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ロックダウンに頼らない新型コロナウイルス対策:第2波に対処する英国が“妥協策”に落ち着いた理由

新型コロナウイルスの第2波が欧州を襲うなか、英国が飲食店の営業時間の短縮や小売店従業員へのマスク着用義務化といった対策を打ち出した。感染者数が増加するなかでも再度のロックダウンを選ばなかった最大の理由は、社会生活へのさらなるダメージを防ぐことにある。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生国となった中国では、2020年1月の段階で29の地域で感染が起きていた。感染者数はそれらの地域すべてで毎日数百人ずつ増え続け、医療物資はいまにも底を突きそうだった。

こうした状況に対して、中国政府は迅速かつ強硬な策を打った。全国の都市や地域で程度の差をつけながらも厳しいロックダウンが実施され、結果的に約7億6,000万人が行動を制限されることになったのだ。さらに、症例の急増が見られた地域があれば、そこは必ず封鎖された。

そしていま、中国は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を“対岸”から眺める立場となった。感染者数85,307名、死亡者数4,634名という試練を経て、この国が毎日発表する感染症例の数はごくわずかになっている。

いまや治療中の新型コロナウイルス感染症の患者総数は、9月23日の時点で402名に減少した。一方、壊滅的な脅威をはらむ感染の第2波が猛烈な勢いで押し寄せている英国では、同じ日に6,178件の新たな発症が報告されている。

国の事情に適した対策が鍵

公衆衛生学を専門とするイェール大学准教授のシー・チェン(陳希)は、20年5月に発表した研究論文のなかで、中国がいかに素早く断固とした対策を講じたかについて解説している。最初の感染爆発が起きた時点で「患者の隔離、都市封鎖、各地域での公衆衛生対策」を実施した結果、チェンらの研究チームが当初は感染者140万人、死亡者56,000人と予想した被害を回避できたというのだ。

しかしチェンは、すべての国がこのやり方にならうべきであるとは考えていない。

「各国がそれぞれの事情に合わせて、多様な対策を講じるべきです。感染を抑止する方法は、ほかにもたくさんありますから」と、彼は言う。「決断を下すには、その国の文化や社会規範を考慮し、そのやり方が国民に受け入れられるかどうかも考えるべきです。また、これは非常に重要なことですが、対策を全国に拡大できるほど医療基盤が整っているかどうかも考慮しなければなりません」

英国の半分にすぎない10万床という集中治療室(ICU)のベッド数しかない中国にとっては、厳格なロックダウン政策が必須だったのだと、チェンは指摘する。

地域による文化の違いも?

文化の違いも大きい。中国が号令一下で国民に制限を課すことが可能な専制的国家であることは脇に置いておくとして、制約を受けることに強い抵抗を示す文化が存在することはまぎれもない事実だ。

チェンは最近のある研究を引用する。米国最西部の州に住む人々は、東海岸側の住民たちと比べて個人主義的な傾向が強く、規制に従いたがらない人が多いというのだ。英国の人々を「自由を愛する」性分なのだと評した英首相のボリス・ジョンソンの言い方はいささか言葉足らずだったが、そうした気質も現在の状況に何らかのかたちで影響しているかもしれないと思わせる発言ではあった。

ジョンソン首相は、ドイツやイタリアなどの国々と比べて新型コロナウイルスの第2波をうまく制御できていないことの釈明を試みようとして、このような発言に至った。それと同時に彼は、ウイルスの拡散を食い止めるための新たな一連の対策を発表している。

具体的には、パブやレストランに対して午後10時までに閉店するよう要請し、小売店の従業員はマスクの着用が義務づけられた。COVID-19安全規制の違反に対する罰金額は引き上げられ、可能な範囲で在宅勤務を奨励するなどの措置が新たに定められたのである。

英国が“妥協策”に落ち着いた理由

新たな決まりごとのなかには、人々を当惑させるものもあった。例えば、なぜパブは全面休業ではなく午後10時までの閉店を義務づけられたのか。また、世帯間での感染が発症数増加の一因と見られているのに、6人以内であれば異なる世帯の人々が屋内外で集まることを認める「6人ルール」は、なぜそのまま残されているのか。

その答えはこうだ。いまの段階で決定していることは、いずれも弱り切った経済と疲弊した国民をこれ以上ムチ打つことのないように、「すべきこと」と「できること」の間で見つけた妥協策なのだ。

「全面的なロックダウンを実施すれば、うまくいくことはわかっています。問題は、自分たちがどの程度の制限を必要としているかという点なのです」と、疫学を専門とするノッティンガム大学名誉教授のキース・ニールは言う。感染者数が増加に転じるたびに全面的な都市封鎖を繰り返していると、別の犠牲を払わなければならなくなると彼は指摘する。

例えば、医療検査やさまざまな手続きが滞ることによって人々の健康が損なわれ、精神的な落ち込みを抱える人が増えることになるという。ルールを守ろうとする気持ちも薄れていくと考えられる。

ルールを設けることの重要性

やりすぎがよくないというのは、このためだ。パブやバーを閉鎖すれば、人々は自分たちの家に集まるようになるかもしれない。そうなれば、さらに国民の行動を把握しづらくなるだろう。それより全国のパブに、きちんとガイドラインに従ってもらうことに力を注ぐべきだとニールは指摘する。

「客に必ず着席してもらう、ソーシャル・ディスタンスを守るといったルールをパブ側が守ってくれれば、何も問題はありません」と、ニールは言う。「ルールに従わないパブがあれば、最初は1日の休業を命じ、違反が繰り返された場合には1週間、1カ月、1年と延ばしていけばいいのです」

英国医師会の評議会副議長を務めるデイヴィッド・リグリーによると、午後10時という閉店時間には「何の根拠もない」し、6人ルールは「再考を要する」ものだという。だが最新のガイドラインは、少なくともマスク着用などのことがらについて明確な方針を示している。

「ルールを厳守することがいちばん重要ですが、そのルールは明快であるべきだったのです」と、リグリーは言う。英政府のたび重なる方針変更は混乱を招くとして、しばしば批判を浴びてきた。なかでも「ステイ・アラート」のスローガンに対しては、あまりに漠然としすぎているとの非難が集中している。

細分化された“ロックダウン”の提案

だが、ルールを明確化して細かく手直しするだけで、再び感染者数を抑えることができるのだろうか。政府のやり方は、今度もまた「少なすぎるし遅すぎる」と論じる専門家は多い。

一方でイェール大学のチェンは、中国式にロックダウンを繰り返すことで活路を見出せるとは考えていない。常套的な対策として実行するには負担が大きすぎるからだ。

最近の研究のなかでチェンは、早いうちに感染の芽を摘み取る新しい方法を提示している。国内各地を地方・都市・町・個々の近隣地区にまで落とし込んで分類し、その場所の感染拡大の程度や、国民の一般的な活動拠点としてどの程度中心的な役割を果たしているかによって、程度に差をつけて規制する方法だ。

「全面的なロックダウンが最善の選択だとは思いません」と、チェンは言う。


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ファンタジー要素に富んだ「Spellbreak」は、代わり映えしないポストアポカリプス(終末後の世界)風の戦場に飽きたバトルロイヤルゲーム愛好者たちもお気に召したようだ。 PHOTOGRAPH BY PROLETARIAT

新たなバトルロイヤル「Spellbreak」は、魔術を身につける高揚感に満ちている:ゲームレヴュー

人気のジャンルであるバトルロイヤルゲームに、また新たな注目タイトルが登場した。剣と魔法の力で敵と戦うファンタジーゲーム「Spellbreak(スペルブレイク)」は、銃で撃ち合うゲームで溢れるなか、魔術を身につける高揚感に満ちている──。『WIRED』US版によるレヴュー。

Culture

人気の新作バトルロイヤルゲームは、どれも最初の数日間は極上の喜びをもたらしてくれる。「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS(プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ、PUBG)」「フォートナイト」「Apex Legends」「コール オブ デューティー ウォーゾーン」といったタイトルが矢継ぎ早にリリースされた結果、いまでは誰もがこの種のゲームの基本ルールを熟知している。こうしたジャンルの熱烈なファンたちは、ほとんど不便を感じることなく次から次へとゲームを渡り歩くことができる。

徐々に狭まっていくマップ上を見知らぬプレイヤーたちと歩き回りながら、ひとりで、あるいは仲間と共に死力を尽くして最後の勝者となるまで戦う。それぞれのゲームに登場する新たな技を使いこなせるようになったとき、喜びは頂点に達するのだ。

ほとんどのバトルロイヤルゲームは、新たなマップの上を歩き、特殊な能力やさまざまな武器を獲得することによって、そうした喜びを感じるようにできている。それがお約束だ。

これに対して、バトルロイヤルゲームの最新作「Spellbreak(スペルブレイク)」は、より楽しげな方向へと進路を変えている。ほこりまみれで軍国調の表現が満載のジャンルに属しているにもかかわらず、Spellbreakは剣と魔法の力で敵と戦う一風変わったファンタジーゲームなのだ。

色彩豊かで、人を病みつきにさせる面白さ。そのうえ無料でプレイでき、PC、Xbox、PlayStation 4、Switchのいずれからも参加可能なクロスプレイ型のゲームだ。

人をとことん夢中にさせる戦い

Spellbreakは、銃で撃ち合う代わりに魔術を身につけることで高揚感を味わうゲームで、2020年9月3日に発表された。それぞれに氷、火、毒、石、雷、風にまつわる呪文を使えるガントレットのなかから、最初のひとつを選びとって腕に装着する。その後、プレイヤーは崩れ落ちた城や廃墟と化した寺院などを探索しながら、さらに強い魔力を手に入れていく。

呪文をうまく組み合わせて第2のガントレットを得ることもできる。ルーンの力を借りて空を飛んだり、高速で移動したり、姿を消したりすることも可能だ。傷を癒すための薬や防具、才能を開花させる巻物(スクロール)などのアイテムも、もちろん用意されている。使える魔法などすべての能力が次第に向上していくスタイルは、従来型のバトルロイヤルゲームと同じだ。

ほかより遅れてこのジャンルに登場したことから、Spellbreakにはゲーマーたちの期待に応える機能が追加されている。チームメイトを復活させたり、宝箱のありかを知らせる音が出たりと、ゲームをより深く楽しむための改良がなされているのだ。ひとりでプレイするソロモードのほか、ふたり(デュオモード)あるいは3人(スクアッドモード)でチームを組んでプレイすることもできる。

Spellbreakで繰り広げられる戦いは、人をとことん夢中にさせる。この数年間、さまざまな「ポストアポカリプス(終末後)」もののゲームで1丁の銃を探し回る旅を強いられてきたプレイヤーたちにとって、長距離射程のファイアボールや巨大な岩石を繰り出して敵を撃破する戦法は、驚くほど斬新なものに感じられるのだ。

例えば、一方の腕に装着したガントレットで「毒雲」を噴射し、もう片方のガントレットでそれに火をつけることができる。稲妻を詰め込んだ「死のチューブ」をつくって待ち構え、仲間の投げつけたファイアボールで敵をそのなかに追い込むというチームプレイも可能だ。

先日プレイした際には、透明になって戦いに臨み、仲間が呪文で起こした火柱に向かって竜巻を送った。すると敵はたちまち激しい旋風にのみ込まれ、苦痛にあえぎながら消えていった。

キャラクターはみな空を飛べるので、戦闘は地上から空中へとダイナミックに場を移しながら展開する。プレイヤーは絶えず動き続け、生き残りをかけた戦略と随所でとるクールダウン時間とのバランスを図り続ける。

新鮮な工夫の数々

ファンタジー要素の濃いSpellbreakだが、そのなかでも新鮮な工夫が凝らされている。火炎はただ猛烈な音を立ててやみくもに放たれるわけではない。「パイロマンサー(炎を操るもの)」と名づけられたガントレットだけに許されたエリアコントロール戦略に基づいて放射されるのだ。

風のガントレットは敵を吹き飛ばすのではなく、こちらに引き寄せて攻撃する。誰もがコミック『X-メン』シリーズのヒロイン「ストーム」や、テレビアニメ「アバター 伝説の少年アン」の主人公になった気分を味わえる。

Spellbreakはキャラクターの顔まわりの画像を多用しすぎていないので、プレイヤーはメタ視点で戦闘に集中できる。いまから2秒後に敵はどこにいるのか、稲妻を放ってあの塔にいる敵を倒すことはできるのか。「レジェンダリー・フライトルーン」で空を飛べば、敵方の氷原に侵入できるのか──。

空中戦で巨大な岩石を真正面から敵の顔面に投げつければ、従来のゲームと同じように大きな満足感を得られるし、正確に狙いを定める技量が重要であることに変わりはない。人気TwitchストリーマーのDrLupoは先ごろ、マップ上のはるか遠くに潜む敵を狙って稲妻を放ち、見事に命中させた。Spellbreakは、習熟度の異なるどんな人でもプレイできるようつくられている。

eスポーツで盛り上がるか

Spellbreakはあらゆる点で、初めてプレイする人に障壁を感じさせない工夫がされている。ほかの多くのバトルロイヤルゲームとは違い、ゲーム機やPCでプレイする仲間たちといますぐ戦闘に加わることができる。クロスプレイが可能になるまで何カ月も、あるいは何年も待たされることなどない。

しかし、この勢いは今後も続くのだろうか。Spellbreakに、eスポーツ商品として勝負できるほどの洗練と安定感はない。主要キャラクターたちのコスチュームは、「フォートナイト」やほかの同種のゲームに比べ、派手さに欠けるしキュートでもない。だから、わざわざゲーム内通貨に投資してまでプレイする気にはなれないのだ。

Spellbreakの開発会社であるProletariatは、過去にこれといったヒット作を生んでいない。このため現在開発中の作品について語ろうにも、根拠となる実績がほとんどないのだ。

総括すると、細かいことを気にするのはやめよう。おそらく数カ月のうちにまた別のバトルロイヤルゲームが登場するだろう。面白ければみんな大急ぎで飛びつくに違いない。

だがいまは、地球上の誰もがひとりの時間をもて余している。魔法使いになって仲間とゲームを楽しむことに、その時間を費やすのも悪くないはずだ。

※『WIRED』によるゲームのレヴュー記事はこちら


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