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特級探索師への覚醒~蜥蜴の尻尾切りに遭った青年は、地獄の王と成り無双する~ 作者:笠鳴小雨

第1章 蜥蜴の尻尾が輝く日、鬼が藍月に微笑む

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第17話



 閻魔の書を一枚捲った。

 二ページ目はほとんどが白紙で、たった三行だけの文章が黒字で書かれていた。それ以外は全部が何もない白紙だ。

 テンジは書かれた文字を心の中で読み上げていく。



 ――――――――――――――――

【閻魔の書】

 これは地獄を治める十王、閻魔の書物を召喚するスキル。地獄獣を使役し、己の力とするための媒介。一度召喚すると、主が死ぬまで消えることはない。

 ――――――――――――――――



 案外あっさりと『閻魔の書』というスキルについて知ることができてしまった。

 それでもたったの三行しか書かれていないことに関して、何かの意図を感じる。左上詰めに閻魔の書の説明文が書かれていることから、このページにはまだまだ何かの説明文が増える可能性が考えられる。

 テンジはたったこれだけの情報から「スキル説明のページなのかな?」と、考察をしていた。


(それにしても地獄、十王、閻魔……まるでおとぎ話の世界だね。あんまり地獄の話には詳しくはないけど、天職の名前からしてもこれは地獄の獣を召喚する能力なのかな?)


 この文章だけで正解を導き出すのは少し難しかった。

 さらに獄獣召喚についての情報を得るためにも、テンジは次のページへと本を捲る。

 しかし、次のページもさらに次のページも白紙の状態であった。


 そこから白紙のページがさらに三ページも続いているようだ。閻魔の書の説明が書かれたページより八ページ目に、ようやく新たな情報が書かれたページを発見する。



 ――――――――――――――――

【魔鉱石変換】

 ポイント: 0

 ――――――――――――――――



(魔鉱石? ポイント? まるでゲームみたいな文言だ)


 左側のページ中央には「魔鉱石変換」と「ポイント:0」という文字だけが丸々一ページ使って書かれていた。

 右側のページには、三角形の線図形を三つ組み合わせた何かの陣のような図形が大きく描かれていた。線の色は緋色のように赤く、どこか不気味さすら感じる。


(魔鉱石交換ってことは……魔鉱石を何かに変換するってことだよね。でも、変換して何になるんだろうか……折角のお金がもったいない)


 魔鉱石は中堅以下の探索師にとって重要な資金源となるアイテムだ。それを何かに変換するというもったいないことに、テンジは思わず困ったような表情を浮かべていた。

 それでもテンジは徐にポケットに仕舞ってあった一つの魔鉱石を取り出した。


 赤と黄色が半々に混ざり合った小さな宝石、それはあの未知の蜘蛛型モンスターから生まれた魔鉱石である。

 その魔鉱石を手に持つと、わずかに熱を帯びていることに気が付いた。


「あれ? ほんのりと熱くなってる……さっきまではガラスのように冷たかったのに」


 魔鉱石が突然熱を帯びたことを不思議に思いながらも、魔鉱石を色々な角度から観察してみる。ライトで透かしてみたり、指で叩いてみたり、地面に落としてみたり。

 そこでテンジは魔鉱石が熱を帯びる法則について、解明した。


「なるほど……このページの三角陣に近づければ近づけるほどに熱くなるようだね」


 魔鉱石は閻魔の書の三角陣に近づければ近づけるほど、熱さが増すことを解明したのだ。何度か本に近づけ、離しを繰り返しているうちに気が付いた。

 テンジにとって、この現象は暗に閻魔の書が魔鉱石を欲しがっているように思えてならなかったのだ。


「ちょっともったいないけど……これは仕方ない出費だと考えよう」


 貧乏なテンジにとって、いわば魔鉱石は金の成る木なのだ。これほど等級の高い魔鉱石は売れば数か月分の食費にはなるし、妹の修学旅行代も解決できる。

 もちろん、テンジもここを無事に生きて出られたら魔鉱石を売って、妹に美味しいお肉を食べさせてあげたいと密かに考えていた。


 しかし、まずはここを脱出しなくてはならなくては意味がないのだ。

 テンジがここで死んでしまっては、例え魔鉱石を大事に持っていたとしてもまるで意味をなさない。

 これは仕方のない出費だと考え、魔鉱石を三角陣にそっと触れさせてみた。近づければ熱くなるのだから、触れさせるか、押し付ければいいと考えていたのだ。


 その瞬間だった。


「うわぁ!」


 三角陣の線が僅かに白く輝くと、魔鉱石をシュポンッと吸収したのだ。

 しっかりと掴んでいたはずの魔鉱石が、得体の知れない強力な力に引っ張られたことに驚くと同時に、テンジは思わず感動の声を漏らした。

 自分の推測が当たり、未知の力を手にした喜びからだ。


 そして、魔鉱石が吸収されると同時に「魔鉱石変換」の数字に変化があったのをテンジはその目で確認していた。



 ――――――――――――――――

【魔鉱石変換】

 ポイント: 55

 ――――――――――――――――



「0」だった数字が「55」に変化したのだ。


 まるで誰かが消しゴムで消して、ペンで書き換えたように数字が書き換わった。

 そのファンタジー感は、有名な魔法映画の書物と羽ペンの演出に似ており、その映画が小さな頃から大好きだったテンジにとっては、想像以上に興奮を掻き立てられる演出だった。

 それでもテンジは一度深呼吸をしてから、生き残るために真面目に天職について考え始める。


「55……半一等級のモンスターから取れる魔鉱石だと、おおよそこれくらいのポイントが貰えるってことかな? こういう時こそメモ帳が欲しいな。スマホもバッグの中だったから今は手元にないし、生憎ペンや紙もない……」


 手元にないスマホのメモ機能に思いを馳せるテンジであった。

 というのも、この「55」という数字はとても重要な気がしていたのだ。これは今後の天職を左右するような重要な要素だと直感で感じた。


 それでも次の情報を得るために、テンジは次のページへと捲ることに決めた。


「さて、次はどんな情報が出てくるかな? ……なんだか割と面白い天職だね。ゲームっぽいっていうか、アニメっぽいっていうのか」


 本来であれば、天職というのは時間を掛けて自分で能力や資質を判断して、使いこなしていくものなのだ。モンスターと戦い、自分のスキルを鍛錬し、ギルド内で研鑽して、ようやく自分の立ち位置を推し量る。

 しかし、この閻魔の書では次々と天職にまつわる情報が出てくるので、それがテンジにとっては面白かったのだ。ただちょっとずるをしているような気持ちを感じるテンジもいた。


 そうして、次のページへと本を捲っていく。



 ――――――――――――――――

【召喚可能な地獄獣】

 ――――――――――――――――



 ただそれだけが書かれていた。


「へ?」


 さすがに何の情報も得られないとは思ってもいなかったテンジは、思わず素っ頓狂な声を上げる。


 それでも一つだけわかったこともある。

「召喚可能な()()()」という文面から、召喚するのが地獄獣という何かだとわかり、そこから「地獄獣」という存在が確定されたわけだ。


「あっ、もしかして今はまだ何も召喚できないってこと? そ、そうだよね……まだ僕は天職を授かってから何もしてない。それにレベルも0だし……」


 そういえば自分はまだレベル0だったことを思い出し、仕方がないと割り切る。

 そもそも「レベル」という概念自体、探索師界隈では聞いたことのない要素であった。ゲームなどではしばしば存在するワードではあるのだが、それはあくまでゲームであって、探索師にはそのようなものは関係ないとされていたのだ。

 まあ、一部の酔狂な研究者たちはレベルの概念を提唱してはいたのだが、それはあまり相手にされていない。


 さらなる情報を得るために、次のページへと本を捲った。



 ――――――――――――――――

【地獄領域】

 赤鬼種: 0/2

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「赤鬼?」


 ここでようやく地獄獣についての情報を一つ得ることができた。

 どうやら今のテンジが召喚できる可能性が高いのは「赤鬼種」であり、あきらかに妖怪の一種である鬼を指すことがわかった。日本語では鬼、英語ではデーモンと呼ぶ種の存在のことである。

 ただそれだけしかわからなかった。残念なことにテンジは妖怪やおとぎ話の類に詳しい方ではなかったので、仕方ないと言えば仕方がない。


「鬼……か。地獄だから鬼、鬼だから地獄に関係した天職ってことだろうね。ちょっと物騒な天職っぽいな」


 これ以上の情報は見込めないと考え、次のページへと本を捲った。

 そこには今までとは違い、銀色に淡く輝く文字が載っていた。



 ――――――――――――――――

【実行可能な地獄クエスト】


 クエスト名:

 『赤鬼種との出会い』


 《達成条件その1》

  ・スクワット1000回

 《達成条件その2》

  ・シャドーボクシング2時間

 《領域達成条件その3》

  ・三時間生き延びる、又は、赤鬼を倒す

 《必要条件その4》

  ・膵臓


 《クリア報酬》

  ・五等級地獄獣「赤鬼」の解放

  ・五等級武器「赤鬼刀」

  ・五等級装備品「赤鬼リング」

 ――――――――――――――――



「……赤鬼種との出会い」


 テンジは自分でも驚くほどにその言葉を魅力的に感じていた。

 思わず「赤鬼種との出会い」と銀色に輝く文字を指でそっと触れる。


 その瞬間、閻魔の書が発光した。


 眩しいほどに白く光り輝き、テンジは反射的に両手で視界を遮った。

 閻魔の書は発光しながら、ぱらぱらとひとりでに本を何枚も捲り始め、どんどんと後ろのページへと進んでいく。


 ぴたり――と、とあるページでその現象が止まった。


「うおぉ!?」


 そして――。


 テンジは閻魔の書の中へと吸い込まれていった。



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