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 新しい市場は、電力自由化の目的に沿う設計になっていたのだろうか。

 政府が作った「容量市場」の初回結果が先月、発表された。

 自由化による競争で電気料金が下がると、発電事業者が設備に回す資金を得られなくなるかもしれない。大規模停電につながるような電力不足を避けるため、必要な発電設備の維持更新費用を全小売事業者が負担するため、市場が設けられた。

 再生可能エネルギーの拡大に資するとの期待もある。気候などで発電量が左右されがちな太陽光や風力発電を増やすには、その変動に応じて調整できるよう、他の電源に余力を持たせる必要があるからだ。

 今回、問題になったのは落札価格だった。事前に示された指標の1・5倍という上限とほぼ同額で、米国の先行例の3倍以上という「異例」の水準。発電側へ2024年度に支払われる額は計1・6兆円に及ぶ。

 容量市場は、多くの発電設備を持つ大手電力ほど、多額の収入を得られるしくみだ。新規参入者は自社で設備を持たないところも多く、現在のシェアで概算すると全体で2千億円規模の支払いになるともされる。「経営が成り立たなくなる」との悲鳴も上がる。

 そのような事態になった原因は、競争環境の激変を和らげるために採用した経過措置が大きいとの見方が有力だ。

 短期的には負担が増える可能性がある小売り側に配慮し、コスト回収が進んでいる古い設備に支払う額を減額。同時に、減額で発電側が必要な費用を賄えなくなることがないよう、その分を入札価格に上乗せできることにした。上乗せが認められた古い設備の価格が、全体の落札価格を上限へと押し上げた。

 ピーク時の需要想定を元にした目標調達量が多すぎたのではないかなど、価格上昇の要因として考えられることは、ほかにもある。

 小売り側としては、新たなコストが発生すれば、値上げせざるを得ない可能性が高い。事業撤退を余儀なくされる新規参入者も現れるかもしれない。いずれにせよ、競争を促して電気料金を引き下げようとした自由化に逆行する。

 経済産業省などは、入札時に問題行為は認められなかったとしつつ、見直しが必要ないか検証する考えを示している。現時点で課題が明らかならば、直ちに改善すべきだ。大切なのは、新規参入者への配慮だろう。

 一方で、容量市場での価格が安くなりすぎれば、必要な電源量を確保できなくなるおそれも出てくる。バランスを考えた柔軟な対処が求められる。

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