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 地球上の生き物たちの命の広がりを守るため、国際社会が10年前に定めた「愛知目標」について、先ごろ国連が「完全に達成された項目はない」とする報告書をまとめた。

 生態系や自然環境を保全する取り組みの、いわば通知表だ。「落第」という厳しい評価に、各国は危機感をもって具体的な行動を起こすとともに、次の目標づくりに臨まねばならない。

 社会や経済は自然の恵みのうえに成り立っており、生物多様性が失われたときの被害は深刻だ。農作物や水産物が減って、日々のくらしが打撃を受けるだけではない。森や海の生態系が崩れれば大気や気候の乱れを招き、地球環境はさらなる危機に瀕(ひん)することになる。

 災厄を避けるには、今世紀半ばまでに自然との共生を実現しないといけない。そんな共通認識にもとづいて、2010年に名古屋市で開かれた生物多様性条約の締約国会議で採択されたのが愛知目標だ。「森林を含む自然生息地の損失速度を少なくとも半減させる」「環境汚染を有害でない水準にまで抑える」など20項目が掲げられた。

 目標の最終年を迎え、進捗(しんちょく)状況を条約事務局が分析したのが今回の報告書だ。20の項目はそれぞれ複数の要素からなっているが、すべての要素を達成できたものはなく、一部に限って実現、または実現見込みのものも6項目にとどまった。

 「野生動物の個体数は1970年以降、3分の2以上も減った」「過剰に漁獲されている海洋漁業資源は3分の1に達している」――。報告書の記述を見ると、自然を再生・回復できるのか不安がふくらむ。

 来年の締約国会議で次の目標を決めることになっており、報告書は「明確で定量的なゴールを設定するべきだ」と述べる。各国の利害や思惑が絡み、こうした問題で数値目標を打ち出すのは常に難しい。だが、めざすものがわかりやすい形で示されなければ、機運は高まらず事態が進展しないのも事実だ。国際社会はこの10年の反省に立ち、合意形成に努めてほしい。

 全体目標を踏まえて締約国が定める「国別目標」についても、報告書は不十分さを指摘している。日米欧などの先進国は意欲的な目標を設定し、世界をリードする必要がある。

 生物多様性の維持は、地球温暖化の抑制や海洋プラごみ汚染の防止など、直面する様々な環境問題とも密接にかかわる。それぞれに個別に取り組むのではなく、官民で協力・連携しながら環境保全の実をあげていくことが求められる。

 未来に地球を引き継ぐ。それがいまを生きる世代の責務だ。

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