確かに、お母さんは声だけで「あんた具合悪いん?」って聞いてくる。
ついにトランプ大統領も感染した新型コロナウイルス。感染者数が世界的に急増した春以降、検査薬やワクチンを開発するためさまざまな研究がすすめられています。
まずは敵を知ること、そして感染後の体の変化を調査するため、感染者(および回復者)の言葉や情報というのは非常に重要です。そんな中、イスラエルの国防省が支援するスタートアップVocalis Healthでは、感染者に「声」の提供を呼び掛けているとNatureが報じています。
肺疾患の可能性を診断するアプリをコロナに応用?
イスラエルとアメリカを拠点とするVocalis Healthはこれまでにも、発話時の息切れの有無などにより、慢性閉塞肺疾患の再発を診断するスマホアプリを構築してきました。これを、新型コロナウイルスの診断にも応用できないかと、現在研究がすすめられています。
具体的には、新型コロナで陽性と診断された感染者にVocalisリサーチ用アプリをダウンロードしてもらい、1日に1度スマホに50秒から70秒声を吹き込んでもらいます。感染者および非感染者の音声を機械学習システムで処理することで、声紋で感染を特定できるアルゴリズムの開発を目指しています。
Vocalis Healthの代表兼最高経営責任者のタル・ウェンデロウ氏は「これは身体を傷つけるものではなく、薬でもなく、何も変えません。話すだけでいいのです」と話しています。
Natureによると、Vocalis Health以外にも複数の企業が同様のプロジェクトをすすめていますが、声による分析は病気の確定診断をするものではなく、あくまで医師が検査や対面医療を必要とする人を特定するための使用(予備検査的)が目的だそう。
声診断はパーキンソン病やアルツハイマーなどの発見にも有効
指紋同様に多くの情報を含む「声」を使った臨床診断研究は、コロナ以外の病気でもすすめられています。声診断の草創期から注目されてきたのが、パーキンソン病です。この病気は筋肉のこわばりや震えといった運動症状を引き起こし、発声にも大きな影響を与えるため、声による診断や重症度判断が有効だと考えられています。
Natureの記事では他にも、アルツハイマー型認知症やうつ病の声診断研究が紹介されています。アルツハイマー患者は短い単語や断片的な文章を用い、固有名詞を思い出せずに「あれ」や「それ」といった単語を使うなどの特徴があり、トロント大学のコンピュータ科学者であるフランク・ルジッチ氏は「82%の精度で診断できる(のちに92%に改善)」と話しています。また、シドニーにあるニューサウスウェールズ大学で音声信号処理を研究するジュリアン・エップス氏は、「性能の高いマイクを使えば、約94%の精度でうつ病を検出できる」と発表しています。
将来、Siriやアレクサによる風邪診断が一般化するかも?
音声と感情認識のスペシャリストであり、新型コロナウイルス研究を率いるドイツのビョルン・シュラー氏は「将来的にはロボットやSiriやアレクサが、“風邪ひいてますね?”と教えてくれるようになるでしょう」と話しています。
とはいえ、音声分析はまだ新しい分野であり、正確な診断を実現するためには大量のデータを収集しなければならず、誤診断やプライバシーの侵害など、解消すべき課題がいくつもあります。
病気の声診断というと、22世紀のひみつ道具みたいな感じがしますが、ビッグデータを用いた大規模かつ綿密な統計、と考えると、可能な気もします。病院に行った方がいいのか、と悩んだときにSiriやアレクサが「昨年と同じ、花粉症だね!」とか言ってくれたらすごい安心します…。世界中の研究者の方々、どうかよろしくお願いします!
Source: Nature