセージを重く受け止めたい。

 WFPは5600台のトラック、30隻の船、100機近い飛行機を動かす世界最大の人道支援機関である。毎年運ぶ量は150億食に上り、活動現場の多くは危険と隣り合わせだ。

 委員会は、その活動をたたえるとともに、WFPとは別に、多くの国連機関が直面する危機を強調した。子どもや難民を救済する人道支援などの機関が、財政難に陥っている。

 そんな事態を生んでいる主因は、「自国第一」の広がりだ。とりわけトランプ政権下の米国は、国連機関への資金を絞り、協調に背を向けてきた。

 コロナの教訓は「多国間主義の大切さだ」と語った委員会の今年の眼目は、創設75年を迎えた国連の再評価と大国への戒めにあったのではないか。

 先進国を含むすべての国が人間の安全と健康に向き合う今、国連がうたう協調の原点を思い起こす機会とすべきだろう。

 すべての加盟国が共有する「持続可能な開発目標」(SDGs)は、2030年までに、あらゆる貧困と飢餓を撲滅するとしている。

 SDGsの力強い担い手を自任する日本としては、官民併せてさらなる国際支援と足元での活動を広げたい。飢餓の国も飽食の国も、同じ波に揺れる風雨同舟の関係にあることをコロナ禍は確かに教えている。

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