レビュー

クヌルプ

クヌルプ

Hesse Hermann/高橋 健二/ヘッセ

出版社:新潮社

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評価5 最高!

未来にも残すべシB 個人的には超好ミA 初心者でも読めルA

アウトサイダーとしてのヘッセの生き方が凝縮された一作

郷愁の作家ヘルマン・ヘッセは少年時代の思い出を作品世界に色濃く反映させている。神学校を逃げ出し、詩人以外の何にもならないという固い意志のもと、書店員をしながら詩人として認められてゆく。ヘッセの生涯は、定められた道に沿ってそのまま社会的な地位を固めてゆくというものではなかった。その逆に自身の道を突き進み、道無き道を切り拓いた。その過程は孤独で耐えがたいものであったのかもしれない。ヘッセの本質であるアウトサイダーとしての生き方が、『クヌルプ』において主題として取り上げられているようだ。

主人公クヌルプは定職につかず、街から街へと流浪しながら自由に生きる。行く先々で様々な人々とふれあい、どんな者からも好感をもって遇される。そしてクヌルプは誰に知られるともなく、静かに街を去ってゆく。漂泊の人生は、人々の記憶に強く刻み込まれ、年を隔て再会したときにも懐旧の念がよみがえる。

クヌルプが流浪の人生を送る理由は、初恋に破れたという少年時代の苦い経験にある。クヌルプはラテン語学校の生徒であった頃、当時出会った年上の女性に恋をした。しかしその女性は学校の生徒なんかと恋はできないと言ってとりあわなかった。その言葉をうけて、クヌルプはついに学校を辞めてしまう。しかしその女性は、年上の職工と恋愛関係にあったのである。

社会の一般的な生き方から外れてしまったアウトサイダーとして、クヌルプはその生涯を送っている。しかしついには病に苦しみ、自らの死期を悟る。流浪するクヌルプはかつての思い出が詰まった故郷の地を踏む。家族や友人と過ごした当時から、故郷は様変わりしてしまっていた。ひとつとして変わらないものはないということが、流浪するクヌルプの生涯に重ね合わせられて感慨深い。そしてクヌルプは雪の降るなかに行き倒れる。自己の生の是非を問いかけるクヌルプに対して、幻想的にかすむ意識のなか、神がそれに答える。クヌルプの人生は、流浪という自由を通じて人々に自由を憧れさせるものであったのだと。それを聞いたクヌルプは、不安や悲しみのない幸福のうちに死を迎える。

「何が真実であるか、いったい人生ってものはどういうふうにできているか。そういうことはめいめい自分で考え出すほかはないんだ。」

クヌルプのこの台詞は作中にあって象徴的だ。どのように生きるかは他の誰かが決めるものではない。自らの信じる生き方を貫き通すことができたなら、それが真実となるのだろう。だがそこには、傲慢さや悪意が介在してはならない。ヘッセの理想とする生き方は、クヌルプがそうしたように人々を幸福へと誘うような、自然と調和する生き方なのかもしれない。クヌルプが聞いた神の声も、クヌルプ自身が心の奥底に秘めていた本当の気持ちであったのかもしれないと感じた。


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