菅政権下の日中 強権批判と経済 両立を

2020年10月6日 07時48分
 菅義偉首相が就任後初めて、中国の習近平国家主席と電話会談した。菅首相には、経済分野で影響力を増す中国との関係安定と、法治を守れと習氏に直言できる信頼関係構築の両面が求められる。
 菅首相は「日中関係の安定は二国間だけでなく、地域や国際社会のために極めて大事で、共に責任を果たしたい」と述べ、習氏は「日本との関係を引き続き発展させていきたい」と応じた。
 両首脳が、日中関係の改善基調を本物にする意識を共有できたことは歓迎できる。二〇一二年に尖閣問題で険悪化した関係は正常な軌道に乗りつつある。これを後戻りさせてはならない。
 習氏は「新時代にあった中日関係を推し進めるべきだ」とも述べ、日本重視の姿勢を示した。だが、この裏には米中対立激化を受け、日本を引きつけたいとの思惑があることを見逃してはならない。
 米中対立があらわになった九月下旬の国連総会でのビデオ演説で、菅首相は国際協調の重要性を強調した。日本が米中の仲介者の役割を果たすことができれば国際社会で存在感を高めることができるが、難問も立ちはだかる。
 日本が米国に追従するだけなら中国との溝が深まる恐れがある。一方、南シナ海での実効支配拡大や香港の民主化抑圧、少数民族の人権弾圧など強権的なふるまいが目立つ中国には、法治を守れと強く言い続ける必要がある。
 安倍晋三政権の時代、日中関係は改善したが、首脳同士の信頼関係を築けたとまではいえない。
 習氏は「歴史など重大で敏感な問題を適切に処理するよう」求めた。菅首相には、これまで先送りしてきた歴史、領土問題などの懸案についても、率直にトップ同士が意見交換できるような関係を構築してほしい。
 新型コロナウイルスの感染拡大で傷ついた日本経済の立て直しには最大の貿易相手国で、観光などでも結びつきの深い中国との安定的な関係が極めて重要である。
 電話会談では、コロナ禍により延期された習氏の国賓訪日への言及はなかった。香港抑圧など強権的な手法に反発し、自民党などから反対も出ている。
 国賓訪日を関係改善のシンボルのように考え、その実現に前のめりになる必要はない。日中両国民が歓迎できる雰囲気を醸成するような実務的な外交努力が必要である。十月にも予定される日中外相会談がその一歩になろう。

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