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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第二章

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第61話 ほんの僅かな隙間の時間に

 ――ゴーレムの破壊に成功したのを契機に、魔族の攻撃がぴたりと止んだ。


 陣地攻略を諦めたわけではないだろう。

 恐らくは、もうすぐ到着する予定の増援部隊を待っているのだ。


 攻撃の続きは合流を果たした後――それが最後にして最大の攻撃となるだろう。


 この僅かな小康状態の間に、俺達は陣地防衛の責任者と直に話をすることになった。


「拠点長のドワイトだ。貴殿の助力に心から感謝する」


 半分近く焼け落ちた天幕の下で、強面の騎士に求められて握手を交わす。


「身勝手な要求で申し訳ないが、敵増援を退けるまで力を貸していただけないか」

「構いませんよ。今更手を引ける状況でもありませんしね。とりあえず、現状はどうなっているんですか?」

「ありがとう。この地図を見てもらいたい」


 ドワイト拠点長は長机に大きな地図を広げた。


 俺と一緒になって、ガーネットとサクラ、そしてようやく追いついてきたノワールも地図を覗き込む。


「『魔王城領域』は湾曲した長方形に近い形をしており、おおよそ半分ずつの割合で岩山と平地に分かれている。魔王城や魔族の町があるのは平地側だ」


 地図上に赤と青の三角形の小さな板が幾つか配置されていく。


 それぞれの位置からして、青は王国軍、赤は魔王軍の部隊を表しているらしい。


「岩山地帯は深い谷で更に二分され、その片方が我らウェストランド王国の支配領域となっているのが現状だ。ここまではいいな」

「ええ、理解しています。平地への侵攻が停滞状態になったから、状況打破のために谷の対岸へ渡るルートを拓こうとしたのですよね」


 ここまでは、先程ガーネットがノワールにした説明の焼き直しである。


ドワイト拠点長は小さく頷いて話を続けた。


「貴殿の貢献でこちらの増援の第一波も無事に到着し、無事に陥落を免れることができたわけだが、それにしては奇妙な点が一つある」

「と、言いますと」

「今現在、魔族側の増援部隊も接近中である。しかし、包囲の解除を受けて派遣されたにしては『早すぎる』のだ」


 言われてみれば、確かにそうだ。


 俺が吊橋を【修復】してからさほど時間が経っていない。


 増援の派遣はその事実が報告されてからになるはずなのに、もう既に目と鼻の先まで迫っている。


「……近衛兵の投入は最初から予定通りだった、ということですか?」

「かもしれん。他にも可能性はあるが、今は断定できるだけの情報はない。予想外の事態が起こりうることを念頭に置いて欲しい」


 その後、俺はドワイト拠点長から陣地内の設備の説明を受け、どの設備を優先的に【修復】してほしいかという優先順位を伝えられた。


 やはり軍隊と冒険者パーティとでは何かと勝手が違う。


 冒険者パーティは、高ランクダンジョンに挑むパーティであるほど、メンバーの全員に最低限の能力が求められる。


 未知の領域をある程度は自力で踏破できなければ、危なっかしくてダンジョンに連れて行くことができないのだ。


 方法は魔法でも身体強化系スキルでも単純な技術でも構わない。


 俺はそれができなかったからこそ、冒険者としては遂に大成することができなかったわけだ。


 一方、騎士団率いる軍隊は、一点特化でそれ以外に得意分野がなくても活躍の余地がある。


 この違いの原因は、恐らく『規模』だ。


 冒険者パーティの人数は数名から十数名、更に増えて数十名ともなると極めて稀である。


 しかし軍隊は数十名でも運用の最低単位でしかなく、部隊の総数は数百数千と膨大なものとなる。


 人数が多い分だけ、不得意分野を他人に補ってもらう余裕がある。

 この予測はおおよそ間違っていないだろう。


 だが――


「(冒険者として名を挙げることを諦めるなんて、昔の俺は考えもしなかっただろうな)」


 俺が冒険者を志した理由は、打算ではなく憧れだった。


 適性があるからやっていたわけではなく、とにかく『それ』をやりたかったのだから、他に向いている分野があっても関係なかったのだ。


「ルークさん」


 天幕を出たところで不意に呼び止められる。


 声の主は小柄な少年。

 東方人の冒険者であるナギだった。


「不知火が使っていた刀を見ましたよ。あれは緋緋色金を用いた刀なんでしょう。俺の忠告は聞き入れてもらえなかったみたいですね」

「霧隠! これは私とルーク殿の間の問題だ。余計な口は挟まないでもらおう」


 以前、俺はナギから『サクラにヒヒイロカネの刀の作製を依頼されても断った方が賢明だ』と告げられていた。


 更に『サクラをあの女を仲間だと思っているなら尚更だ』とも。


 そのことをサクラに尋ねてみたところ、サクラは『大昔にそれを用いた儀式で大きな失敗をしたことがあるので、ナギが過剰に懸念しているだけだ』という主旨の回答をした。


 俺はそれを受けて、依頼通りに総ヒヒイロカネ製の刀を作ったわけだが――


「神降ろしの儀は危険だ! お前は誰よりも理解しているはずだろう! 父親の二の舞を演じたいのか!」

「……っ! 違う! 父上の件は不完全な媒体を使ったからだ! 完全な総緋緋色金造の刀であれば、たとえ『文様』が歪んだままでも成就できる!」


 サクラとナギは今にも斬り合いに発展しそうな雰囲気で、激しく言葉を交わしていた。


 生粋の東方人である以上は、自分達の母国語がちゃんとあるはずだが、二人ともあえてウェストランドの言語で激情をぶつけ合っている。


 恐らく、俺達に会話の内容を聞かせたいのだろう。


 ナギはサクラの目的が危険だと印象づけるため、サクラはナギの主張が誤っていると印象づけるため。


 会話の内容自体は理解しきれないが、そういう意図があることは自然と読み取れた。


「お、おい……ルーク……これ、い、一体どうしたら、いいんだ……」

「やめな。オレ達が首を突っ込めることじゃねえ。何かするとしたら、あいつらから求められてからだ」


 おどおどと視線をさまよわせるノワールを、ガーネットが強い口調で制止する。


「成就できるだって? その根拠がどこにある! お前一人で死ぬならまだしも、ここの人間にまで迷惑をかけるつもりか!」

「そんなことはしない! 万が一のことがあれば私一人で命を断つ! その覚悟があってここまできた!」

「おい、サクラ!」


 命を断つと言われ、さすがに居ても立っても居られずに口を挟もうとした矢先、全く別の介入が深刻な雰囲気をぶち壊しにした。


「ナギィ! よかったぁ! 無事だったんだ!」

「うおっ、メリッ――」


 どこからともなく、ナギのパートナーであるメリッサが割り込んできたかと思うと、ナギの頭をぎゅうっと抱きしめた。


 二人の身長差は頭ひとつ分あり、メリッサの方が背が高い。


 そんなメリッサが正面からナギを抱きしめれば、自然とその顔はメリッサの豊満な胸に埋まってしまうわけで。


「この馬鹿! 一人で勝手に谷を渡っちゃうなんて何考えてるの! 心配してたんだから!」

「や、やめ……苦し……人がいるだろ……!」


 ナギはメリッサの背中を必死に叩いているが、それでもメリッサの熱烈な抱擁が緩む気配はない。


 俺とサクラは完全に気勢を削がれてしまい、ガーネットとノワールに目配せをして、二人の邪魔をしないようにこの場を離れることにした。


 その直後――


「敵増援を見張り台から目視した! 総員、速やかに配置につけ!」


 ――重く響く角笛(ホルン)の音と共に、休息の終わりを告げる声が響き渡った。

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