マダコの好漁場で知られる兵庫県明石市沖で、根掛かりするなどして釣り人が海底に残したタコ釣り用漁具「エギ(疑似餌)」が漁師を悩ませている。タコつぼを漁船のローラーで引き揚げる際、絡まったエギの針が漁師の手や脚を直撃し負傷するトラブルが頻発。今夏回収を試みたところ、2カ月半で実に約1万6千個が揚がった。同市漁業組合連合会は釣り人に注意を促すとともに、釣り針の改良を業者に求めるなど対策に乗り出した。(長沢伸一)
「引っ掛かっとうぞ」。明石市の東二見漁協の漁師西尾俊哉さん(62)は最近、タコ漁の最中に仲間に大声で注意を促す機会が増えた。原因はタコつぼに絡まったエギだ。
エギは小魚やエビをかたどったプラスチック製の疑似餌に、針を取り付けた漁具。釣り人が海に投げ入れ、岩陰に潜むタコを釣る。
タコつぼ漁では長いロープに等間隔で取り付けたつぼを海底に沈め、大型ローラーで船上まで高速で一気に引き揚げる。これにエギが絡みつくと、ローラーに振り回されたエギの針が「凶器」と化す。
西尾さんによると、4年ほど前から目に見えて増え始め、針が漁師の指や脚に刺さるけがが続発している。エギを見つけると、西尾さんはローラーの回転を落としているが「タコつぼ漁はスピードが命。遅くするとタコに逃げられてしまう」と頭を抱える。
タコつぼ漁だけでなく、底引き網漁の船からも苦情は出ている。エギが引っ掛かると海底で網が広がらず、漁に支障が出るためだ。明石市漁連が操業中に揚がったエギを漁師から回収したところ、6月中旬~8月末で約1万6千個に上った。岩場などに根掛かりし、放置されたエギで好漁場が埋め尽くされていた。
こうした事態を受け、明石市漁連は根掛かりしにくい疑似餌の開発を業者に依頼した。獲物が外れにくいように針の先端を加工した「返し」をなくすなど具体的な解決策を探っている。
市漁連の戎本裕明会長(58)は「海底に放置すればエギはプラスチックごみ。たかが1個と思わず、海を守るマナーを意識してほしい」と話している。
■プラ製漁具海洋汚染深刻 専門家「釣り人、海守る意識を」
海洋ごみは大きくは「漂着」「海底」「漂流」ごみに分類される。釣り具も含め、プラスチックごみの海洋汚染は深刻化している。
環境省は2010~19年度、全国28地点の海岸で漂着ごみの個数を調査。人工物のうちボトルキャップが最多の18%、プラ製ロープが17%で、ルアーなど「プラ製漁具」は4%だった。
海底ごみも14~19年度に全国13湾で調査。東京湾でプラ製漁具は10%を占めるなどしたが、漂着ごみ、海底ごみとも総量は把握できていないのが実情だ。
昨今クローズアップされているのは「マイクロプラスチック」。プラごみが海へ流れ、波や紫外線で破砕された微少な断片として漂流する。一説には世界中の海に少なくとも年間800万トンのプラスチックが流れ込んでいるとされる。
07年、国は沿岸域の総合的管理を初めて規定した「海洋基本法」を施行。陸から海へ流れ出るごみの対策は、国や地方自治体、国民らの連携で対応すべき問題とされている。
水圏環境教育が専門の東京海洋大学術研究院の佐々木剛教授(54)は、水産資源の保護と絡めて海洋ごみの問題を論じる。「例えば明石名産のタコを守り育てる意識を、地元市町が中心になって高める。それが釣り人らの海を大切にする意識につながる」とし、行政と市民が一体となった環境に優しい仕掛けづくりなどを提言する。(長沢伸一)