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特級探索師への覚醒~蜥蜴の尻尾切りに遭った青年は、地獄の王と成り無双する~ 作者:笠鳴小雨

第1章 蜥蜴の尻尾が輝く日、鬼が藍月に微笑む

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第22話



 閻魔の書を捲っていくこと三分ほどで、すべてのページを確認し終えた。

 やはりそのほとんどは白紙の状態が多く、特筆すべき新しい情報は二つほどしか見つけられなかった。

 そのページに再び目を通すべく、テンジはページを遡っていく。


「まずはこれか。あの武器たちが召喚対象になっていると」



 ――――――――――――――――

『召喚可能な地獄武器』

【赤鬼シリーズ】

 ・赤鬼刀(五等級)

 ――――――――――――――――


 ――――――――――――――――

『召喚可能な地獄装備品』

【赤鬼シリーズ】

 ・赤鬼リング(五等級)

 ――――――――――――――――



 それは地獄領域で小鬼から逃げていた時に、テンジの命を守ったアイテムたちであった。

 今でも手の触感で覚えているほどには、赤鬼刀の威力が異常だったことを思い出す。五等級武器は通常、あれほどの巨木の枝を易々と切れるほど切れ味の良いものではないのだ。

 しかし、この赤鬼刀は確かに五等級と表示されているのだ。


「小鬼と言い、赤鬼刀と言い……地獄の等級表示はどうなってるんだ?」


 ダンジョンに関する物には「等級」という概念が少なからず存在する。

 おおまかにダンジョン等級、モンスター等級、探索師等級、アイテム等級の四つが代表的な等級分類である。

 それらはおおよそリンクしていることが知られ、例えば二等級の探索師は二等級のダンジョンに入場することができ、二級以上の探索師ライセンスをもらうことが多く、自分の能力に見合った二等級以上のアイテムを持つことが推奨されている具合である。


 なのだが、地獄に関する等級だけはどうにもこの等級分類に見合わない気がしていた。


「まあ、分析は追々やっていくとしてだ。まずはどうやってこれを召喚するのか試してみるか」


 テンジはジッとそのページを見つめる。

 すると赤鬼刀の文字が黒文字から銀色へと変色したのを確認した。


「なるほど! 欲しい、と思うことが銀色に輝く条件なのか!」


 テンジの言う通り、心の中で「赤鬼刀を召喚したい」と念じた途端に文字が銀色に光り輝いたのだ。

 その様子を見て、一つ実験をしてみることにした。本を閉じ、少し離れた地面に置く。そしてその離れた位置から「赤鬼刀を召喚したい」と念じてみた。


「うわぁ、本当にできちゃったよ」


 テンジの想像通り、念じることで本がひとりでに動き出し武器のページで停止した。そしてすぐに文字が銀色へと光り輝いたのだ。

 そのまま指の腹を赤鬼刀の文字へと押し付けると、シュポンッと手元にあの刀が現れる。慌ててそれを掴み、テンジはにやりと笑った。


「これは本当にすごい本だ。いつでも武器を召喚できる能力なんて、まるであの有名な英雄探索師みたいだな」


 世界にはありとあらゆる強力な武器を持ち、それらを何もない空間から出現させ、数多の強力なモンスターたちを屠ってきた有名な探索師がいた。

 その探索師はすでに他界しているのだが、テンジたち新第二世代の子供たちに語り継がれるほどの偉業を成した人物として教科書に載っているのだ。それこそ動画がいくつも残っており、テンジもその動画を見るのが好きな子供だった。


 その英雄探索師と似たような能力を得たことで、テンジは少し興奮していた。


 今度はどうやったら本の中へと仕舞えるのか試みたのだが、これが思いのほかあっさりとしており、「赤鬼刀を戻したい」と念じるだけでシュポンッと勝手に掻き消えるのだ。

 その後に同じく赤鬼リングを出現させ、戻すという作業を繰り返してみた。


「赤鬼リングも同じ要領で召喚できると。で、これは一体どんな能力があるんだろうか?」


 テンジは赤鬼リングを右手の人差し指嵌め、本の最初の方にある自分のステータス欄を確認することにした。

 そこにはテンジの予想通り、この赤鬼リングの能力が明確に表示されていた。



 ――――――――――――――――

【名 前】 天城典二

【年 齢】 16

【レベル】 0/100

【経験値】 2/1000


【H P】 26(10+16)

【M P】 16(0+16)

【攻撃力】 71(55+16)

【防御力】 40(24+16)

【速 さ】 23(7+16)

【知 力】 38(22+16)

【幸 運】 45(29+16)


【固 有】 小物浮遊(Lv.5/10)

【経験値】 3/22


【天 職】 獄獣召喚(Lv.0/100)

【スキル】 閻魔の書

【経験値】 2/1000

 ――――――――――――――――



 攻撃力の数値が21から71へと変化していたのだ。

 その差は50であり、赤鬼リングを装着するだけでテンジの中では攻撃力が一番の得意分野へと変わることとなった。これを確認する前に小鬼を一体使役することで攻撃力が25もあがる事実を確認しているので、合わせて50も増加しているのだ。


「赤鬼リングを装着すると攻撃力が25も上がると。これってすごいことだよね? だって僕の元の攻撃力よりも上昇値の方が大きいし」


 それも凄いことだったのだが、テンジにはもう一つ目に留まる変化があった。


「あれ? 経験値が入ってる。たったの2だけだけど」


 モンスターを倒した覚えのないテンジにとっては、その変化は推測を覆すものだった。元々モンスターを倒して経験値を得るのだと考えていたので、この変化はテンジの頭を混乱させる。


 と、そこまでそう思っていた。


「あっ! 3に変わった!」


 そのページを見つめていると、途端に経験値の数字が2から3へと変化したのだ。

 ということは、テンジの知らぬところで経験値を得ているということになる。

 うーんと唸りながら、テンジは考えた。そこで一つの可能性を導き出す。


「そういえば地獄領域を出る間際にアナウンスが『モンスターを解放する』的なこと言ってたよね。……ということは地獄領域で小鬼がモンスターを倒して、僕に経験値が割り振られているってこと?」


 突拍子もない考えだとは思いつつも、テンジにはこれしか思いつかなかったのだ。

 わからなければ当の本人を召喚して聞けばいい、そう思ったテンジは心の中で「小鬼を召喚したい」と念じとあるページを呼び出した。



 ――――――――――――――――

『召喚可能な地獄獣』

【赤鬼種】

 ・小鬼(五等級)

 ――――――――――――――――



 今度は「小鬼」という文字が銀色に光り輝いていた。

 その文字にそっと指の腹を触れさせると、閻魔の書がカッと眩い光を放った。


「おん!」


 気が付けば小鬼がテンジの目の前に立っていた。

 姿形は変わっておらず、どこか嬉しそうな表情をしているようにテンジは見えていた。傍から見ればその小鬼の表情は無表情なのだが。


 そこでテンジはふと閻魔の書で見つけた新たなページへと本を捲っていく。



 ――――――――――――――――

【名 前】 (設定してください)

【種 族】 小鬼

【等 級】 五等級


【H P】 295

【M P】 212

【攻撃力】 300

【防御力】 234

【速 さ】 198

【知 力】 206

【幸 運】 277


【天 星】 岩石砕き

【付加値】 攻撃力25

 ――――――――――――――――



 閻魔の後ろのページには小鬼のステータスが載っていたのだ。それぞれの数値はテンジの10倍以上も高く、あの巨木を軽々と持ち上げたのも頷ける強さであった。

 その他にも『天星』という聞き慣れない言葉も載っており、これは追々検証することに決めている。

 あとは『付加値』の項目だ。小鬼を一体使役するだけで、テンジの攻撃力が25も上がっていたのだ。


 ふむふむと頷きながら、視線を本から小鬼へと移す。


「名前ないの?」


「おん!」


「小鬼くんじゃダメ?」


「おん!」


 どうやらその名前で良かったらしい。

 名づけが終わるとすぐに小鬼のステータスが変わり、名前の欄に小鬼くんという表示が追加された。

 そこでテンジは疑問を投げかけてみることにした。


「それで呼び出した理由なんだけどさ、地獄領域でモンスター倒した? なんか僕の経験値が勝手に増えてたんだけど」


「おんおん!」


「あっ、やっぱりそうなのね。わかったよ、ありがとう」


「おんおん!」


 傍から見れば小鬼はぽけーっとしているようにしか見えないのだが、テンジには「頭を撫でて褒めて!」と言われているのがわかるようで、徐に小鬼の頭を撫でていた。

 これだけ時間をかけて、テンジはようやく自分の天職について知ることができていた。


「なんだか小鬼くんがいればこのダンジョンも抜け出せそうな気がするよ」


 そう小鬼に語り掛けた、頭をわしゃわしゃと撫でまわしていた。


 ――その時だった。


 カツカツ、と人間特有の足音がテンジの耳に聞こえてきた。



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