(4)円安の進行でも海外から工場は戻らず。中国などアジアの企業による日本企業買収が始まる。

 安倍政権が景気対策として打ち出すだろう大胆な金融緩和の継続、公共事業の増発は更なる円安を加速させる可能性がある。しかし、日本の大企業が海外に移転した工場を日本に戻すことはない。むしろ、円安の弊害が更に顕在化してくることになる。大企業が進めてきた海外M&Aは減少し、成長著しい新興国で稼ぐ力を失っていく。中小企業の経営は更に打撃を受けることになる。原油安は中小企業の経営に一息つかせるメリットがあるものだが、安倍政権は「デフレ対策」と称してメリットを消してしまう。

 注目すべきは、日本企業をアジアの起業家が買収する動きが始まるかどうかだ。中国やASEAN諸国には、欧米で経営を学んだ若手起業家が存在する。彼らは日本の中小企業の技術力に関心を持っており、円安が進めば買収を検討し始めるだろう。アジアの経営者と日本の技術力の組み合わせは、新たなビジネスモデルの1つとなり得る。

(5)安倍首相とリベラル陣営、双方からの圧力により、自由に発言できない空気が日本社会に広がっていく。それは日本の衰退の始まりである。

 安倍首相が提唱する「美しい国、日本」とは、「正直、勤勉、誠実、信義・約束を守る、親切、清潔、礼儀正しさという『美徳』を持ち、『愛国心』『公共の精神』『規範意識』『道徳』に基づいて行動し、『文化』『伝統』『自然』『歴史』を大切にする『美しい人』によって成り立つ国」と理解できる。首相は、衆院選で「全ての信任を得た」と強弁しており、「美しい国」に基づいて国民の生活、思想を統制し始めるだろう。

 一方で、安倍首相による統制の強化は、リベラル陣営の強硬な反発を生み、活動を活発化させるだろう。だが、リベラル陣営は日本人が本来持つ「多様性」を重視するわけではない。むしろ、リベラル陣営こそ、言論統制の本家本元的な側面を持っている。例えば、日本の大学から戦争、武器、安全保障、戦史、地政学、戦時国際法などの研究を追放しようという署名運動をやっているリベラル陣営の学者がいる。1万人の署名を集めると息巻いているらしい。このような動きは、ある意味保守陣営の統制よりも性質が悪いものとなるだろう。保守の統制は下品なだけだが、リベラルは一見教養があるように見える上に、大学教授という権威を身に纏っているからだ。

 要するに、保守だけではなく、リベラル両陣営からも言論を統制する動きが起こり、日本社会全体に自由に発言できない空気が広がっていく懸念がある。

 昨年も同じことを述べたが、日本人はJ-POP、アニメ、オタク文化など「クールジャパン」と世界から評価される現代文化や、日本が世界に誇る「ものづくり」など、「美徳」「規範」とされるものを、型にはまらない自由な発想から破壊するエネルギーで新たなものを創造してきた。日本が興隆したのは、このような庶民による多様な文化が花開いた時代である。

 一方、言論・思想の統制が強い時は、日本の衰退の時代だった。安倍首相が「美しい国」に合う「礼儀正しさ」「規範」「道徳」を国民に求め、リベラル陣営が学問の場に圧力をかけて、言論・学問の自由に制限を加えようとするならば、それは国家衰退の始まりとなるだろう。