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【修復】スキルが万能チート化したので、武器屋でも開こうかと思います 作者:星川銀河

第二章

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第58話 吊橋上の攻防戦

 最前線への急接近に緊張を覚えながら、俺は随伴の騎士が指差す先に目を凝らした。


 川を遥か下方に臨む崖の縁に、大勢の人間が集まっていた。


 騎士に兵士、冒険者――一目で数十人規模と分かる大集団だ。


 彼らのうち防御系スキル持ちと思しき連中が、崖の縁に沿って警戒態勢を敷き、崖の対岸からの攻撃に備えている。


 それ以外の者達は、吊橋が【修復】されるのを待っている援軍のようだ。


「ルーク殿をお連れした! 状況はどうだ!」

「依然として変わりません! 魔王軍もこちらの出方を窺っているようです!」


 案内の騎士に連れられて、急いで吊橋のところへ駆けつける。


 そこには見覚えのある冒険者達の姿があった。


「ダスティン! 協力要請を受けた高ランク冒険者ってのは、お前のことだったのか」

「魔王軍と刃を交えるというなら拒む理由はないさ」


 二槍使いのダスティンは俺を一瞥し、すぐに崖の向こう側へと視線を戻した。


 相変わらず、間違えて真昼に姿を表してしまった幽霊のように『熱』を感じない言動だ。


「東方人の冒険者が二人、先行して救援に向かっている」

「サクラとナギか……! 本当にあいつらだけで行かせたのか!」

「自ら志願してのことだ。手の空いていた冒険者のうち、自力で崖を越えられるスキル持ちはあの二人だけだったからな」


 ダスティンは感情の薄い声で淡々と事実だけを口にしていた。


 サクラの【縮地】スキルなら簡単に崖を越えられるだろうし、性格的にも自分から救援を申し出てもおかしくない。


 周囲に目をやると、ナギのパートナーであるメリッサが不安そうな顔で佇んでいるのが見えた。


「(……まずは【修復】だ。余計なことを考えるのはその後でいい……!)」


 落とされた吊橋の袂に駆け寄り、破損状況を確認する。


 吊橋の大部分は崖のこちら側に垂れ下がっていた。

 どうやら、単純に向こう側のロープを断ち切られて落とされただけのようだ。


「これならすぐに終わります。増援部隊の突撃準備をしてください」


 ポーチから赤い魔力結晶を取り出し、全力で【修復】の魔力を注ぎ込む。


 魔力結晶は王宮からの支給品だ。

 こういう場面で惜しみなく使い潰すことに躊躇いはない。


 垂れ下がった吊橋が魔力の光に包まれ、風に煽られたカーテンのように浮き上がったかと思うと、次の瞬間には元通りの位置で設計通りの形状を取り戻していた。


「――【修復】完了!」


 俺が吊橋の袂から離れると同時に、増援部隊の面々が大挙して吊橋を渡っていく。


 【修復】失敗の可能性をまるで考えていない思い切りっぷりだ。


 あるいは、強度を確認する時間すら惜しいと判断したのか。


「攻撃、来るぞ! 迎撃態勢!」


 指揮官の号令が響いた直後、対岸の岩陰から遠距離攻撃の雨が降り注いだ。


 魔力を込められた矢。風圧加速を帯びた石礫(いしつぶて)。大小様々な火炎弾。


 それらを騎士達のスキルと技術が迎え撃つ。


 盾の形をした魔力防壁による防御。剛剣の衝撃波。卓越した剣さばきによる切り払い。


 後方からの魔法による支援も騎士達の突撃を後押しする。


 中でも特に目を引いたのはメリッサの魔法だ。


 弧を描いて落ちてくる魔族の火炎弾を、メリッサが放った突風の渦がまとめてかき消し吹き飛ばす。


「なんて出力……【元素魔法】か?」

「感心してる場合か! 向こうからの攻撃に巻き込まれるぞ! さっさと離れろ!」

「いいや、まだだ!」


 騎士達がまだ渡っている最中だというのに、火炎弾の流れ弾が吊橋に当たって炎上しそうになる。


 俺はその度に橋の袂から【修復】の魔力を注ぎ込み、破損を速やかに【修復】し続けた。


 やがて、増援部隊の大部分が吊橋を渡り終え、魔族からの攻撃も対岸側に集中するようになっていく。


 ここまでくれば吊橋の【修復】を続ける必要もないだろう。


 俺はガーネットに腕を引っ張られながら、吊橋の袂から離脱した。


「サクラは……無事だといいんだが……」

「あいつがそう簡単にやられるわけねぇだろ。要らねぇ心配だ」


 ひとまず、ガーネットとノワールの二人と一緒に現場を離れ、少しばかり離れたところから戦闘の経過を観察する。


 戦況は黄金牙騎士団の圧倒的優勢だ。


 魔王軍側は明らかに迎撃のタイミングを見誤っており、初動の出遅れがそのまま結果に直結していた。


「見ろよ白狼の。あいつら、まさか一瞬で吊橋が直されるとは思ってなかったんだろうな。こっちが崖を渡ろうと四苦八苦してるところを撃ちまくるつもりだったんだろうが、アテが外れて大慌てみてぇだ」


 恐らく、戦況分析はガーネットが愉快そうに語る内容が正しいのだろう。


 敵部隊は明らかに迎撃態勢を整え終えていて、後はいつどうやって攻撃を加えるか見定めるつもりだったに違いない。


 その作戦計画の足元をすくったのが俺の【修復】だ。


 これは自惚れでもなければ自意識過剰でもない。

 どう考えてもそうだったとしか思えない展開になっていたのだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ふと振り返ると、走り疲れたノワールが必死に呼吸を整えていた。


「大丈夫か?」

「へ、平気……」

「そういえば、さっき色々渡してもらったけど、結局どれも使わなかったな」


 ポーチからアミュレットを外して手にとってみる。


 中心に魔力結晶と似た赤い石が埋め込まれた、複雑な意匠の金属細工。


 改めて見るとアクセサリーとしての出来栄えもよく、そういう方向性でも需要がありそうな気がした。


「……使わないなら……それに越した、ことは……」

「まぁ、それもそうか」


 やがて増援部隊は橋周辺の迎撃網を突破して、包囲された陣地があるという方向へと急行していった。


 魔族側の迎撃部隊もそれを追って移動し、急に周囲が静けさに包み込まれる。


「これで一段落、かな」


 そろそろ地上に引き上げようかと思った矢先、俺達をここまで先導した騎士が橋の向こうから戻ってきた。


「ルーク殿。追加の作業を依頼させていただきたい。報酬は上乗せでお支払いします」

「……内容は?」

「陣地の解放が完了し次第、防衛態勢を持ち直して次なる襲撃に備えなければなりません。ルーク殿には【修復】スキルでそれを手伝っていただきたいのです」


 俺は返答を考えながらポーチの中身を軽くまさぐった。


 手持ちの魔力結晶は残り四つ。足りるかどうかは陣地の状況次第だ。

 ホロウボトム要塞に戻ればまだまだストックがあるはずだが、そんなことをしている暇はない。


 ガーネットに視線を向けると、好きにしろと言いたげな顔で頷き返された。


「……分かりました、すぐに行きましょう」

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あくまで本作がメイン、こちらはサブの連載ということで進めていきます。
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