「盗用ではないか」と私が厳しく批判している大内裕和中京大教授は、奨学金問題対策全国会議共同代表といういかめしい肩書を使って積極的に「奨学金」問題に関する発言を公にしている。他人の著作物や調査結果からの盗用の類が問題であることはもちろんだが、大内氏の発言内容そのものにも疑問を覚える点がある。一例を紹介したい。
『法学セミナー』2019年4月号に掲載された「奨学金問題を考える」と題する大内氏の記事に、「機関保証」制度に関連するこんな記述がある。
〈保証機関は公益財団法人日本国際教育支援機構である。返済ができない場合は、この協会が利用者に代わって日本学生支援機構に返済してくれる。これを代位弁済という。代位弁済してもらった金額は日本国際教育支援協会に返済する義務が生じる。
それに加えて、延滞金は年5%から10%で日本学生支援機構の倍となる。また、分割払いから一括弁済へと変えられる。毎月の分割払いでも支払えない人が、一括請求を求められても払えるという可能性はほとんどないだろう。〉
(42頁最終行〜43頁9行目」
保証機関による代位弁済は、日本学生支援機構が教育支援協会に請求し、認められた場合に行われる。したがって、「代位弁済してもらった」のが利用者であるかのような記述にまずひっかかる。払ってもらったのは債権者の日本学生支援機構であって利用者ではない。そして、次にひっかかるのが「分割払いから一括弁済へと変えられる」という記述だ。まるで代位弁済によって「一括弁済へと変えられる」ように読める。これは不正確と言わざるを得ない。
筆者の理解はこうだ。
1 日本学生支援機構が、施行令5条5項を口実にして繰り上げ一括請求をする。期限は1ヵ月後。
2 債務者は払うことができない。
3 日本学生支援機構は、一括請求した全額にあらたに発生した延滞金を加えた金額を、保証機関である日本国際教育支援協会に対して弁済請求する。
4 支援協会が弁済を認めて代位弁済を実行、日本が区政支援機構の債権は完済される。
5 支援協会は利用者に対し、求償権に基づいて全額+延滞金などの一括返済を求める。その後分割払いの和解をすることもある。
機関保証が代位弁済することによって一括弁済を求められるわけではない。施行令5条5項をつかった日本学生支援機構の繰り上げ一括請求がすべてのはじまりなのだ。大内氏の記事は、この重要な点を完全に見過ごしている。あるいは見誤っている。
大内氏率いる奨学金問題対策全国会議は、昨年夏、筆者の再入会申し出を、一括請求について強い意見を主張することが予想され、活動に支障が生じるなどといった、とても理解しがたい理由によって拒絶した。筆者はこの会が設立された当初のメンバーで、絶えず「一括請求問題」の重要性と研究の必要性を訴えてきた。しかし、大内氏をはじめ幹部メンバーの誰一人としてまじめに向き合おうとしなかった。大内氏は私の問題提起から6年を経てもなお、一括請求がどういうものか理解できていないことがわかった。自由な議論や批判を避けることが進歩の妨げにつながるという好例である。