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特級探索師への覚醒~蜥蜴の尻尾切りに遭った青年は、地獄の王と成り無双する~ 作者:笠鳴小雨

第1章 蜥蜴の尻尾が輝く日、鬼が藍月に微笑む

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第27話



 検査入院が始まって一週間が経過していた。


 今坂看護師の説明通り、最初は医療的な検査ばかりであった。

 血液検査からMRIから何から何まで、細胞の一つ一つを盗み見られた気分だ。とはいっても丸一日検査という日はなかった。

 御茶ノ水ダンジョン前総合病院はかなり大きな病院ということもあり、普通の通院患者や診察なども行っている。なのでその合間を縫って検査を行った感じだ。

 今坂看護師は「これでも優遇しているんですよ」と言っていたのだが、テンジにとっては暇な時間の方が多かったのであまりそんな気はしていなかった。


 そんなテンジは今、七星の診察室へと来ていた。


「うん、体に異常はなさそうだね。年齢相応の健康状態だ。協会にもそう報告しておくよ。……それよりもテンジ君はいい筋肉してるね、やっぱり鍛えてるの?」


 テンジは診察と言われ、上着やTシャツを脱いでいた。

 そんな高校生の鍛えられた腹筋を見て、七星は指で触ろうとした。

 しかしテンジもこの一週間で学んでいた。彼女はことあるごとにテンジに触ろうとしてくるので、慌てて服を着て、距離を離す。


「え、えぇ……人並みには」


「……ケチ。さて、明日からは協会の検査員が来て測定を行う予定だよ。テンジ君は高校で定期測定を受けているよね? そのプロ用測定だから、あんまり気を張らずに頑張ってね」


「は、はい。ありがとうございました」


「うん、もう部屋に戻っていいよ。……って、忘れてた」


 診察室を出ようと椅子から立ち上がったテンジを七星が慌てて止めた。


「何ですか?」


「テンジ君……まだリオンに連絡してないんだって?」


「え? あ、はい。なんと感謝すればいいのかわからなくて……」


 テンジは罰が悪そうに言った。


 連絡先を貰ったのに、未だに電話をしていないのには理由があった。

 まずはリオンが言っていた干渉を嫌うという言葉を信じていたあまりに、おいそれと連絡するべきではないと判断したから。もう一つが、この入院費をどうやって返すべきなのかずっと考えていたからだ。

 おそらくこの病院の個室をあてがわれたため、入院費は馬鹿にならないと踏んでいる。だから、本当にどうすればいいのかわからなかったのだ。

 とはいっても御礼の連絡は入れた方がいいのだが、それは一先ず入院期間が終わってからにしようと考えていたのだ。


「まぁ、リオンから言われたわけじゃないんだけどね。リオンのギルド名知ってる?」


「いえ、知らないですね」


「やっぱそうだよね。リオンは【暇人】ってギルドを作ってるんだけど、そこを纏めている海童かいどうあまねがテンジ君に伝えたいことがあるって連絡を待ってたよ」


「海童さん……ですね。あとで連絡してみます」


「うんうん、そうしてね。あとそうだ、基本的にリオンに連絡はしなくていいからね? リオンは電話されるだけで機嫌悪くするから。まぁ、海童さんにはあんまり気にせず連絡していいと思うよ? テンジ君はお金のこととか気にしてそうだけど、リオンは無駄にお金だけは持ってるからね。毟り取れるだけ毟りとっちゃえっ!」


 七星はきらんと星が飛び出そうなウィンクをして、テンジへと笑いかけた。

 テンジも大人からのアドバイスとして受け取り、「ありがとうございます」と言い残して診察室を出たのであった。

 そのまま自動販売機の横にある無料で飲めるウォーターサーバーからコップ一杯の水を汲み、病室へと戻っていく。


 ベッドに座る前に、棚に仕舞ってあるバッグのポケットから名刺を取り出した。


「七星先生の言う通り、一度連絡してみよう」


 その名刺に乗った電話番号を自分のスマホで打ち込んでいく。

 テンジは外の景色を眺めながら、スマホを耳に近づけた。


『はい、海童です』


「あっ……初めまして、天城典二と申します」


『あ~! 君がテンジ君? 良かったぁ~、リオンがまた勝手なこと言って嫌われたんじゃないかと心配してたんだよ! どう? 体は何ともなかった?』


 その男性はリオンという零級探索師とはまるで違って、陽気で活気のある大人の声をしていた。

 その安心できるような声を聞いて、テンジは心のどこかで安心していた。


「はい、おかげさまで何ともなかったようです。入院費も検査費も負担していただけたようで、本当になんと御礼を言ったらいいのか……」


『御礼? あははっ、そんなのいらないよ~。うちにはリオンがいるからね、お金だけは本当に余るほどあるんだよ。これも未来の有望な探索師への投資だと思って、何も気にしないでほしいな。特にテンジ君にはね』


「特に僕は……ですか?」


『うんうん、リオンが言ってたんだよ。テンジ君には気を張っとけってね。だから、困ったことがあれば遠慮なく僕に連絡してくれていいからね? あー、基本的なリオンの窓口は僕だけだから、リオンには直接連絡できないんだけどそれだけは勘弁してほしいな』


「い、いえ、僕なんかに光栄すぎるお言葉です」


『あははっ、テンジ君は謙虚だなぁ。あー、そうだそうだ! 伝えなきゃならない要件を思い出したよ』


「はい、七星先生からもそう聞きました。僕なんかに要件って何でしょうか?」


『あー、なるほど。一葉ちゃんが連絡しろって言ったんだね? あははっ、そんな大層な用事じゃなかったんだけどね。なんか緊張させちゃってたらごめんね? 本当に些細な要件だからね』


「は、はい」


 気軽なその言葉にテンジの心はさらに軽くなっていた。

 思っていたよりも厳格な様子もなく、話しやすい海童に親しみすら感じていた。


『リオンから青い石貰わなかったかな?』


「あっ、貰いました」


 テンジはそう返事をすると、バッグのポケットに一緒に仕舞ってあった真っ青な500円玉ほどの小石を取り出した。


『その青い石はね、昔のリオンも使ってたアイテムなんだけど……』


「ア、アイテムですか!?」


『あ~、そんな高価な物じゃないよ? というかそもそも市場に出回ってないからね、値段の付けようがないアイテムだよ』


 海童のその言葉に、思わず目を回してしまうテンジ。

 市場に出回っていないアイテム、というだけで、これは値が付けられないほどに貴重なアイテムであったんだと知ってしまう。


「ね、値段が付けられない……」


『あははっ、たぶん貴重ではあるんだけどそもそも他に誰かが持ってるところを見たことがないから、そんな大層なものじゃないよ。それでその青い石の効果なんだけどね……』


 テンジは思わず唾を飲み込む。


『天職を偽装するアイテムなんだ』



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