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蒼穹の軌跡 作者:ヴォルフガング・ルーデル
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原子力空母瑞鶴の戦い

近未来、日本を属国化しようとする陰謀に立ち向かうために、超大型航空護衛艦「瑞鶴」が出航する。

プロローグ

西暦20XX年6月20日海上自衛隊舞鶴基地。見上げるばかりの巨艦に架けられた乗艦用タラップの下で、俺は副官であり妻でもある藤原雪乃と2人で途方に暮れていた。「乗艦手続きしないとフネに乗れないんじゃないの?」「うん」「じゃあ行きましょう」「どこへ?」「フネの中」「勝手に乗っていいのか?」「ダメに決まってるじゃん、だから担当者に連絡して下さいよ」「ダメだ」「なんで?」「ジャミングかかってて電波がダメだ」どういうわけか知らんが、俺のスマートフォンも雪乃のiPhoneも全く電波が入らなくなってしまったのだ。初めて配属される護衛艦に乗艦するには許可が必要だが、担当幹部に連絡が取れなくなってしまったのだ。近くにある公衆電話で基地隊司令部に連絡すると、当該艦ではECM訓練とかでジャミングをかけていると言われ、電話を切られてしまった。意を決したのか雪乃は「行きましょう!」と元気よく言いながら俺の手を取り、タラップを登ろうと歩き出した。「待てよ、勝手に入ると後で面倒臭いことになるぞ」「状況が状況だから仕方ないでしょ、行くわよ」全く決断の早い嫁だこと。まぁ戦闘機搭乗員として決断の早いことは大切な資質ではあるのだが、この場合は話が別だと思うのだが。俺は航空自衛隊空将補であり、このフネ海上自衛隊超大型航空護衛艦「瑞鶴」を基幹とする第2航空護衛艦隊の司令官を命ぜられ、今朝舞鶴にやってきたのだ。妻の雪乃は司令部付副官で、第113電子攻撃飛行隊のパイロットだ。

できれば乗機であるEA18GJ改で乗り込みたかったのだが、司令部要員は出航前に乗り込めと統幕からの指示があったため、陸路で母基地の各務原からやってきたのだ。雪乃に引きずられながらタラップを登っていると「ようこそ瑞鶴へ!お待ちしておりました、司令官」と脳天気な声が頭上から降ってきた。見上げるとそこには白の夏用制服ではなく、ネイビーブルーの暑苦しい艦内作業服を着た(暑苦しいのはグリーンのフライトスーツを着用した俺達も同じだが)防大同期で1等海佐の新美大吾が笑っていた。「電波が通じなくて困ったろワッハッハー」「てめぇ、笑ってる場合か貴様!おかげでいい迷惑だったんだぞ」「まあそう言うなって、艦長が出航前にどうしてもECM訓練やるって聞かないもんでよ」艦長というのは、やはり俺達と同じクラスの男で同期の中ではトップで防大を卒業し、当初は俺と同じ戦闘機搭乗員だったのだが、1佐昇進と同時に何故か海自に移動した夏樹涼介のことだ。「夏樹の仕業か。ったく天才は何を考えてるんだかさっぱりわからん、変人艦長だな。」「変人で悪かったな、フッフ」悪口を言うとどっからともなく現れるご本人の登場だ。「よりによって出航前の慌ただしい時にそんなことやるか、普通?」「すまんな、見ての通りの巨艦だから、人員の配置が遅れに遅れた影響だ。人手不足は色んな悪影響を及ぼすよ。」しれっとして言う姿に腹が立つが、こいつの言うことももっともではある。自衛隊の隊員充足率の悪さは、このところ慢性化しているのだから。「とりあえず申告しておく。空将補 速水翔、3等空佐 藤原雪乃、命により海上自衛隊超大型航空護衛艦瑞鶴に只今着任した。乗艦許可願う。」「遠路ご苦労様です、乗艦を許可します。」こうして、ようやく艦内に入れることになった俺と雪乃は、夏樹と新美の後から、アイランド上階にある航海艦橋へと入ったのだ。「司令官臨場!」新美が大声で艦橋内の要員に俺と雪乃の乗艦を知らせると、その場で皆が敬礼してくれた。答礼。「2航艦司令官を拝命した速水だ、こちらは副官の藤原3等空佐。よろしく頼む。」艦長である夏樹が「司令官は元飛行教導隊で特別飛行班を率いていた航空戦闘のエキスパートだ。因みに俺の同期でもある。副官の藤原3佐は司令官の細君でもあるが、混乱を防ぐため旧姓を名乗っておられる。このフネにも夫婦で乗組んでいる隊員が何組もいるから、よろしく面倒を見て差し上げてくれ。」船務長と書いたライフジャケットを着た30代前半の隊員が「船務長の伊藤3佐です。艦内のことは私がご説明しますので、なんなりとお聞き下さい。なんせめちゃくちゃ広い艦ですから、艦内マップをお渡しします。」「新美さん、地図がいるほど広いのか?」と聞くと「なんなら地図を持たずにトイレにでも行ってくればいい。帰って来れんぞ。」と笑う。なるほど、言われてみればそうかもしれない。なんせこの艦は合衆国海軍が、ジェラルドRフォード級の7番艦として建造した超大型原子力空母なのだから。「地図見たって迷路にしか見えんな。こいつは覚えるのに時間がかかりそうだ」と言うと「さっさと覚えて地図なんぞ捨ててしまえ。司令官が地図片手に迷子になるなんてシャレにならん。今日中に覚えろ、士気にかかわる。」夏樹がにべもなく吐き捨てるが、よく見るとその横顔は微笑んでいる。痛烈な毒舌家で、究極の理論派。誰と話す時も敬称を付けて、決して声を荒らげることの無い冷静沈着な男が夏樹だった。だが、ともすれば誤解を招く性格の夏樹だったが、不思議と俺とはウマが合った。間にいつも新美が入っていたのが良かったせいもあるだろうが、いつしか俺達3人は三羽烏等と言われていた。もっとも夏樹に言わせると「ただの三馬鹿トリオにしか思えん、みっともないからやめてほしいぜ。」等とぬかしてはいたけど。

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